「コロナ禍での人材採用」に映る日本人の働き方の意識変化と生産性

22.10.28 01:20 PM By s.budo

「コロナ禍での人材採用」の現状と「仕事選びの変化」について各社の発表したリサーチ結果を概観しつつ、日本人の働き方の意識変化と生産性について俯瞰してみます。

1.日本の雇用意欲、11業種中9業種において雇用意欲改善の見込み


マンパワーグループが発表した2022年第2四半期雇用予測リサーチ結果によると、季節調整後の*純雇用予測は+6%で、前四半期比より-3ポイント、雇用意欲はコロナ禍の影響により2期連続で前四半期よりマイナスとなっています。

*純雇用予測:「増員する」と回答した企業数の割合(%)から「減員する」と回答した企業数の割合(%)を引いた値

2.20代30代の約半数が転職を意識している

そのような環境の中、より良い仕事環境をさがして転職を意識している人が増加しています。Marketing Media Labによると、20代-30代の10%が現在転職活動を行っており、転職活動は行っていないものの転職に興味があると回答した人は35%と、およそ半数が転職予備軍であることが判明しました。


多くの企業では若手人材の流出防止が大きな課題であり、反面、人材難に悩む企業にとってはチャンス到来と言えます。

3.「働きやすい企業の探し方が分からない」と答えた就活生は78%

優秀な人材を見つけ出すのが難しいと考えている経営者、採用担当者は多いのではないでしょうか。何が人材採用のボトルネックとなっているのか、就活攻略論を運営する株式会社L100の「2023年度卒業の就活生が企業を選ぶ上で最も重視するポイントは?」の調査結果によると「働きやすさ」が圧倒的な第1位で「仕事のやりがい」「会社の安定性」「給与や賞与の高さ」を大きく上回りました。


一方で「働きやすい企業の探し方が分かりますか?」という質問に対して、「全く分からない」が23.7%、「どちらかと言うと分からない」が55.1%と回答しており、合計すると「働きやすい企業の探し方が分からない」という就活生は78%にも上っています。

4.第6波における正社員のテレワーク実施率は全国平均で28.5% 
従業員のテレワーク継続希望率は過去最高

「働きやすい企業」のバロメーターとなったのがテレワークの実施率です。パーソル総合研究所のリサーチによると、新型コロナウイルス感染症の感染第6波が急拡大していた2022年2月4日-7日時点でのテレワーク実施率は、正規雇用社員(以下正社員)で28.5%。昨年夏の第5波の27.5%からほぼ横ばい(+1.0ポイント)、また、テレワークを積極活用(テレワーク推奨+命令)する企業は38.6%と、第5波の37.3%からほぼ横ばいです。他方、テレワーク実施者のテレワーク継続意向は2022年2月が80.2%と過去最高になりました。

ここに、企業側と社員との意識のギャップが生まれている可能性があります。

5.幸福度ランキングで日本は54位 1位は5年連続でフィンランド

国連の持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)がまとめた2022年版の世界幸福度ランキングで、フィンランドが5年連続の1位になりました。ランキングは健康寿命、1人当たりGDP(国内総生産)、困った時の社会的支援、汚職の少なさと社会的信頼の高さ、人々が助け合う地域社会の寛容性、人生で大切なことを決める際の自由度に基づいています。

「フィンランド人はなぜ午後4時に仕事は終わるのか」(堀内都喜子著、ポプラ社発行)は、フィンランドが幸福度ランキング世界1位である理由を、フィンランド人の働き方に焦点を当てて紐解いた本で10万部を超えるベストサラーになっています。フィンランドは、コロナ禍以前から在宅勤務3割を実現していました。有休消化は100%で、平均睡眠時間は7時間半。それでも、一人あたりのGDPは日本の1.25倍です。

因みに、フィンランドはコロナ感染拡大直前の20年1月に労働時間の半分以上を好きな場所で働くことを認める「在宅勤務権」を施行しています。(同権利は、オランダでも法制化されています。)

6.テレワークで「生産性が低くなった」40%、日本は世界10カ国中最下位

テレワークが普及し定着しつつある半面、国内では仕事の生産性の面で疑問や課題も指摘されています。

  パーソナルコンピュータメーカーのレノボが世界10か国で実施した国際調査「国際調査 テクノロジーと働き方の進化」(2020年7月 レノボ・ジャパン)では、オフィス勤務に比べて在宅勤務で生産性が高まったとの回答が全体平均で63%と高い一方で、在宅勤務で生産性が低くなったと13%が回答しており、なかでも日本は40%と平均から大きく乖離し10か国中最下位になっています。

同調査では、他国に比べて日本の企業が十分なIT投資を行っておらず、従業員がIT機器やソフトウエアを自己負担する割合が高いと指摘しており、IT環境整備の遅れがリモートワークでの生産性低下の大きな要因と分析しています。また、生産性が低い要因として「メンバーシップ型」と呼ばれる日本型雇用組織のマネジメントも指摘されています。

もっとも、日本の生産性の停滞は90年代以降から指摘されており、日本生産性本部によると2020年における日本の労働生産性(時間あたり)は49.5ドルと、主要先進国(G7)中最下位で、2020年ではOECD(経済協力開発機構)加盟国中で過去最低(38カ国中23位)となっています。

「働きやすい企業→テレワーク積極活用企業→生産性が向上する企業」という構図を、IT環境整備からデジタルトランスフォーメーションによる業務の自動化において実現することは、日本企業にとって積年の停滞から脱出する大いなるチャレンジングです。そして、このチャレンジ(リスク)を回避した場合は「働きやすい企業→テレワーク積極活用企業→生産性が低下する企業」または「テレワーク消極活用企業→働きづらい企業→生産性が停滞し続ける企業」という更なるリスクをもたらしそうです。
プロフィール

筆者:武道 誠芳 株式会社テンプロクシー 代表取締役

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