中小企業に見るデジタルトランスフォーメーション(DX)の超克(後編)
後編も、中編に引き続き、中小企業A社を一例にご説明させて頂きます。
データ分析による効果的なマーケティング施策(補遺)
中編では、顧客セグメントに対応したダイナミック・プライシングの価格戦略を取り上げましたが、見込み顧客が優良顧客になるまでの段階に応じた綿密なプロモーション戦略も可能となります。New York Times がデジタル化に大事業転換し成功した例では、顧客を6段階に定義し、各顧客状況に適したプロモーションが展開されました。
参考までに、Timesのレポートでは、持続的な改善(青線)と破壊的な変革(赤線)の進展を品質と時間軸でグラフ化し、顧客の必要最小限のニーズを満たした時点(発火点)で、破壊的な変革商品が持続的な改善商品の市場を奪うと分析しています。※「New York Times Innovation Report」より各転載
事業規模も業種も異なるA社ですが、予約管理システムの利便性によるサービス向上による売上拡大および省力化のコスト削減だけでなく、顧客ごとに個別価格の適用や、顧客の段階に応じた適切なプロモーション等、より効果的に顧客関係を築くことで更なる競争力の向上を目論んでいます。
業務の現状・問題点分析による新業務フローの確立
国内でワークフローと言えば、電子化された申請書や通知書の承認プロセスシステムが最初に想起され、最近ではRPA(Robotic Process Automation)やAIの業務適用が注目されていますが、海外ではそれらに加え、ほぼ全ての業務のルーチンワークを自動化するワークフローオートメーション(WA)の導入が進展しています。
WAは、組織の規模に関わらず様々なメリットがあります。
【WAのメリット】
- 業務プロセスの可視化と管理の改善
- 業務のボトルネックの発見と効率の向上
- 業務定義による各従業員の業務品質の向上
- WAによる連携、内部コミュニケーションの向上
- WAによるコスト削減 業務プロセスの可視化と管理の改善
デジタル化を利した新商品・サービスは膨大なデータ収集と分析を可能とし、同時に従来業務にも変革を求めます。
WAは、DXを実現する上で格好なツールですが、その適用は、従来業務のパフォーマンスを向上させつつ、DXの新サービスによる新業務(タスク)を設計し、そのタスクで処理するデータおよびタスク間のプロセスフローの構築、更に、組織の情報共有や権限、コミュニケーション環境の整備など広範囲におよぶため組織間の柔軟な調整を必要とします。
DXは、中途半端が許されない、後戻りできない取り組みであり、経営トップのビジョンとリーダーシップ、そして覚悟が問われます。DXが企業文化の再創造と言われる所以です。
A社では、内部組織の活性化も狙い、外部パートナーも交えた体制のもと企業文化の再創造に挑んでいます。
働き方改革
2019年4月から「働き方改革関連法」が順次施行されますが、読者の方々の企業での取り組みはいかがでしょうか?
以下に、「働き方改革への意識や企業の取り組み状況とは?会社員1,000名に調査(マクロミル調査2018/6)」の上位5位、および「2018 年版働きがいのある会社(従業員 1,000 名以上)」で 1 位のシスコシステムズ社の“効果”を見てみました。
詰まるところ、「働き方改革」のゴールは「働きがいのある会社」と言え、シスコシステムズ社では、
①企業文化(多様性を認めあう文化)②制度(各種人事制度、組織形態)③技術の活用(ツールの導入、発展)
の3つの要素を重視しています。
デジタルトランスフォーメーション(DX)は、企業文化を再創造し、新業務組織を起動し、社員が「働きがいのある会社」に変身することで達成されますが、それには社員の「スキル改革」も不可欠であり、現在、人材開発手法としてSTEM教育(Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学))が注目されていますが、それはDXを牽引、発展させるスキル人材と言えるかもしれません。
IT投資
ジタル化計画(目標設定、IT投資予算、体制、工程、ノウハウ等)の策定が容易でないDXですが、「Constellation Research 2018 Digital Transformation Study」調査レポートでは、DXへの投資に対して企業の68%が有効(Yes)と回答しており、以下の投資効果を期待していま
①より効果的に顧客に到達し、関与する、50%②現在の市場で競争上の優位性を築く、46%③データ駆動型の新しいビジネスモデルを導入、36%④増収、35%⑤従来のITを近代化し、コストを削減、31%
A社もこれらの投資効果を目指していますが、現在のところ、何年でリターンが得られるかは未知数です。
企業力、デジタルサービス力、業務変革力等により、DXの成否は全く異なり、中途半端が許されず、後戻りできず、かつROIが不確実であるという事から、DXへの投資は、経営者に真の投資(経営)判断を迫ります。
総括
A社の取り組みを一例にDXを3回にわたりご説明させて頂きましたが、製造業に関わる多くの読者の方々は「インダストリー4.0」の概念との類似性にお気づきかと思います。
デロイトトーマツグループが発刊した「インダストリー4.0のパラドックスーデジタルトランスフォーメーションを成功させるために」でも、その類似性を踏まえつつ、企業の戦略、サプライチェーン、人材、イノベーションの課題についてレポートしています。
A社の取り組みを一例にDXを3回にわたりご説明させて頂きましたが、製造業に関わる多くの読者の方々は「インダストリー4.0」の概念との類似性にお気づきかと思います。