ECの進展と岐路

22.10.28 01:20 PM By s.budo

様々な調査結果をもとに「ECの進展と岐路」について考察してみます。

物販系BtoCの電子商取引(EC)化率


経済産業省の資料、市場調査によれば2020年のBtoC市場を合算したEC化率は世界全体で16.1%、日本国内はその約半分の8.08%でした。コロナ禍で物販系分野が伸長した一方、旅行サービスを中心にサービス系分野は大幅に減少しました。
市場規模は、世界が4.21兆USドル(日本円換算にして約440兆円)であるのに対して、日本のは約19.3兆円となっており、世界全体は日本の約22倍以上もの巨大なマーケットが形成されており、2022年予測では5.70兆USドルと著しい成長が見込まれています。

因みに、2020年の米国のEC化率は14.5%で意外にも世界全体のEC化率をやや下回っており、市場規模は約74兆円となっています。
一方、中国のEC化率は44.0%、市場規模は世界のEC市場の半分以上を占める約253兆円という驚異的な数字となっており、日本のGDPの50%に相当します。

IT化の遅れが指摘されて久しい日本ですが、世界との差は広がる一方です。

国内ECモール型、ECサイトの売上ランキング

ここで国内のECビジネスをけん引する各社の売上高ランキングを見てみます。ECビジネスは大きく分けてECモール(出店形式で商品を販売)と通常のECサイト(出品及び自社取り扱い商品を販売)があります。

ECモール

順位社名売上高シェア
1楽天3兆9,000億円37%
 2Amazonジャパン(推定)3兆4,238億円32%
 3Yahoo!ショッピング8,901億円8%
 4ZOZOTOWN3,248億円3%
 5Wowma! (現au PAY)(推定)1,287億円1%

※シェアは2019年の市場規模10兆515億円をもとに算定

ECサイト

順位社名売上高
 1 Amazonジャパン 1兆7,443億円
 2 ヨドバシカメラ1,386億円
 3ZOZOTOWN
1,255億円
 4 ビックカメラ1,081億円
 5ユニクロ
832億円

※AmazonジャパンとZOZOTOWNはECサイトとしての売上高

ECサイト売上高の上位にアパレルに特化しているZOZOTOWNとユニクロの2社がランクインしています。国内アパレル市場は2010年以降14兆円前後で横ばいが続いていますが、2020年のアパレル市場のEC化率は19.44%と大きく伸長、市場規模2.22兆円におよんでいます。
アパレル市場でECの市場規模が拡大している背景には、①高コスト体質のリアルの小売店舗減少。②ITの普及によるECモール、ECサイト展開の増大、③実店舗とECの併用 が挙げられています。

高校生がよく利用するECサイトはSHEIN

若年層におけるEC利用について、アイ・エヌ・ジー社(https://www.i-n-g.co.jp/)の「渋谷トレンドリサーチ」が行った『高校生の買い物事情に関するトレンド調査(期間:2022年4月、回答人数 :140名)』では、この傾向がより先鋭化しています。

調査の中で最も利用されている通販サイトはグローバルファッションブランドのSHEIN(67.2%)でした。理由には、「安くて品がしっかりしているからとても買いやすい(高3・男子)」「着心地が良くてびっくりする(高3・男子)」といったコメントや、「56円のイヤリングを購入したが、可愛くて今でも使っている(高3・女子)」というエピソードが寄せられました。

そして、上位5サイトのうち、アパレル系ECサイトは3位にZOZOTOWEN(39.2%)、4位にGRL(28.8%)もランクイン、実に5つのサイト全てが実店舗を持たないEC特化企業です。

SHEIN(シーイン)とは?

既にご存じ読者も多いと思いますが、改めて、SHEINの企業概要をコーポレートサイトとwikipediaの情報を交え紹介します。

SHEINは、2008年10月、中国南京市でITエンジニアであったクリス・シュー氏によって設立された中国のオンラインファストファッション企業(D2C)で、圧倒的な低価格を強みに世界150か国以上で販売展開しています。2022年時点で時価評価額は1,000億ドル(約12兆3,700億円)を突破(ユニクロを展開するファーストリテイリングの約2倍)、全世界のアパレル製造小売業の1位となっています。中国発の企業でありながら、国内向けの販売は行っておらず中国での認知度はほとんどありません。

2021年にはAmazonを抜き最もダウンロードされた携帯用アプリランキングで首位になり、6月には売上高でH&MやZARA、FOREVER 21を追い抜きました。


※Source: Bloomberg

消費ニーズをリアルタイムに実現する販売・開発・製造戦略

SHEINは、ミニマムロットを100単位とした多品目展開を軸に、毎日3,000~5,000の新作をサイトで販売、「スーパーファストファッション」や「リアルタイムファッション」と呼ばれる新たな概念を創出しています。プロモーションでは、国ごとに独立したSNSを運営、YouTube、Instagram、Snapchat、TikTok、Facebookなどで活動するKOC(Key Opinion Consumer)の積極的な情報発信による認知度の向上を図っています。
開発は、南京、深圳、広州、杭州4都市の計800名の調査チームがビッグデータやAIを活用してマーチャンダイジングに関するデータ分析し、今後流行するデザインや生地、色彩などを予測した商品を開発しています。
SHEINは、小規模な工場と提携して多品目小ロット生産を前提とした戦略のもと、300から400のコアサプライヤーと1,000を超える協力サプライヤーと提携し巨大サプライチェーンを形成しています。
SHEINでは全ての工程を中国国内(主に広州市番禺区)に構築、企画から出荷まで最短3日、平均2週間という驚異的なリードタイムを実現、販売状況はリアルタイムで共有され、売れ行きが良ければ在庫調整や生産指示が自動で入る仕組みとなっており、Factory-to-consumer(英語版)(F2C)やConsumer-to-Manufacturer(C2M)呼ばれる概念を創出しています。

ECの岐路

不思議な点や様々な問題も指摘されるSHEINですが、そのビジネスモデルの特徴は以下の4点に集約されます。

  1. オンライン販売に特化
  2. マーケティングからマーチャンダイジング、製造、物流までの業務プロセスをシームレスに連携
  3. 若年層向けの安価な商品を製造・販売
  4. 自国以外の国に販売展開

若年層を皮切りに、「次々と登場する圧倒的に安価な商品が気軽にネットで買える」という購買スタイルが、これから拡大、普及していくのかどうか、ECは大きな岐路に立っている様に思われます。
プロフィール

筆者:武道 誠芳 株式会社テンプロクシー 代表取締役

s.budo