コラム2:~“誰か(何か)のために”と願う時代のマーケティングとは

19.01.16 04:38 PM By s.budo

社会課題解決や社会貢献意識に応えるマーケティング! 喜多 左知子(マーケティングリサーチコンサルタント) 

平成最後の年、私たちは。


2018年は多くの災害に見舞われたことは、皆さんの記憶に新しいことでしょう。1月末には首都圏に大雪。2月には福井を中心に記録的大豪雪となり、1500台ものクルマが立ち往生して物流に大きな影響がありました。6月にはマグニチュード6.1、最大震度6弱の大阪北部地震。7月には広島や岡山の西日本豪雨で河川の氾濫や浸水害、土砂災害が発生し、死者数が200人を超える甚大な災害となりました。8月から9月にかけては週末毎に台風に襲われ、関空が水没・停電の被害にあったこともありました。また、9月には、土砂崩れと北海道全域にわたっての大規模停電で市民生活をおびやかした北海道胆振東部地震。その時の地滑りが広範囲にわたり山々の地肌がむき出しになっていた光景は衝撃的でした。


このような災害が数多く発生した2018年の紅白歌合戦では、出場した“ゆず”というグループが「広島公演が(豪雨で)中止になってしまってそのあと延期公演で歌わせて頂いた」とコメントし、『うたエール』の弾き語りバージョン版の収益金を義援金として寄付したそうです。 “ゆず”に限らず、昨今、スポーツ選手や有名人が、よく「恩返し」や「元気を与えることができたら」という様な他の人への思いに言及することが多くなったと感じます。それは、東日本大震災を経て、災害にあわれた方々へ寄り添う気持ちが私たちの中に育ってきていることへの共感メッセージであり、私たち日本人の心に昔からあった「お互い様」「おかげ様」という意識が、新しい形で表れてきたのではないでしょうか。


災害だけでなく、海岸に打ち寄せられる大量のプラスチックごみなど、TV画面に映し出される被害や自然の怖さ、人間活動の負の部分を目の当たりにして、「自然が地球規模で変わって来た」「いつか自分達にも降りかかるのではないか」と、漠然と不安を感じ、自分事と感じられるようになりました。こうして今無事でいるからこそ、自分にできることはないか、自分でも何かしたいという思いが互いに共感をもって広がり、社会課題解決や社会貢献意識へと繋がってきていると感じます。

私たちは本当に「誰か(何か)のために」と思って行動している


度重なる災害をきっかけとして社会貢献意識を持ち始めた私たちですが、本当に何かしたいと感じ、行動しているのでしょうか?

「社会意識に関する世論調査」(平成2 9 年4 月内閣府政府広報室)では、「社会の一員として、何か社会のために役立ちたい」と答えた人がここ10年くらい65%以上に達し、社会貢献意識が安定して高いことが見てとれます。

また、商品購入については、内閣府「消費者行政の推進に関する世論調査」(2015 年9月調査)にて、「日頃,環境,食品ロス削減,地産地消,被災地の復興,開発途上国の労働者の生活改善など,社会的課題につながることを意識して,商品・サービスを選択しようと思っていますか」という問いに対して、「思っている」と「どちらかといえば思っている」を合わせて64.3%の人が選択しようと思っています。このように、社会貢献や社会的課題解決に向けてのエシカル消費(倫理的消費)への関心は高まっているといえるでしょう。

しかしながら、東日本大震災や2018年の災害のように身近な経験がきっかけになって社会貢献への関心が高まってはいるものの、購買行動を通じた実践はまだ始まったばかりという所です。例えば、社会貢献や社会的課題解決に向けてのエシカル(倫理的)消費についてのアンケート結果(図1:株式会社デルフィス 第4回 エシカル実態調査2014年)を見てみると、興味ありが45%に対して実践は21%と、行動を起こす人は興味ありの半数、全体では21%と5人に1人しかいません。また、別の調査の結果(図2:京都府府民生活部消費生活安全センター2016年調査)では、「価格が手ごろであれば」、「良くいく店舗に商品や情報があれば」と条件付きでの購入意向が6割になっており、エシカル商品の価格や商品・情報の入手しにくさが購入行動の課題となっています。

世界では「持続可能性=SDGs」が重要な企業戦略のキーワード。日本では?


突然ですが、みなさんの組織ではSDGs「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」に取り組まれていますか?SDGsは、2015年に国連が採択した先進国を含む国際社会全体の2030年に向けた環境・経済・社会についてのゴールで、目標の一つに「持続可能な生産と消費」を掲げています。これは、企業にとっては持続可能なサプライチェーンの構築を意味し、消費者にはエシカル消費を求めています。その背景には、グローバル経済の拡大に伴い、森林破壊、生物性資源や金属資源の減少、水不足、地球温暖化などの問題が起こり、その課題を解決するための目標としてSDGsが策定されたものです。

地球規模の大きなテーマで自社には関係のない話と感じられるもしれませんが、すでにビジネスの世界での「共通言語」になりつつあります。特にグローバル企業の中にはバリューチェーン全体の⾒直しを始めており、関連するサプライヤーにも影響が広がると考えられます。SDGsの普及とともに、市場のニーズ、そして取引先からのニーズ、消費者の商品選定の基準として、SDGsに取り組んでいるかどうかもチェックされてしまう時代になってきています。逆に言えば、持続性を高める取り組みをすることで、企業イメージの向上や社会課題への対応力向上、地域との連携、差別化による新しい取引や事業パートナーの獲得、B2Cであれば、エシカル商品としての付加価値の提供等、チャンスとすることができます。


一例ですが、海洋プラスチックの問題からスターバックスでは、プラスチックストローを2020年までに廃止と宣言し、他の外食チェーンにも広がりを見せつつあります。このような企業行動は、消費者に伝わりやすく共感を得られやすいものです。


今後、社会課題解決や社会貢献に関心のある人だけでなく、広く一般から受容されていくためには、消費者の理解・共感できる商品開発や企業独自のストーリーを重視したマーケティングの再創造が必要となります。

※参考資料:「持続可能な開発目標(SDGs)活用ガイド」環境省、「持続可能なサプライチェーンとエシカル消費」大和総研。

執筆者

喜多 左知子(マーケティングリサーチコンサルタント)


株式会社ウェルコインターナショナル 取締役 http://www.wellco.org

主要事業:定性リサーチ及びマーケティングコンサルティングサービス

略歴:自動車メーカーに入社、輸出業務に従事。その後、マーケティング会社に転職し、多くのクライアントのマーケティング企画、調査案件に携わる。2002年に(株)ウェルコインターナショナルの設立に参画、現在に至る

問合せ先:info@wellco.org

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