メタバースが開く新市場

22.10.28 01:20 PM By s.budo

この1年で急速に注目されているメタバースについて、それを取り巻く市場データを参考に大胆に考察してみます。

What’s METAVERSE?


メタバースについて、先ずFacebookからMetaに社名変更したザッカーバーグ氏に紹介してもらいます。(以下、Jul 22, 2021のTHE VERGEインタビューより抜粋引用)

「メタバースは、多くの企業、つまり業界全体に広がるビジョンです。モバイルインターネットの後継と言えます。メタバースは、単にコンテンツを表示するだけでなく、その中にいる、具現化されたインターネットです。『現在、私たちは小さな長方形を利用して、私たちの生活やコミュニケーションをやり取りしています。しかし、それは、人々が真に相互作用できるようには作られていないと思います。』多くの人はメタバースを仮想現実と考えていますが、単なる仮想現実ではありません。VRやARだけでなく、PCやモバイルデバイス、ゲーム機まで、様々なコンピューティングプラットフォームのすべてでアクセスできるようになり、私たちが一緒にいられる永続的な環境で、2D アプリや Web ページではできなかった様々な体験が可能です。」

2004年、Facebookはミッションステートメントに「コミュニティを構築し、世界をより緊密にする力を人々に与えること。友人や家族とつながりを保ち、世界で何が起こっているかを発見し、自分にとって重要なことを共有すること。」と宣言しており、メタバースはこのミッションを最新技術で実現する世界と言えるのかもしれません。

メタバースの市場規模と主要プレーヤー

それでは次に、メタバースの市場規模と主要プレーヤーを見てみます。Gartner は、メタバースを 2022 年のトップ 5 の新しいトレンドとテクノロジーの1つに挙げ、ゲーム、小売、アート、ヘルスケア、ブロックチェーンなどの業界のリーダーが、このエコシステムの重要なプレーヤーと位置付けています。

表転載「Influencer Marketing Hub – Metaverse Competitive Landscape」 

また、Bloomberg Intelligenceの分析、並びにNewzoo、IDC、PWC、Statista、およびTwo Circlesのデータに基づくと、メタバースの世界の市場規模は、2020 年に約 5,000 億ドル、2024 年には 8,000 億ドルに近づくと予想されています。

二強の寡占状態のデジタル広告市場

ここで、MetaとGoogleのデジタル広告の売上推移を見てみます。因みに現時点で、Metaがメタバースでどの様に広告事業を展開するか明らかでなく、また、Googleはメタバースの主要なプレーヤーと見なされていません。

Metaの2021年の広告収入は約1,149億ドルで、コロナ禍で停滞した2020 年の約841億ドルから36%以上増加しており、2017年からの5年間で約287%伸びています。

一方、Googleは約2,095億ドルで、2020年の約1,469億ドルから42%以上増加しており、2017年から約220%伸びています。

図転載「statstic - advertising-revenue-of-facebook-and-google-compared」
eMarketerによれば、2020年の米国のデジタル広告支出は 約1,424億ドルと予想されており、Googleがシェアの29.8%を占めています。世界のデジタル広告支出は、2020年に3,328億ドルと推定されており、Googleはそのデジタル広告支出の44% 以上を獲得しています。

図転載「eMarketer - Digital ad spending share in the U.S. in 2020」

 メタバースがモバイルインターネットの後継で、小さな長方形(スマートフォン)を代替するものであるとすれば、二強にとって事業モデルの転換や新たな収益機会を確立する必要がありそうです。

デジタル広告ブロックの登場

デジタル広告市場の著しい成長の一方で、国内で約20%、世界では37%以上の消費者が広告ブロックを利用しているのは逆説的かもしれません。ほとんどの消費者は現在、広告ブロッカーを使用したり、広告をスキップしたり、広告なしの有料サービス利用したりして広告を避けています。MMRによれば、グローバル広告ブロッカーの市場規模は、年平均成長率(CAGR)が37.5%、2026 年までに231 億ドル近くに達すると予想されています。

図転載「maximizemarketresearch - global-advertisement-ad-blockers-market」

因みに広告ブロッカーには有料と無料の両方の形式があり、オンライン詐欺、不正行為の蔓延、またWebユーザーのセキュリティとプライバシーの必要性が成長を後押ししています。

依存効果

広告を見ることを回避する人が多いにも関わらず、広告市場が成長するのは一見奇妙です。

ここで、アメリカの経済学者J・K・ガルブレイスが著書「ゆたかな社会」で消費と生産について論じた「依存効果」を抜粋引用します。「近代的な宣伝と販売術は、生産と欲望とをいっそう直接的に結び付けている。宣伝と販売術の目的は欲望を作り出すこと、すなわちそれまで存在しなかった欲望を生じさせることであるから、消費者が自律的に決定した欲望ではない。~ 社会がゆたかになるにつれて、欲望を満足させる過程が同時に欲望をつくり出していく程度が次第に大きくなる。~ すなわち生産の増大に対応する消費の増大は、示唆や見栄を通じて欲望をつくり出すように作用する。“欲望が欲望を満足させる過程に依存することを『依存効果』と呼ぶ”。~ あやつらなければ存在しないのだから、それ自体の重要性または効用はゼロである。」

広告を回避する理由が、 “あやつられている”や“欲望をつくり出されている”との印象であるとすれば、社会は効用の無い製品で回っていることになるかもしれません。

メタバースのハイプサイクルは?

Gartnerは、現時点でメタバースのHype Cycleを提示していない模様です。ご存じの通りGartnerのHype Cycleは、特定の技術の成熟度、採用度、適用度を時間軸で示した曲線図で、黎明期~流行期~幻滅期~回復期~安定期の5段階で表されます。

メタバースを構成する各技術はそれぞれポジションが相違していると思われ、どの技術がメタバース市場を牽引するか、幻滅期のタイミングはいつ頃かは不明です。

新市場 or 革命的な市場???

メタバースが、広告でつくりだされた欲望を満たす従来型の新市場を創造していくのか、それともそれ自体が重要で効用のある革命的な市場を創造していくのか、コロナ禍で需要が蒸発したこの2年、そしてウクライナ戦争を始め様々な要因による供給不足がインフレを加速する現在を鑑みるに、2022年は過去の歴史でも類例のない転換点になるのかもしれません。

プロフィール

筆者:武道 誠芳 株式会社テンプロクシー 代表取締役

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