NYノマド 第12回価値の源泉を探しに -ダイバーシティ、ソーシャルインクルージョン、愛されるコミュニティ

20.01.08 04:20 PM By s.budo

皆さん、新年、明けましておめでとうございます。


2020年がいよいよ始まりました。2019年は令和元年がスタートし、そして2020年には東京オリンピックを夏に控え、ポジティブなムードで新年を迎えられたのではないでしょうか。

写真:雨氷、筆者撮影

さて、冒頭では幻想的な雨氷の写真からご紹介したいと思います。
これは先月12月に私が現在住んでいるアパートから撮影したものです。

ハドソン川に面した公園の木々が見事に凍り、雨氷となっています。気温がマイナスの天気の日、雪ではなく、雨が降り、その雨が寒さでどんどん凍っていき、雨氷が出来上がっていきました。ですので、地面には積雪はありません。
雨氷は奇跡的な気象条件が重なって生まれる現象のようで、奇跡的な気象条件が出会い、とても美しい景色を織りなしてくれました。


こちらでコラムを書かせていただくことになり、おかげさまで1年を迎えることができました。
これも、ひとえに皆様との奇跡的な出会い、ご縁のおかげだと感謝しております。心よりお礼申し上げます。



全12回、私がアメリカに滞在することになり、日々経験したり、見聞きしたことを中心にコラムを執筆させていただいてきました。
この1年間、異国での生活からたくさんの学びがありましたが、いつも驚かされるのが、アメリカ人のポジティブさと、新陳代謝の良いエネルギー、そこからどんどん生まれる新たな価値です。

アメリカか価値を生み出す源泉はなんなのか。

2020年、オリンピックを控え、日本もますます、強いリーダーシップと価値を生み続ける組織が求められるでしょう。

そこで、2020年に第一回目のコラムでは改めて、アメリカでの1年間の滞在をここで起きたこと、見聞きしたことを中心に振り返り、価値を生む源泉について、アメリカで学んだこと、考えたことを皆さんにシェアさせていただくとともに、積極的に問題提起していきたいと思います。


第12回NYノマドでは、「価値の源泉を探しに -ダイバーシティ、ソーシャルインクルージョン、愛されるコミュニティ」をテーマに、Part1~5までの様々な経験や考察のシェアを通じて問題提起させていただきます。

      • Part1. ダイバーシティとソーシャルインク―ジョンが生み出す新たなマーケット
      • Part2. 社会に埋め込まれたインクルーシブデザインと新たな価値の創造
      • Part3. 多様な人を惹きつける街、コミュニティを作り続けるニューヨーク
      • Part4. 賛否両論、議論を巻き起こす~攻めるグリーン&動物愛護政策
      • Part5. 愛されるコミュニティの作りかた


アメリカ、そしてニューヨークのエネルギーや価値は、"Be myself"である一人ひとり、オープンで健康的なコミュニケーションと意見の対立、そして多様な人に愛されるコミュニティから生まれていると実感します。


さあ、2020年の始まりです。


昨年学んだこと、感じたことを、ほんの少しでも行動に移していきたいと思い、年末に少しでも"Be myself"をスモールスタートすべく、髪の毛をバッサリと切ってもらいました。今年はもう少し、ニューヨークの現地コミュニティにかかわり、意見を交わし、多様な人と関われる機会を増やそうと決意している年始の私であります。


皆様、今年もどうぞよろしくお願いいたします。


Part1. ダイバーシティとソーシャルインク―ジョンが生み出す新たなマーケット

私は久しく投稿していないFacebookユーザーですが、子どもの授乳の合間にたまにちらちらと友人知人の投稿を見たり、フォローしている団体や人の投稿を眺めています。
ある日、いつもと同じように授乳中にぼんやりとFacebookの画面を眺めていると、あっと思う広告に出会いました。

こちらです。
これはハンドクラフトぬいぐるみの広告です。
昨年突然、日本から持ってきたiPhoneが壊れてしまったため、こちらで新たなiPhoneを購入し、こちらの通信会社のSIMカードを利用していると広告はほぼアメリカのものばかりになりました。
そして子どもが生まれてから、ベビーグッズ関連の広告が多く表示されるようになりましたが、この広告を見た時に思わず手を止めてしまいました。

この羊のぬいぐるみの横にいる赤ちゃんモデルは口唇口蓋裂の障がいを持つ男の子です。

この商品は、ハンドニットのぬいぐるみで1体約50ドルから60ドル。決して安くはありませんが、1体購入されるごとに10食分の食事が食事を必要とする子どもたちに寄付されるというものです。

商品の魅力だけでなく、企業の社会的使命やミッションをビジネスを通じて体現していることに魅力を感じましたが、さらに自社商品の広告に障がいを持つ赤ちゃんを起用することで、商品をPRするだけでなく、自社がどのように世界を捉えているか、どんな世界にしていきたいかという姿勢を存分に感じ取ることができます。

この広告を見て、人種を問わず、障がいの有無を問わず、全ての赤ちゃん、子どもたちが持つ魅力や素晴らしさ、かけがえのない存在であることを再認識せずにはいられませんでした。


心にじんわり、温かいものを感じながら、そういえばアメリカではダイバーシティやソーシャルインクルージョンを強く意識し、行動している企業がたくさんあるなあと思い返していました。


画像:筆者のFacebook画面に表示されたcuddle+kindの広告



例えば、アメリカを代表するお人形のメーカー、アメリカンガール。お人形とお揃いの洋服がセットで販売され、子ども自身もお人形で遊ぶだけでなく、ファッションを楽しむことができ、マンハッタンにも旗艦店があります。


このカタログ雑誌では、一人ひとりのもつ特徴、多様性の肯定に重きがおかれ、補聴器やインスリン器具、松葉杖、盲導犬や車椅子といったアイテムをもった人形が掲載されています。


こうしてカタログの写真を眺めると、障がいを持つ、持たないに関わらず、全ての子どもの笑顔の素晴らしさに思わず笑顔になってしまいます。

画像:https://www.spirit1053.com/2019/11/08/american-girl-catalog-includes-model-with-down-syndrome/より引用

アメリカだけでなく、世界を代表するお人形、バービーも同様に、昨年2019年に義足や車椅子のバービー、ぽっちゃり体系のケンなどの新たなファッションドールラインを発表し、話題となっていました。

元々、様々な人種のバービーを展開していましたが、2019年のこの新たなラインナップでは、身体障がいを持つ人をこのファッションラインの仲間に入れることで、様々な角度、視点から美しさやファッションを語ることを促進し、障がいを取り巻くスティグマを取り除き、子どもたちに障がいがある人のことを"nothing wrong(問題ではない)"というメッセージを伝えたいとしています。

車椅子バービーの開発では、UCLA Mattel Children's Hospitalや車椅子デザインの専門家と協業、そして義足バービーの開発では、義手を持つ13歳の障がい者活動家のJordan Reevesさんと協業、バービーの義足を取り外せる仕様にするなど、よりリアリスティックな人形を目指したといいます。

同社の商品開発の姿勢にも、対象となる人への敬意と対等な関係性が貫かれているように感じます。

こうした商品開発に対し、大きな反響がありました。
The National Disability Rights NetworkのCurt Decker氏は「社会でも大きなアイコンであるバービーが、こうした様々な異なる人々を体現することで、魅力的かつ子どもたちが遊びたいと思う象徴となっていくことを促進していくだろう」とコメントしています。



他にも、バービーだけでなく、ケンも、やせ、普通、ぽっちゃり、3つの体形のラインを展開、人種も白人だけでなく、黒人、ヒスパニック系、アジア人と様々です。


さらにバービーの"You can be anything"というシリーズでは、何にでもなれるよ!という力強いキャッチコピーと共に、妖精、アーティスト、アスリート、医者など想像上もしくは現実世界の様々な職業バービーをラインナップし、子どもたちに誰もが、なりたいものなれること、職業に就けること、なりたいものの夢を描くことや働くことの楽しさを伝えようとしています。

学校の先生や看護士、警察官、消防士、フライトアテンダントといった定番の職業から、ヨガのインストラクター、宇宙飛行士、ニュースキャスター、裁判官判事、農場経営者、海洋生物学者、野生動物保護家、養蜂家などへえ~と思うような職業も含む幅広く多様なラインナップで見ているだけでも楽しいです。

子どもの頃からこうしたバービーに触れていると、世界の観方、自分と多様な人々、職業との距離が縮まりそうです。


そして何より、こうした多様なバービーやケンと接し、遊ぶことは、「私が好きなことはなんだろう?私って何?」を自然に考え、"Be myself(私がありたい私自身であること)"を育む一助になるのではないかと思うのです。


アメリカに来た日本人の友人、知人は口々にアメリカは居心地がよいといいます。

その居心地のよさは、人の目を気にしすぎたり、一人ひとりが周りに無理に合わせることなく、"Be myself(私がありたい私自身であること)"であろうとしているからだろうと私は考えています。


子どもから大人まで、一人ひとりが"Be myself(私がありたい私自身であること)"であることは、他者に敬意と慈しみを持ってかかわりあえるベースであり、コミュニティ内に力強くポジティブなエネルギーを生み出す源泉になっているのでしょう。これは私自身も子どもたちにぜひそうあってほしいと願うことの一つです。

Keep in Touch !

ビジネス、公的な活動問わず、アメリカのこれらの事例から何かのヒントがお届けできれば幸いです。みなさんからのコラムに関するご質問や、こんなことを聞いてみたい、知りたい!というリクエスト、叱咤激励などなど、24時間365日お待ちしております。ではまた次回コラムでお会いしましょう。

columnist
Aya Kubosumi ノマドマーケター 

コニカミノルタ、大阪ガスで行動観察やユーザーリサーチに携わったのち、GOB Incubation Partnersを創業。夫の突然の転職に伴い、東京から3歳の娘と夫とともにNY(ニュージャージー)に移住。ノマドマーケターとして、NYの人々、もの、こと、を日々観察、体験したことを素材に、日本の商品開発マーケターの皆さんと共有したいインサイトを綴ります。

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