NYノマド 第13回 2020年、気になるビジネス!ーグリーンラッシュに沸く、娯楽用大麻産業 Part4

20.02.26 10:57 AM By s.budo

Part4. グリーンビジネス・エコシステムの形成とネガティブイメージの一掃

グリーンビジネス・エコシステムの形成とネガティブイメージの一掃


すでにコンシューマー向けの様々な商品サービスが展開されているこの大麻マーケットでは、栽培から商品開発、販売や流通といったビジネスの上流から下流に関わるビジネスが続々と生まれています。


例えば、カリフォルニアのパロアルトベースのConfident Cannabis社は、大麻のテスト、販売、購買などを支援するオンラインプラットフォームを提供しています。

グリーンラッシュに沸く昨今、低品質の大麻や粗悪品が出回っていることもあり、大麻の栽培環境や品質テストなど、品質保持のためのサービスが求められていることに対応したビジネスです。

同社は大麻生産者には品質などをテスト、評価分析できるラボサービスを、そしてバイヤーには大麻の栽培地、栽培方法、品種・種別が一目でわかる3Dマップを提供することて生産者とバイヤーを繋ぎ、ニーズに応じた大麻取引を可能にしています。


他にも、麻の小売プラットフォームを提供しているのはFlowhubです。

POSソフトウェア、在庫管理価格、電話サポートなどがなんと初期費用1000ドル+月額499ドルからという非常に安価な価格で利用できます。

同社は2015年創業、デンバーが拠点です。

大麻関連商品の小売業者が直面する、州や合衆国連邦による法令順守やデータ管理義務などといった大麻商品特有の課題を解決するためのツールを、販売会社に合わせてカスタマイズするとともにワンストップでプラットフォームを通じて提供しています。

現在700社以上の大麻販売者に利用されているようです。

画像: https://flowhub.com/より引用

顧客とのタッチングポイントでも続々とビジネスが生まれています。


こちらは、アメリカではありませんが、カナダで大麻のライフスタイルストアを展開するTokyo smokeです。

アメリカ発の娯楽用大麻の大手であるCanopy Growth社が親会社で、大麻関連商品の販売だけでなく、コーヒーショップを併設し、アパレルなども展開しています。

新たな大麻とライフスタイル、文化を体現するこのショップ、日常の中に大麻商品を埋め込み、消費者の認知度を高めるとともに新規顧客を獲得するというより、むしろ新規顧客を育てるというやり方をとっているのかもしれません


すでにカナダに4店舗、そして今後はアメリカに別会社の運営でTokyo smokeの店舗展開が予定されており、私たちの日常に大麻製品がタバコやお酒のように身近な存在になっていきそうですが、子どもと一緒にいるときにコーヒーショップだと思って入ってしまったら、ちょっとどぎまぎしてしまいそうな私がいます。

そんなどぎまぎや悩みを解決してくれるのが同じく、Canopy Growth社のグループ会社のVan der Popです。

こちらは北米で女性にフォーカスした大麻ビジネスを展開している会社で、女性がセルフケアやハッピネスへの道を発見し、追求することをガイドし、支援することを目的としたメディアであり、コミュニティであり、小売店でもあります。

大麻とポップカルチャー、アートを融合したウェブメディアであることが特徴で、大麻をどう自分のライフスタイルに活用できるのか、大麻の知識から応用、そして実際の商品購入や利用を啓蒙するとともに、ファッショナブルでポップな大麻のイメージ形成を図ろうとしています。


ウェブサイトを覗いてみると、なるほど、ポップなグラフィックデザインや大麻に関するアドバイスなどが散りばめられ、アドバイスページの中には、なんと先の私のどぎまぎを解消してくれる記事もありました。

記事では丁寧に、大麻利用者、非利用者にケース分けして、子どもに冷静かつ善し悪しをジャッジするのではない対話の環境が説かれていました。

画像:Van der Popウェブサイト https://www.vanderpop.com/より引用

Canopy Growth社がこのようにTokyo smokeやVan der Popといった複数の傘下企業を配置し、ターゲットや目的に合わせ、解像度高く、実店舗、メディア、ビジネスをデザイン、展開している点は、新規顧客の創造という課題を持つ場合に学べることが多々ありそうです。



女性をターゲットにしたウェブマガジンは他にもあります。


ライフスタイルマガジン"miss grass"

日本の女性向け雑誌を彷彿とさせる絶妙なネーミングですね。

こちらは2人の女性が立ち上げたオンラインメディアでカルフォルニアベースの会社です。

大麻関連商品のオンラインショッピング、大麻と健康、カルチャー、美容・美肌、セックスといったトピックを扱い、ライフスタイルの提案や大麻知識の啓もうなどを推進しています。
コンテンツも女性向け雑誌のように、占いコーナーがあったり、アーティスティックな写真やトレンド発信記事、選りすぐりのハイセンスかつ商品群が紹介されています。
ターゲットとしている女性のペルソナイメージも明確です。


とインタビューで語っています。

そのため、オンラインショップで取り扱う商品は社内でテストし、品質や効果だけでなく、独自の科学的、美的、倫理的な基準を設定し、これらをクリアしたものを販売しているといいます。
ウェブマガジン内の記事やコラムもなかなかのユニークかつ大胆さで、例えば、「あなたのウェディングパーティーに草(大麻)を取り入れるには」といったタイトルで、結婚式に招待客と一緒にスタイリッシュに、ファッショナブルに大麻を楽しむための企画やTipsが書かれています。

大麻を新たなブランディングを大胆に展開する同メディア、目が肥え、意思を持った女性顧客に大麻というネガティブなイメージが付きまとう商品をどのように伝え、ユーザーに変えていくのか、イメージアップやブランディングのテクニックのヒントが大いにありそうなウェブマガジンです。



さて、盛りだくさんの大麻関連商品、ビジネスですが、これが最後のご紹介です。


なんと、大麻に関する研究やビジネスに関わる人材を教育、輩出しようとアメリカの大学に大麻学部が設立されています。

ノーザンミシガン大学では、主に医療用大麻にフォーカスした4年間の課程で、有機化学、植物生理学、植物学、会計学、遺伝子学、自然地理学などを学びます。

他にもカリフォルニア大学デイビス校では大麻生理学の学部コースを、デンバー大学では大麻ビジネスコースを、そしてバンデルビルツロースクールでは大麻法や規制に関するコースを開設しています。

さらには2007年にオークランドにあるオークステルダム大学が全米初の大麻大学として学位を提供しています。

大麻産業人材の育成まですでに網羅されているのには圧巻です。

グリーンラッシュから見えてくること

今回のコラムでは、娯楽用大麻産業を素材に、ビジネスや商品サービス、ブランディング展開などについて紹介してきましたが、そこからどのようなエッセンスが抽出できるのでしょうか。


娯楽用大麻がアメリカ国内で初めてコロラド州で合法化されたのが2014年、医療用大麻は1996年です。
そしてこの短期間にこれだけの様々なビジネス、商品サービスか生まれ、大麻ビジネスのエコシステムが形成されているということは驚きです。
ここにアメリカのイノベーションや新たな価値を生み出すための実行力、底力を感じずにはいられません。
そして、このスピード感でビジネスを作り、動かしていかなければ、脱落していくだけなのでしょう。

日本企業は同じスピードで走ることができるでしょうか

大麻産業に関わらず、新たな産業やビジネスを創出するスピード感、スケール感は見習うべき点が多々あると感じます。

そしてこの娯楽用大麻の商品サービスからは、新市場を作り、新規顧客に新商品サービスを提供する場合のヒントが散りばめられています。


顧客に対する提供価値として、医師の診断や処方箋不要で鎮痛、精神安定といった効用が得られること、ストレス解消やリフレッシュ、精神的なお守りとしての存在価値、植物性由来の原料であるという安心感、タバコやウィスキーといった嗜好品のように、クールでおしゃれなライフスタイルやアイコニックなイメージを体現する価値などが訴求されており、これら複数の提供価値組み合わせ、商品サービスを開発、販売しようとしていることが見えてきます。

新規顧客獲得には、さらにもともとあるネガティブなイメージの刷新、安全で法律を順守した使い方、目的やライフスタイルに合わせた利用などに必要な知識や教育の提供も不可欠です。


ネガティブなイメージが一掃され、タバコやお酒のように大人が嗜む嗜好品や、日常での心身の問題や悩み、不安を取り除いてくれる存在になるのでしょうか。
そしてアメリカでの大麻の使用がアメリカ人のライフスタイルにもたらす変化だけでなく、世界に対してどのようなインパクトを持つのでしょうか。
ニューヨークが娯楽用大麻を合法化したのちに改めてまた考察してみたいと思います。


Keep in Touch !

ビジネス、公的な活動問わず、アメリカのこれらの事例から何かのヒントがお届けできれば幸いです。みなさんからのコラムに関するご質問や、こんなことを聞いてみたい、知りたい!というリクエスト、叱咤激励などなど、24時間365日お待ちしております。ではまた次回コラムでお会いしましょう。

columnist
Aya Kubosumi ノマドマーケター



コニカミノルタ、大阪ガスで行動観察やユーザーリサーチに携わったのち、GOB Incubation Partnersを創業。夫の突然の転職に伴い、東京から3歳の娘と夫とともにNY(ニュージャージー)に移住。ノマドマーケターとして、NYの人々、もの、こと、を日々観察、体験したことを素材に、日本の商品開発マーケターの皆さんと共有したいインサイトを綴ります。

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