この「顧客のジョブを片付ける(Job to be done)」というジョブ理論を提起したのは、惜しくも先般亡くなられたハーバード大学ビジネススクール教授のクレイトン・クリステンセン氏です。
この概念はとてもシンプルで明快です。
彼の著書の中ではミルクシェイクの開発の事例が掲載されています。
ミルクシェイクの店頭での顧客観察から、ミルクシェイクは朝に購入する顧客に対しては車通勤の退屈な時間と口寂しさをやり過ごし、お昼までの小腹を満たすという二つのジョブを、休日に家族で店舗に訪れる顧客は、いつも子どもにNoと叱ってばかりの怖い父親ではなく、子どもにいいよと優しく接する父親であることを示す免罪符としてのジョブを片付けていることがわかったのです。
ミルクシェイクを購入するという同じ行動でも顧客によって片付けているジョブは異なります。
先のオンライン処方箋サービスは、処方箋薬局に行くことなく短時間で確実に処方薬を購入し、自宅などにいながら手に入れられるという、顧客の複数のジョブを片付けるものであることをお伝えしましたが、他にも英語が母国語でない顧客にとっては、テキストメッセージやアプリでコミュニケーションができるということが、英語で医療についてコミュニケーションをするという難易度の高いジョブをサポートしてくれる強力なツールである側面もありそうです。
このように、顧客の抱えるジョブを一つでなく、複数解決できるサービスや製品は顧客にとって価値あるものとなる可能性を秘めています。
反対に、顧客のジョブを片付けることができていない、もしくはできなくなったサービスや製品は売れず、顧客の足は遠のくばかり、顧客にも受け入れられづらいと考えることができるでしょう。
顧客のジョブを片付けていない?~相次ぐデパート等の物理的店舗の閉鎖
起死回生を図る物理的店舗~遊べるニューヨークのおもちゃ屋さん:CAMP

画像:https://camp.com/より引用
トイザらスといった巨大玩具リテイラーさえ、再起を図り、悪戦苦闘する中で、同じ玩具販売というチャレンジングなマーケットで話題を呼んでいるのが、こちら、CAMPです。
このCAMPは知人のママから、マンハッタンにあるおもちゃ屋さんが面白いよと教えてもらったことがきっかけで知りました。
同社の店舗は再開発された話題のモール、ハドソンヤードを含めマンハッタン2店舗、ブルックリン、テキサス州のダラス、コネチカット州の全部で5店舗の展開です。
同社のウェブサイトのトップページを見ても、おもちゃ屋さん?という印象は薄く、"family experience store(CAMPは家族の体験のお店です)"というキャッチコピーが掲げられています。
おもちゃ屋であり、家族の体験のお店とはどのようなコンセプトなんでしょうか。
実際、どのようなお店なのでしょうか?
そして、すでにおもちゃを販売するだけでは顧客がそっぽを向くようになってしまっている物理的店舗で、誰の、どんなジョブを片付けようとしているのでしょうか。
そこでマンハッタンでもお洒落で落ち着いた雰囲気のあるユニオンスクエアの店舗とハドソンヤードにある店舗の二つに訪れてみました。
単なるおもちゃ屋さんではありません!~遊べる、過ごせるおもちゃ屋さん

まずはユニオンスクエアにある5th Avenue店に行きました。
当日は土砂降りの雨で店舗の写真が撮影できなかったので、外観の写真を他のウェブサイトからお借りしてご紹介したいと思います。
それがこちらです。
画像: https://www.citynibbler.com/home/2019/1/8/camp-my-favorite-toy-store-in-manhattanより引用

いかがでしょうか?
「え、どこがおもちゃ屋さんなの?単なるギフトショップ?」
と思うかもしれません。
いえいえ、違うのです。
画像: https://www.buzzfeed.com/louisekhong/camp-toy-store-nycより引用

子どもと一緒に同店を訪れると、店員さんが秘密の扉を案内してくれるのです。
それがこちらです。
画像: https://www.buzzfeed.com/louisekhong/camp-toy-store-nycより引用
店員さんがもたれかかっている商品棚、特にガラスの瓶がディスプレイしてある一面の目の前に子どもを立たせて、

店員さんが
「冒険に行ってみたい?行ってみたければ一緒にこのキャンディーの瓶が置いてある棚の壁に魔法をかけるので、押して開けてくれる?」
といいました。
娘はこっくりとうなずき、店員さんと一緒にドキドキしながら、この壁を押してみると、、、
なんとこれは隠し扉でした。
画像: https://kidonthetown.com/events/toy-lab-camp/より引用

画像:CAMPのエントランス、筆者撮影
ここはCAMPのToy Lab(おもちゃラボ)。
入り口では、スタッフが子どもたち一人ひとりに"ジョブ"を与えくれます!
ジョブは3種類。
"FUNFLUENCER"、"AUESOMENESS AGENT"、そして"PLAY PIONEER"。
私の娘はFUNFLUENCERのタグを選んでもらいました。
タグには、①から⑨までのナンバリングがあり、様々なラボセクションでスタッフがおもちゃのデモをしてくれていますので、おもちゃを使ってみる、遊んでみるというデモ実験のジョブに参加するとこのナンバリングにマークをしてくれます。
私の娘はこの9つをコンプリートすることができなかったので、できた場合に何があるのか分からなかったのが残念です。

ジョブタスクのネームホルダー兼、筆者撮影

おもちゃの実験部屋は複数あります。
それぞれの部屋がテーマ別に分かれており、そこに置いてあるおもちゃで(パッケージされているもの以外)で自由に遊ぶことができます。
子どもたちはそれぞれの部屋を見つけて思い思いに遊んでいます。
それを親や保護者たちが見守ります。
画像:おもちゃのラボ部屋の一つでのデモの様子、筆者撮影

そして中央には三輪車やスクーターなどに乗ることができるサーキットスペースや滑り台などがある複合プレイジムになっています。
ここもフリーで遊ぶことができます。
この中央のスペースを囲むようにも、おもちゃが陳列されており、これらは販売されています。
画像:CAMP室内にある遊具( https://mommypoppins.com/new-york-city-kids/indoor-activities/camp-store-flatiron-play-spaceより引用)

画像:おもちゃ部屋、筆者撮影

画像:アパレルコーナー 筆者撮影

画像:おもちゃ部屋、筆者撮影

ちなみにこちらに置いてあったバービーの写真ですが、中央のブロンドロングヘアのバービーと中央右の三つ編みバービーはかつらになっており、取ったり、かぶせたりすることができます。
画像:あまり他の販売店舗やAmazonお目にかからないバービー、筆者撮影
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