NYノマド 第14回 悪戦苦闘するリアル店舗、進化する売り場~顧客のジョブを片付ける Part2. 顧客のジョブを片付ける

20.03.10 10:22 AM By s.budo

この「顧客のジョブを片付ける(Job to be done)」というジョブ理論を提起したのは、惜しくも先般亡くなられたハーバード大学ビジネススクール教授のクレイトン・クリステンセン氏です。

彼は、「顧客は自分が抱えるジョブを片付けるために、サービスや製品を雇って(Hire)いるのであり、革新的なイノベーションを生み出すには、顧客のジョブは何かを定義し、それを解決するサービスや製品を開発する」必要性を唱えました


この概念はとてもシンプルで明快です。


彼の著書の中ではミルクシェイクの開発の事例が掲載されています。

ミルクシェイクの店頭での顧客観察から、ミルクシェイクは朝に購入する顧客に対しては車通勤の退屈な時間と口寂しさをやり過ごし、お昼までの小腹を満たすという二つのジョブを、休日に家族で店舗に訪れる顧客は、いつも子どもにNoと叱ってばかりの怖い父親ではなく、子どもにいいよと優しく接する父親であることを示す免罪符としてのジョブを片付けていることがわかったのです。

ミルクシェイクを購入するという同じ行動でも顧客によって片付けているジョブは異なります。


先のオンライン処方箋サービスは、処方箋薬局に行くことなく短時間で確実に処方薬を購入し、自宅などにいながら手に入れられるという、顧客の複数のジョブを片付けるものであることをお伝えしましたが、他にも英語が母国語でない顧客にとっては、テキストメッセージやアプリでコミュニケーションができるということが、英語で医療についてコミュニケーションをするという難易度の高いジョブをサポートしてくれる強力なツールである側面もありそうです。


このように、顧客の抱えるジョブを一つでなく、複数解決できるサービスや製品は顧客にとって価値あるものとなる可能性を秘めています。

反対に、顧客のジョブを片付けることができていない、もしくはできなくなったサービスや製品は売れず、顧客の足は遠のくばかり、顧客にも受け入れられづらいと考えることができるでしょう。

顧客のジョブを片付けていない?~相次ぐデパート等の物理的店舗の閉鎖

昨年からしばしばこちらのコラムでも話題にしていますが、デパートなどのリテイル店舗の閉鎖が続いています。
ニューヨークのアイコン的存在の一つであったデパートメントストア、バーニーズニューヨークが昨年8月に経営破綻した後、今年2月23日に全米全ての店舗を閉鎖し、従業員を解雇しました。
今年に入り、ニューヨークを中心に庶民が利用するスーパーマーケットフェアウェイの破産申告で2000人の従業員解雇の可能性が報道されるなど、物理的店舗の閉鎖が相次ぎました。
そして、ここ数年加速する物理的店舗の閉鎖はますます顕著になっています。

2020年にはおよそ2,400店舗の小売店が、閉鎖が予定されており、中には処方箋薬局も展開する全米第二位のドラッグストアチェーンWalgreensの200店舗、老舗デパートメントストアのMacy'sの125店舗などが含まれます。

この物理的店舗からの顧客離れは、先のジョブ理論を援用すると、"顧客のジョブを片付けていないから"、といえるかもしれません。

そんな中でも、新たなショッピングモールやお店は続々とオープンし続けています。
そこで私が気になっているのは、「成功する物理的店舗にはどんな要因が隠されているのか」という問いです。

今回はこの問いに答える物理的店舗を紹介し、ジョブ理論という観点からその成功要因について考察してみたいと思います。


起死回生を図る物理的店舗~遊べるニューヨークのおもちゃ屋さん:CAMP

画像:https://camp.com/より引用

トイザらスといった巨大玩具リテイラーさえ、再起を図り、悪戦苦闘する中で、同じ玩具販売というチャレンジングなマーケットで話題を呼んでいるのが、こちら、CAMPです。


トイザらスの2018年の店舗閉鎖により、2019年には日本円で約810億円の減少となったアメリカの玩具マーケット。玩具販売店としての競争はAmazon、Walmart、そしてTargetの3社がけん引し、オンラインでの販売が増えつつあります


このCAMPは知人のママから、マンハッタンにあるおもちゃ屋さんが面白いよと教えてもらったことがきっかけで知りました。

同社の店舗は再開発された話題のモール、ハドソンヤードを含めマンハッタン2店舗、ブルックリン、テキサス州のダラス、コネチカット州の全部で5店舗の展開です。


同社のウェブサイトのトップページを見ても、おもちゃ屋さん?という印象は薄く、"family experience store(CAMPは家族の体験のお店です)"というキャッチコピーが掲げられています。


おもちゃ屋であり、家族の体験のお店とはどのようなコンセプトなんでしょうか。

実際、どのようなお店なのでしょうか?

そして、すでにおもちゃを販売するだけでは顧客がそっぽを向くようになってしまっている物理的店舗で、誰の、どんなジョブを片付けようとしているのでしょうか。


そこでマンハッタンでもお洒落で落ち着いた雰囲気のあるユニオンスクエアの店舗とハドソンヤードにある店舗の二つに訪れてみました。

単なるおもちゃ屋さんではありません!~遊べる、過ごせるおもちゃ屋さん

まずはユニオンスクエアにある5th Avenue店に行きました。


当日は土砂降りの雨で店舗の写真が撮影できなかったので、外観の写真を他のウェブサイトからお借りしてご紹介したいと思います。


それがこちらです。


画像: https://www.citynibbler.com/home/2019/1/8/camp-my-favorite-toy-store-in-manhattanより引用

いかがでしょうか?


「え、どこがおもちゃ屋さんなの?単なるギフトショップ?」


と思うかもしれません。

いえいえ、違うのです。


画像: https://www.buzzfeed.com/louisekhong/camp-toy-store-nycより引用

子どもと一緒に同店を訪れると、店員さんが秘密の扉を案内してくれるのです。


それがこちらです。


画像: https://www.buzzfeed.com/louisekhong/camp-toy-store-nycより引用


店員さんがもたれかかっている商品棚、特にガラスの瓶がディスプレイしてある一面の目の前に子どもを立たせて、

店員さんが

「冒険に行ってみたい?行ってみたければ一緒にこのキャンディーの瓶が置いてある棚の壁に魔法をかけるので、押して開けてくれる?」

といいました。


娘はこっくりとうなずき、店員さんと一緒にドキドキしながら、この壁を押してみると、、、


なんとこれは隠し扉でした。


画像: https://kidonthetown.com/events/toy-lab-camp/より引用



画像:CAMPのエントランス、筆者撮影

そして、こんな空間が広がっていたのです。
子どもにとってはおもちゃのおとぎの国に魔法で来たような体験と、小さなテーマパークのような空間に、娘のテンションは上がる一方です。

ここはCAMPのToy Lab(おもちゃラボ)。


入り口では、スタッフが子どもたち一人ひとりに"ジョブ"を与えくれます!

ジョブは3種類。

"FUNFLUENCER"、"AUESOMENESS AGENT"、そして"PLAY PIONEER"


私の娘はFUNFLUENCERのタグを選んでもらいました。

タグには、①から⑨までのナンバリングがあり、様々なラボセクションでスタッフがおもちゃのデモをしてくれていますので、おもちゃを使ってみる、遊んでみるというデモ実験のジョブに参加するとこのナンバリングにマークをしてくれます。

私の娘はこの9つをコンプリートすることができなかったので、できた場合に何があるのか分からなかったのが残念です。

ジョブタスクのネームホルダー兼、筆者撮影

おもちゃの実験部屋は複数あります。


それぞれの部屋がテーマ別に分かれており、そこに置いてあるおもちゃで(パッケージされているもの以外)で自由に遊ぶことができます。


子どもたちはそれぞれの部屋を見つけて思い思いに遊んでいます。

それを親や保護者たちが見守ります。


画像:おもちゃのラボ部屋の一つでのデモの様子、筆者撮影

そして中央には三輪車やスクーターなどに乗ることができるサーキットスペースや滑り台などがある複合プレイジムになっています。


ここもフリーで遊ぶことができます。


この中央のスペースを囲むようにも、おもちゃが陳列されており、これらは販売されています。


画像:CAMP室内にある遊具( https://mommypoppins.com/new-york-city-kids/indoor-activities/camp-store-flatiron-play-spaceより引用)

各実験部屋にいるスタッフがおもちゃのセールストークをすることは一切なく、買わなければというプレッシャーは全くありません。

画像:おもちゃ部屋、筆者撮影

おもちゃだけでなく、こども用のアパレルや本などもディスプレイされ、種類は豊富ではありませんが販売されています。


アパレルは30ドル以上100ドル未満のものが多く、比較的価格帯は高めという印象です。


画像:アパレルコーナー 筆者撮影


画像:おもちゃ部屋、筆者撮影

おもちゃは定番のレゴやバービー人形など、比較的アメリカで人気の堅い商品のラインナップと知育玩具系が多く置いてありました。


今回は友人の子どものお誕生日にプレゼントをする用に、レゴを一つ購入しようと考えていて、探してみました。
一つ気に入ったレゴがあったので、いつもの私の習性でAmazonで検索し、値段をチェックしてみると、、、

なんと同様の商品がAmazonでは販売されていませんでした。
そしてここの店舗で購入することを決定。


もちろん、CAMPで販売されている商品の中にはAmazonで販売されている商品もあったのですが、他にも珍しいおしゃれファッションのバービーなどが置いてあり、この店舗に来ないとないものがあると感じさせてくれた商品のセレクションでした。

ちなみにこちらに置いてあったバービーの写真ですが、中央のブロンドロングヘアのバービーと中央右の三つ編みバービーはかつらになっており、取ったり、かぶせたりすることができます。


画像:あまり他の販売店舗やAmazonお目にかからないバービー、筆者撮影

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ビジネス、公的な活動問わず、アメリカのこれらの事例から何かのヒントがお届けできれば幸いです。みなさんからのコラムに関するご質問や、こんなことを聞いてみたい、知りたい!というリクエスト、叱咤激励などなど、24時間365日お待ちしております。ではまた次回コラムでお会いしましょう。

columnist
Aya Kubosumi ノマドマーケター



コニカミノルタ、大阪ガスで行動観察やユーザーリサーチに携わったのち、GOB Incubation Partnersを創業。夫の突然の転職に伴い、東京から3歳の娘と夫とともにNY(ニュージャージー)に移住。ノマドマーケターとして、NYの人々、もの、こと、を日々観察、体験したことを素材に、日本の商品開発マーケターの皆さんと共有したいインサイトを綴ります。

s.budo