NYノマド 第14回 悪戦苦闘するリアル店舗、進化する売り場~顧客のジョブを片付ける Part4. CAMPは誰のどんなジョブを解決しているのか

20.03.23 01:06 PM By s.budo

CAMP2店舗を写真を中心にご紹介してきましたが、いかがでしょうか。


従来のおもちゃ店とは一線を画す体験型の物理的店舗であり、ここでは、親が子どもにおもちゃを購入するというジョブだけでなく、それ以外の様々なジョブを一緒に片付ける空間になっています。


そのジョブとは何でしょうか。


いくつか挙げてみたいと思います。

おもちゃの試し遊び

  • おもちゃを買わずに遊べる
  • 子どもが確実に遊びたいと思うおもちゃ、遊ぶおもちゃを選ぶことができる

遊具スペース、シアターでのアクティビティプログラム

  • 冬や悪天候時といった外遊びができないときに自宅以外で子どもを遊ばせて過ごすことができる
  • 家族で楽しく意義ある余暇時間を過ごせる
  • こどもがエネルギーやストレスを発散させることができる
  • 親が、子どもにおもちゃを与えてなだめるという罪悪感や買わなければならないというプレッシャーを感じることなく、子どもの教育、成長や発達にとってよいと思うコンテンツを与えることができる
  • (特にアクティビティプログラム)罪悪感なく子どもなしの親だけの時間を捻出することができる

店舗の空間デザインおよびCAMPでの体験

  • 親がインスタ映えする子どもの写真を撮影することができる
  • 友達との話題作りができる

こうしてみてみると、「おもちゃを子どもに買い与える」というジョブは子どもの遊び、教育や成長、発達に寄与するようなおもちゃを買うことやそれに付随するジョブだけでなく、家族の余暇時間の過ごし方や育児をよりよく解決するジョブであることが望ましいことが見えてきます。


また、インスタ映えする撮影場所や話題提供といったエッセンスは今後の物理的店舗には必須の要素になるとともに、顧客とのタッチポイント、関係性とストーリーを作り続けるためにも重要な要素となっていくでしょう。


複数のニーズや解決したがっているジョブとその背景にある要因を構造的にとらえ、そのイシュー全体を解決する機会を提供することが物理的店舗にもできなければ、閑古鳥が鳴くという結果が待っています。


そして、こうした一連のジョブやそのジョブに関わる構造的な要因群は、提供しようとする解決策が片付けるジョブとそのジョブにかかわるターゲット顧客の生活動線やジョブ動線をマッピングすることで整理することができます。


ジョブのマッピングは先にご紹介したクリステンセン氏の著作に詳説されていますので、ぜひ一度ご一読いただくことをお勧めします。

オンラインショップでも経験を提供

家族での体験を提供するというCAMP、もちろんオンラインでおもちゃの販売もしていますが、一味違います。
なぜなら、全てのおもちゃではありませんが、おもちゃの購入ページに、おもちゃの遊び方をインタラクティブに経験できる動画ページが掲載されているのです。


昨年、世界で最も稼いだYou Tuberをご存知でしょうか。

テキサス州に住むライアン・カジ(Ryan Kaji)君、8歳の男の子です。
彼の年収は昨年度およそ2600万ドル(約28億円)!です。


彼の両親が「ライアン・トイズレビュー(Ryan ToysReview)」というチャンネル名で、ライアン君がおもちゃの包みを開けて遊ぶ「開封」動画を配信し、この動画チャンネルが現在までに2290万人の購読者を獲得しています。

おもちゃで遊ぶ動画は子ども向けのYou Tube動画の中でもかなり人気があるようですが、この影響もあるのかもしれません。
体験を銘打つCAMPもおもちゃで遊ぶ体験を、単に動画で見るだけでなく、インタラクティブに疑似体験できるコンテンツを制作し、おもちゃとともにウェブサイトに掲載しているのです。

おもちゃを親が購入するとき、子どもが欲しいというものを買う、もしくは親が子どもの遊びにとって適切で楽しいものであるかどうかを判断し、購買意思決定をします。
親が購買意思決定をすることをサポートするこのウェブサイトの情報は、親が子どもに使ったことがないおもちゃを買い与えるという一つのジョブを支援するものであると言えるでしょう。
画像:https://camp.com/shop/play/4083より引用
画像:https://camp.com/shop/play/4083より引用

体験型おもちゃ屋さんCAMPから見えてくること

2月25日にアメリカのシアトルで、Amazon Go Grocery、Amazonのキャッシュレス食料品スーパーの1号店がオープンしました。
日々の食料や生活用品を購入するというジョブには、スーパーまでの往復の交通、購買する商品を選ぶ、支払いをする、購入した商品を袋詰めする、運ぶといった様々なジョブが付随します。
Amazon Go Groceryでは、完全にキャッシュレス化し、顧客が店内で手に取った商品を籠や自分のマイバッグに入れ、退店のゲートを通過するだけで購買が完了します。
付随するジョブのいくつかを合わせて解決し、顧客の時間やリソースだけでなく、店舗運営側の時間やリソースをも徹底的に短縮するソリューションをここで提供しているのです。
加えて、Amazon Go Groceryでの新たなショッピング体験はしばらくの間は写真撮影や話題提供の機会になることは間違いありません。

体験型おもちゃ屋さんCAMPの事例からみえてくるのは、顧客の単一のジョブを片付けるだけでは、顧客はそのジョブだけを片付けるためにわざわざ来店してくれないという現実と、対象顧客の他のジョブを理解し、それらも併せて解決する場を提供することが物理的店舗に求められているということです。
そのためには、今までは商品を売るための販売員やキャッシャーというモノを売るための従業員、商品を分かりやすくディスプレイするという店舗デザインから、顧客にジョブ解決を体験を通じてその場で提供する場に必要な人材、役割、店舗デザイン、コンテンツを複合的に開発、展開することが必要となるでしょう。


物理的店舗は体験型に移行しつつある、ということを顧客のジョブという観点からその理由や背景、具体的なジョブの考え方、ソリューションデザインのアプローチについて、今回のコラムから何か一つでも皆さんにヒントがあれば嬉しく思います。

それでは皆さんまた次回のコラムでお会いしましょう。

Keep in Touch !

ビジネス、公的な活動問わず、アメリカのこれらの事例から何かのヒントがお届けできれば幸いです。みなさんからのコラムに関するご質問や、こんなことを聞いてみたい、知りたい!というリクエスト、叱咤激励などなど、24時間365日お待ちしております。ではまた次回コラムでお会いしましょう。

columnist
Aya Kubosumi ノマドマーケター


コニカミノルタ、大阪ガスで行動観察やユーザーリサーチに携わったのち、GOB Incubation Partnersを創業。夫の突然の転職に伴い、東京から3歳の娘と夫とともにNY(ニュージャージー)に移住。ノマドマーケターとして、NYの人々、もの、こと、を日々観察、体験したことを素材に、日本の商品開発マーケターの皆さんと共有したいインサイトを綴ります。

s.budo