Part2. "Reopen(社会経済活動の再開)"までの道のり
アメリカでは、各州の知事がリオープンの判断を行い、経済や社会活動の制限や再開条件などを設定しています。
ですので、州ごとにリオープンの状況や程度は様々です。
アメリカの中でも大きなパンデミックの中心となってしまったこちらニューヨーク州では、クオモ知事がリオープンに向けて「7つの基準」を示し、州内に10ある地域ごとに、設定された7つ基準の全てを満たした地域から段階的に経済社会活動を再開させるというプロセスを踏んでいます。
7つの基準は、
(1)総入院患者数が少なくとも14日間連続減少しているか,1日の新たな入院患者の数が15人以下であること(CDC基準)
(2)1日の死者数が少なくとも14日間連続減少しているか,1日の死者数が5人以下であること
(3)新たな入院患者数が10万人当たり2人未満であること
(4)全病床数の少なくとも30%が常に利用可能なこと
(5)ICUベッドの少なくとも30%が常に利用可能なこと。
(6)1か月で人口1000人当たり30人が検査を受けていること。
(7)10万人当たり30名以上の追跡要員を有していること。
といった科学的データに基づく判断基準です。
https://www.ny.us.emb-japan.go.jp/oshirase/states.html#br
そして各地域はこれらの指標の条件を満たした場合、下記の再開4段階ステージに進んでいくことができます。
フェーズ1:建設業、製造業、卸売業、一部の小売業フェーズ2:金融・保険等の専門サービス、不動産、小売業フェーズ3:レストラン、飲食サービス、ホテルフェーズ4:芸術、エンターテーメント/娯楽、教育
現在、ニューヨーク州では、10ある地域のうち、7地域が7つの基準全てを満たし、リオープンのフェーズに進んでいます。
残念ながら、ニューヨーク市は4つの基準を満たすにとどまっており、在宅勤務・自宅待機等を要請したNY State on PAUSE政策が6月13日まで延期され、再開には至っていません。
ニューヨーク州では、5月15日から、州全域で感染リスクの低い園芸、造園、テニス、ドライブスルー映画館のレクリエーション活動が可能となっていますが、レストラン・バーのイートイン、ジム、ショッピングモール、理髪店・ヘアサロン、遊園地等の不要不急の機関・店舗は閉鎖されたままです。
そして再開のフェーズに進む場合は各業種により、満たすべき基準や諸条件が設定されたガイドラインがあり、これらを順守する必要があります。
例えば、フェーズ1に設定されている建設業では、再開時の義務として、「従業員は6フィートの距離を取り、顔を覆うものを着用すること」、「雇用者は従業員にマスクを提供すること」、「エレベーターを利用する際は、必ず1回の乗車につき、一人のみの乗車とすること」などです。https://www.governor.ny.gov/sites/governor.ny.gov/files/atoms/files/ConstructionShortGuidelines.pdf
これらのガイドラインは州によりその有無や内容が異なりますので、どこの州に居住しているか、どこでビジネスをしているかで受ける影響が全く異なります。
東京都でも5月22日に再開に向けたロードマップが公開されていますね。
自粛緩和を判断する7つの基準が設定され、また、各業種ごとに感染拡大防止のための施策が紹介されています。
各業種ごとの感染拡大防止のための施策は、こちらニューヨーク州と異なり、義務事項などはないようですね。
いずれにしても、企業や人々が安心して、そして迅速に経済や社会活動を再開し、営んでいくためにはこうした指針や基準は必要不可欠であるとともに、これらの基準、義務などを元に企業や人々が活動するわけですから、新たなビジネスやサービスのヒントやアイディアの源であると捉えることができます。
このロードマップは起こりつつある未来のマップとも言えますね。
ニューヨーク市内のビジネス生態系の破壊と再生
ニューヨーク市はニューヨーク州が定めたリオープンの基準をまだ満たせておらず、5月29日時点で7つの基準のうち、4つのみに留まっています。
しかしながら、6月8日よりようやく再開の第1段階に入ることが決まり、リオープンに向けて、先に紹介したガイドラインやポストコロナにおけるSocial Distancingを考慮したニューノーマルを模索する動きが加速しています。

ニューヨーク市は観光とともに、密集する高層ビルに金融やメディア、テックカンパニーといった大企業が入居し、それらの会社の従業員たちが市内、市外から通勤し、仕事を中心とした生活を営むことで、レストラン、カフェ、商業施設などの生態系が成り立っており、人口密集度が高く、観光客も含め、人と人とが関わり合うことで経済が成立していました。
しかしながらこのコロナウィルスによるパンデミック後は見事にマンハッタンから人が消え、人が犇めいていたオフィスはがらんどう、観光客で埋め尽くされた美術館や劇場、そしてレストラン、カフェは全て閉まりました。
そして義務となった在宅ワークに移行した大企業は、リオープン後の働き方やオフィスを模索しながらの10週間だったのではないでしょうか。
そしてリオープンへの道が視野に入り始めた昨今、「職場再開、戻るべきオフィスはあるのかー在宅勤務の拡大でオフィスの撤廃・縮小を検討する米企業が増加」という記事に代表されるように、物理的なオフィスに戻らない選択をする企業も出始めています。

側にマンハッタンでは、目玉が飛び出るようなテナント賃料を支払い、さらにSocial Distancingのための対策を講ずるため、収容人数を制限するとともにオフィスデザインも変更しなければなりません。
さらに対面でのサービスやコミュニケーションが絶対的に必要ではないテックカンパニー、数百人の従業員がマンハッタンのオフィスに勤務していたTwitter(ツイッター)やFacebook(フェースブック)では希望する従業員は今後期限を設けず、在宅ワークを許可する働き方を発表しました。Google(グーグル)でも今年度いっぱいは在宅ワークを継続すると発表しています。
日本でも日立製作所が在宅ワークを中心とする新たな働き方を始めましたが、こちらではさらにその傾向が強まっていくように感じています。
物理的オフィスを縮小する企業が増加すると、オフィスビルではテナント収入が減り、近隣に生態系を作っていたレストラン、カフェなどの売上も期待できなくなります。
通勤者の足となっていた公共交通機関の地下鉄やバス、タクシー、そしてUberやLyftといったシェアライドサービスも乗降客が減少します。
そしてそこで働く従業員の人員削減も進みます。

(調査期間:4月23日~5月5日、調査回答者数:調査依頼を行った1,867,126世帯のうち、74,413世帯が回答)。
そしてオフィス入居者が減り、テナント収入がなくなった企業や個人は、プロパティタックスの支払いが困難になるでしょう。そうなれば、ニューヨーク市の税収入野中で最も大きな割合、53%を占めるプロパティタックスの減少がニューヨーク市にもたらす影響は計り知れません。
ニューヨークの生態系は以前のような生態系の再生を求めて悪戦苦闘してくのでしょうか。それとも、新たな生態系を再生していくのでしょうか。
ニューヨーク州のクオモ知事は5月29日のコロナウィルス対策に関する定例ブリーフィングにおいて、
- “忘れてはならないのが、再開は元に戻ることではなく、新しい安全な日常に向かうことである。そのためにはマスクを着用し、検査を受け、他者と一定の距離をとってほしい。全ては私たちの行動次第である。”
と強調しました。
「再開は元に戻ることではない」という言葉に強調されるように、ワクチンが開発されるまでの期間で生み出されるニューノーマルがこの新たな生態系を形作っていくことでしょう。
次回は出現しつつあるニューノーマルにフォーカスしてみたいと思います。
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