NYノマド 第17回 アフターコロナで変わりゆく日常と顧客との関係性 Part3

20.06.17 03:01 PM By s.budo

Part3. 顧客経験が変わる -ニューノーマルがもたらす新たな経験と価値

写真: https://www.theverge.com/2020/5/20/21265221/nyc-mta-ultraviolet-light-uvc-coronavirus-disinfect-puro-picturesより引用
このUVライトは営業外の時間に利用し、殺菌を行うもので、現在コロンビア大学に効果検証を依頼中とのことです。


先般もニュースを観ていたところ、ニューヨーク市内の地下鉄は、現在24時間操業を停止し、夜間に消毒及び清掃作業をしていますが、かつてないほど、きれいな車両、環境になりつつあると言っていました。


確かに、日本の電車と比較して、眉を顰めるような汚い車両にしばしば出会うニューヨークの地下鉄ですが、衛生レベルがさらに向上し、ラッシュアワーの混雑なく、人と人との距離を取った空間的に余裕のある空間になったとき、地下鉄に乗る経験もより清潔で快適、そして安心感を与えるものに変わっていくかもしれません。


次にレストランやカフェなどの外食産業に目を移してみましょう。

画像:https://www.nytimes.com/2020/03/20/dining/local-restaurants-coronavirus.html?campaign_id=39&emc=edit_ty_20200522&instance_id=18697&nl=opinion-today&regi_id=65135947&segment_id=28816&te=1&user_id=cdf291640f3775ecd040585b22aaebb7 より引用

外食産業では、コロナウィルスのパンデミック発生により、およそ75%のレストランが休業もしくは閉店に追い込まれ、The National Restaurant Association(全米レストラン協会)によれば、2250億ドルの損失が予想されています。

店内のテーブルや椅子は片付けられた状態 写真:筆者撮影
ニュージャージー州では現在、レストランはテイクアウトもしくはデリバリーのみの営業許可となっていますが、最近、テイクアウトをしに行った近隣のヴェトナム料理のフォーのレストランでは、テーブルや椅子が片付けられ、屋内での飲食はできない状態になっていました。そして、レジ付近に置かれたテーブルにメニューが置かれ、そのメニューを見てテーブル越しに6フィートの距離を取った従業員に注文を依頼します。


注文の出来上がりを待つ間は、床に貼られたブルーのテープに沿って並んで待たなければなりません。


従業員は手袋をし、出来上がったテイクアウト料理をテーブルに置きます。そして顧客がテーブルの上に置かれたテイクアウトを引き取るという手順で、直接の手渡しをすることを避けるデザインになっていました。

たまには外食を楽しみたいと思い、テイクアウトをしに行きましたが、Social Distancing策を取った空間、プロセスで料理を受け取る経験は、なんとも寂れたような、ランチを楽しむ気持ちやワクワク感がしぼんでいくような気持になってしまいました。



Social Distancing策を講ずる店内 写真:筆者撮影
そして室内での飲食が可能になったレストランに対し、従業員がマスクを着用することや収容人数の制限を求める条件を付している州が多いようですが、Social Distancing策を講ずることで顧客のレストランでの飲食経験は、テイクアウト同様、コロナウィルス以前のものとは全く様変わりするでしょう。


例えばレストランバーにお酒を飲みに行った場合、1.6フィートの距離を取ったテーブルや椅子の配置は、席をたまたま隣り合わせた顧客同士で会話を交わしたり、知り合いになるということをもたらしてくれるのでしょうか?


手袋をした手でテーブルにサーブされた料理は以前と同じように魅力的に感じるのでしょうか?


顧客自身もマスクをするべきか、しなくてもよいのか。
マスクをした場合、食べ物を口に運ぶ度にマスクの取り外し、着用が必要なのか?


など、どうふるまったり行動したらいいのか、悩むかもしれません。



一連のニューノーマルで課されたレストランの営業条件が、レストランの既存の提供価値である、「外食で美味しものを食べて、リラックスし、人との会話を楽しむ」ということを大幅に失わせてしまうかもしれません。



今までの経験や価値が全く異なる経験や価値へと変容せざるを得ないアフターコロナの世界、感染予防のための施策と顧客提供価値のトレードオフを解決し、新たな顧客経験を生み出すことが強く求められるでしょう。


新たな価値を見出されたクルマ -車が生活の主体に

アメリカでコロナウィルスによるパンデミックでその価値が再発見され、一躍脚光を浴びているのが自動車です。

ごく一部の都市部を除き、生活に欠かせないインフラであるクルマは、コロナウィルスでそのパーソナルなモビリティが様々なソリューションに利用され始めました。


ニューヨークタイムズはこの様子を"パンデミック下のシェルターとしてのクルマ"という記事を掲載し、クルマが感染を防ぐ、タイヤの付いたミニシェルターとなり、車内にいたまま外出できるコクーンであると表現しています。




前回の私のコラムでもご紹介しましたが、買い物、映画、旅行、コミュニケーション、セレモニー、そして教会と、ありとあらゆる日常でSocial Distancing策を講じなければならない場面でクルマがSocial Distancingを講ずる役割を担うようになったのです。




感染を防ぐための動くプロテクティブギアー(P.P.E.)により、人々は買い物で店内でショッピングするのではなくカーブサイド・デリバリー(商品の配達方法として、建物(住居や店舗)の中に商品を運び入れるのではなく、カーブサイド(舗道の縁石側)または歩道で商品を引き渡す方式。例えば、客が自宅から飲食店に飲食物を電話注文し、車で引き取りに行く時刻を取り決めておき、客の車が店の前のカーブサイドに停車したら、店員が注文品を車内にいる客に手渡す。)を、映画館ではなく野外でのドライブインシアターを、そして飛行機に乗らずにクルマでの旅行をより多く利用するようになりつつあります。



画像:https://www.nytimes.com/2020/05/23/us/drive-by-graduation-baby-shower-drive-in-coronavirus.htmlより引用 家族写真のフォトセッション Even family portrait photo sessions, like this one in Las Vegas, are being conducted by car.by Ethan Miller/Getty Images

それだけではありません。家族や親しい知人をたずねたり、先生が生徒を励ましたりするために、クルマに乗り、車内から手を振り、顔を合わせてコミュニケーションをとるようになりました。結婚式やベビーシャワー(生まれてくる赤ちゃんを出産前にお祝いする習慣)、卒業式はお祝いする人、またはされる人がクルマの中から手を振り、顔を見せ、離れた距離からお祝いの言葉を交わすようになりました。

画像:https://www.nytimes.com/2020/05/23/us/drive-by-graduation-baby-shower-drive-in-coronavirus.htmlより引用 ドライブスルー形式の礼拝 Archbishop Francois Touvet at France’s first drive-in Mass in Chalons-en-Champagne. by Pascal Rossignol/Reuters
教会の礼拝もクルマでドライブスルー形式で行われ、家族写真は車に乗ったフォトグラファーが撮影してくれます。




感染予防という機能だけでなく、人と人とをつなぐコミュニケーションインフラとしての価値が再発見され、複数の役割を担うようになったクルマは、アメリカのニューノーマルに向かってその存在感の大きさを示しています。



コロナで変わる企業と顧客との関係性、そしてアフターコロナのマーケティング

コロナウィルスはアメリカの日常を大きく変えました。

あれだけマスクをしたがらなかった人々が、マスクをして日常生活を営むようになっています。

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生活のありとあらゆる場面で、Social Distancingを最優先したニューノーマルに向かっての歩みが始まりつつあります。

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そしてレストランの顧客経験、クルマの価値の再発見では、今までの価値や規範がポジティブにも、ネガティブにも大きく変容しつつあることをお伝えしました。



こちらに住んで、コロナウィルスのパンデミックを経験し、ロックダウンやStay at home令下の生活を送り、10週間が経とうとしていますが、もう一つ日々実感することが、企業と顧客との関係性の変容です。



日々の企業の広告やメッセージは、コロナウィルスによるパンデミックと共に戦う姿勢や、コミュニティに寄り添う姿勢、自社ができる支援を示すものが主流になりました。


実際にマーケティング関連のデータを見てみると、コロナウィルスによる危機で、5人に一人(18%)のマーケティングスペシャリストが自社のブランドやコンテンツ戦略に非常に大きな影響があると回答しており、コロナウィルスに対応した企業やブランドメッセージを展開すべきと考える回答者は53%にのぼりました。そして、57%の回答者が、コロナウィルスによる影響が続くと回答しています。


このデータを見てなるほどなと思うとともに、こちらに来てから私自身が購買、利用し続けているサービスにも企業からのメッセージや顧客とのコミュニケーションに共通点があるように感じ始めたのです。


Keep in Touch !

ビジネス、公的な活動問わず、アメリカのこれらの事例から何かのヒントがお届けできれば幸いです。みなさんからのコラムに関するご質問や、こんなことを聞いてみたい、知りたい!というリクエスト、叱咤激励などなど、24時間365日お待ちしております。ではまた次回コラムでお会いしましょう。

columnist
Aya Kubosumi ノマドマーケタ

コニカミノルタ、大阪ガスで行動観察やユーザーリサーチに携わったのち、GOB Incubation Partnersを創業。夫の突然の転職に伴い、東京から3歳の娘と夫とともにNY(ニュージャージー)に移住。ノマドマーケターとして、NYの人々、もの、こと、を日々観察、体験したことを素材に、日本の商品開発マーケターの皆さんと共有したいインサイトを綴ります。

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