NYノマド 第17回 アフターコロナで変わりゆく日常と顧客との関係性 Part4

20.06.22 06:19 PM By s.budo

Part4. "US(私たち)"を強調するメッセージ

コロナウィルスで生活必需品以外の消費が落ち込む中、企業は特徴やベネフィットを強調するのではなく、顧客の頭の片隅に少しでも自分たちの存在があることを思い出してもらえるようなメッセージを広告で打つようになりました。そして、顧客に対して、"US(私たち)"をイメージする言葉や映像が広告に盛り込まれているといいます。


顧客と自社を購買や利益の関係性ではなく、共にこの難局を乗り越える仲間、コミュニティとしての"US(私たち)"です。

実際に、例えば、インターネットやモバイルサービスなどを提供する移動体通信サービス企業のT-Mobile(https://www.t-mobile.com/)は、コロナウィルスに直面し、苦戦しているスモールビジネス、中小企業を対象にビジネスを支援するサービス、料金プラン、キャンペーンを実施し始めました。


その理由は、スモールビジネスは全米企業において99%を占めており、経済活動においても44%を占めていること、しかしながら、このコロナウィルスにおり、およそ70%のスモールビジネスが何らかの金銭的な救済措置を必要としており、この状況を少しでも解決しようとしてのキャンペーンが展開されています。



T-Mobileのこのキャンペーンから、私は2つの点がとても印象的に映りました。
一つ目は、顧客との垣根のない"US(私たち)"の姿勢とコロナウィルスの難局を共に打開するために自社が存在し、自社の役割とできることを明確に展開していること。


二つ目は、全ての人を、ではなく、"特定のコミュニティ(今回の場合はスモールビジネスオーナー)"の支援を表明していることです。
移動通信サービスでは日本も同様かと思いますが、サービス内容やプランは複数社存在する企業を比較してもさほど大きな差異はありません。そして多くの移動通信サービス業は年齢や業種などを超えて、幅広く利用されているサービスですので、幅広い顧客に向けたマーケティングを展開し、メッセージを発しようとします。


しかしながら、マスではなく、敢て特定のコミュニティや顧客を支援しようとする姿勢は、そのコミュニティにいる人とのより強固で感情的な、そして継続的な関係性を生み出す可能性があるように思います。
画像:https://www.nike.com/ntc-appより

顔の見える関係性をつくり、"US(私たち)"を伝えるコミュニケーション

この"US(私たち)"という、垣根なく、対等であり、同じコミュニティに所属しているという関係性は日々のどのようなコミュニケーションやメッセージで醸成されていくのでしょうか。


私が最近経験した事例をご紹介したいと思います。


コロナウィルスによる自宅待機令により食材の買い物が困難になったため、食品の配達サービスを探し、利用し始めました。その時に私が選んだものは、以前から気になってはいたが、試していなかった、Imperfect FoodsMisfits Marketという主に野菜を中心とした食品の定期宅配サービスです。


今後のコラムでこの二つの企業や実際のサービスデザインについて取り上げる機会をぜひ持ちたいと思いますが、今回はこの2社のカスタマーリレーションシップと実際のコミュニケーションに焦点を当てたいと思います。
画像:https://www.imperfectfoods.com/join/subscriptionより引用

Imperfect Foods


Imperfect Foodsは、生産過剰、在庫過剰な食品をすぐに廃棄するのではなく、比較的安価に個人に販売し、食材ロスという社会的課題を解決しようとするビジネスです。

画像:https://www.misfitsmarket.com/より引用

Misfits Market


Misfits Marketは規格外で売り物にならない野菜を中心に、農場から買い取り、市販価格の約4割の価格で個人宅に販売、配達するものです。こちらも、食材ロスという社会課題を解決しようとするビジネスです。

コロナウィルスによるロックダウンや学校の休校、レストランの休業などで、食料品の大量廃棄がアメリカでも問題になっていました。
食品配達サービスでは、ホールフーズといったスーパーの宅配サービスなどももちろんたくさん存在するのですが、こうした状況で新たに何かサービスを利用するのであれば、自分が抱える「買い物のために外出したくない」という課題を解決するだけでなく、コロナ禍で私がコミュニティや社会に対して少しでもできることはないか、コミュニティや社会に貢献している企業やサービスを選びたいと考え、トライし始めたことがきっかけです。


現在この二つのサービスを組み合わせて、買い物のために外出することを極力避けています。


同じように考え、行動した人がコロナ禍で急増したのでしょう。
上記二つのサービスともに、定期宅配が始まるまでに数週間待つ必要がありました。そして需要が急増したせいか、送られてきた食品も、注文の内容と違ったり、欠品があったり、アメリカの雑な配送で痛んでいたりと、毎回何らかしらの問題が起きています。カビが生えていたり、腐っていた食品が送られてきたことも2度や3度ではありません。いつもの私であれば、こんなサービスクオリティの悪いものはすぐにやめてしまえ!と切ってしまうのですが、なんと今回ばかりは続けているのです。


それは、外出せずに買い物をするという選択肢を確保しておくことももちろんですが、二つのサービスが食材ロスを解決しようとしていたり、農場を支援しようとしている姿勢、そして、それ以上に"顧客との関係性、コミュニケーションの仕方"、にあります。
画像:筆者メールより引用
例えば、こちらはMisfits Marketを始めて定期宅配を申し込みした際、およそ2週間強、需要過剰で宅配が開始されなかった経験をしましたが、その時に送られてきたメールの一部です。いったいいつ来るのか、とイライラしながら見たこのメール、Misfits Marketの創業者、CEOからというかたちで送られ、定期宅配開始の遅延をお詫びする言葉と共に、その理由、現状、現状やコロナウィルスに対する対策が丁寧に記載されていました。


そしてメールの冒頭は、私たちのチーム、倉庫のスタッフ、有機農家、ベンダーを含む私たち全員(all of us)からのお礼の言葉ですという内容から始まっています。もちろん、今まで利用したことも、この会社の誰かの顔をみたこともありませんが、なぜか、この企業のステークホルダーを身内として認識し、"all of us"と表現している点に、このサービスに携わり、支え、そしてこのコロナ禍で懸命に働いてくれているたくさんの人の存在を感じてしまったのです。


そしてそう感じてしまうと、よし、もう少し待ってみようかな、となぜかこの企業を信じて応援してみようと思う気持ちが湧き、宅配を待つことに。
画像:筆者メールより引用
Imperfect Foodsでは、2回目の配達の際に、間違った住所に配達が届けられて、自宅に届かなかったというトラブルがありました。
通常、配達を完了すると、私のスマートフォンにテキストメッセージで、配達完了したというメッセージが届きます。


この日はこの配達完了メッセージを受け取ったにも関わらず、自宅には届いていなかったため、すぐにImperfect Foodsの顧客対応窓口にウェブサイトから連絡をしました。

私が連絡をしたなんと3分後に顧客対応の担当者から返信が送られてきたのです。

その初動の速さに驚くとともに、その時のカスタマーサービスからのメールがこちらです(黒囲みは配達先の住所)。

いかがでしょうか?


まず、冒頭の文章に目を移してみると、


"I’m sorry about the delivery issues but I’m glad you reached out so we can figure this out together. "


日本語にすると、
「本配達の問題についてお詫び申し上げます、しかしながら私たちが一緒にこの問題について解決できるよう、あなたが連絡くださったことを嬉しく思います。」
という感じでしょうか。

こちらからすれば、配達のミスをしたのはImperfect Foods側なのですが、冒頭での一文、"we can figure this out together"で、一気にトラブルを一緒に解決する”私たち”という関係性が生まれています。そして配達完了した際の写真がメールに添付されています。そして、続くメッセージでは


"Our drivers take pictures of every delivery so I’ve included the photo from today below. Would you be able to look at the photo to see if the location looks familiar to you?"


ー私たちの配達ドライバーは全ての配達時に写真を撮影していますので、本日の写真を下記に添えます。恐れ入りますが、この写真をご覧いただくことができましたら、この場所に見覚えがあるかどうか見ていただけますでしょうか?


配達された場所の写真を確認するように私に依頼していますね。
配達ドライバーが必ず配達完了した際に写真を撮影するということが、配達というプロセスの中にデザインされ、そして、トラブル対応時などの顧客対応にも即座に利用されているようすが伺えます。

そして最後の文章では


"If we aren’t able to locate your order with the help of the photo, I will of course refund or credit your order."


ーもしこの写真であなたのオーダーの(配達した)場所を見つけることができなければ、もちろん、あなたの注文を返金するか、クレジット(Imperfect Foods内で使えるお金として入金されること)します。


と簡潔につづられ、写真の場所に見覚えがなければ、再配達などはなく、返金処理になることが分かります。
定期宅配をしている側としては、届かない場合買い物をしなければなりませんので、再配達してもらいたいところですが、これが需要が増え続け、顧客対応も増加する中でできる最大限可能な対応なのでしょう。

そして私が今回のメールの中で最も気になったのが、最後の担当者の署名の部分です。


"Katrina
Board, Card & Video Game Lover | Imperfect Enthusiasts"


ーカトリーナ
 ボードゲーム、カードゲーム&ビデオゲーム愛好者 インパーフェクトのファン


今回の担当者の名前はカトリーナさん、そして顧客対応のメールで初めてこのような署名を受け取りましたが、彼女はゲーム好き、そしてインパーフェクトフードのファンとあります。
個人のパーソナリティーや好きなことが書き添えられていることで、一気に単なる顧客対応のオペレータという名無しの存在から、私の問題を対応してくれるのは"ゲーム好きのカトリーナさん"という不思議な顔の見えそうな親近感を感じ、距離がぐっと縮まっててしまったのです。
そうなると、配送ミスをされて怒っていた私ですが、上から目線で非難したり、叱咤したりするような気持は消失し、ゲーマーのカトリーナさんと対等に、そして感謝と敬意を持ってメールの返信をしようという気持ちに変わっていたのでした。
対面でのサービスと異なり、オンラインでのショッピングは単に購買し、支払いをするだけの限定的かつ機能的な関係性に閉じてしまっているのではないでしょうか。そんな中、オンラインでのコミュニケーションでも顧客との距離を縮め、"私たち"という関係性を醸成するこれらの企業のコミュニケーションの仕方、デザインには学ぶものが多くあるように思います。


その製品サービスが顧客の課題を解決するだけではもはや不十分です。そして、ニューノーマルの世界でビジネスやマーケティングに求められるのは、このような、"私たちという関係性を営み続けること"、ではないでしょうか。

新たな日常でも変わらない関係性を作り続ける

アフターコロナの世界ではSocial Distancing策が必須プロトコルとなり、今までの顧客やサービスといった経験がネガティブなものに変容してしまうことも多々起きると考えられます。こうしたネガティブな経験をポジティブな経験に変えるためには、安心、安全、信頼が必要不可欠です。このとき、顧客やコミュニティと"US(私たち)"という変わらない関係性を作り続けることができていれば、安心、安全、信頼が担保され、きっと顧客はリオープンした際にも戻ってきてくれるはずです。


ニューノーマルの世界において、この"US(私たち)"という、垣根なく、対等であり、同じコミュニティに所属し、顔が見える関係性が、企業と顧客の関係性において必要不可欠な要素になっていくのではないかと、私は今回の経験を通じて強く感じています。

機能と価格だけであれば、同様の製品、サービスでよりよい機能、より安い価格の他社製品があればすぐに乗り換えられ、コロナウィルスようなパンデミックがあれば、生活必需品が最優先され、それ以外の製品・サービスは購入されなくなります。しかしながら、顧客と"US(私たち)"という関係性が築けていれば、共に困難を乗り越えていく仲間として、その時にできるかたちでお互いに助け合い、その関係性は続きます。

忘れ去られることはありません。

パンデミックのような危機的な状況下でも利用を継続してくれたり、ニューノーマルが訪れた時、また改めてその製品サービスの利用を再開してくれたりするでしょう。
顧客やコミュニティと私たちという変わらない関係性を作り続けることが、ニューノーマルを生き抜く基盤となるはずです。


緊急事態宣言が解除され、経済や社会活動も再開し始めた日本でも、個人、企業といった組織、コミュニティが一緒になってよりよい世界、ニューノーマルを創造していけるといいですね。


それではまた次回のコラムでお会いしましょう。

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ビジネス、公的な活動問わず、アメリカのこれらの事例から何かのヒントがお届けできれば幸いです。みなさんからのコラムに関するご質問や、こんなことを聞いてみたい、知りたい!というリクエスト、叱咤激励などなど、24時間365日お待ちしております。ではまた次回コラムでお会いしましょう。

columnist
Aya Kubosumi ノマドマーケタ

コニカミノルタ、大阪ガスで行動観察やユーザーリサーチに携わったのち、GOB Incubation Partnersを創業。夫の突然の転職に伴い、東京から3歳の娘と夫とともにNY(ニュージャージー)に移住。ノマドマーケターとして、NYの人々、もの、こと、を日々観察、体験したことを素材に、日本の商品開発マーケターの皆さんと共有したいインサイトを綴ります。

s.budo