NYノマド 第19回 コロナ禍で激しさを増すビジネスサバイバル -ニューノーマルを商機に変えるサービスデザインとは?Part3

20.08.18 08:30 PM By s.budo

Part3.子ども向けeラーニング市場~豊富なコンテンツ、サービス&アプリ

こうした学習環境や選択肢が日本と比較して多いアメリカでは、オンラインの学習教材も豊富です。e-learning市場規模をアメリカと日本で直接比較したもので、無料で入手できるデータがなかったため、ざっくりの比較になりますが、2016年度のビジネス教育および学校教育全てを含むe-learning市場の市場規模が、アジア全体で10,936.5百万ドル(およそ11兆5800億円)、北米で23,337.4百万ドル(24兆7100億円)というデータがありました


日本では義務教育については、文科省が指定した教材を利用しなければならないなど、法律的な制約があり、アメリカと同じように子どもの教育にオンラインラーニングやコンテンツを供給することは難しいと言わざるを得ないでしょう。しかしながら、3月半ばに自宅隔離生活が始まった頃に日米双方のオンライン教材を探したことがありましたが、アメリカ(英語)で利用できるオンライン教材はダントツにありすぎて把握しきれない、選びきれないというのが正直な感想です。


結局、娘が通うプリスクールはオンライン授業に完全に移行する前に、保護者向けに簡単なパソコンやインターネット、プリンターなどの環境を確認するアンケートが行われ、あれよあれよと、そのままオンライン授業に突入、Google Classroomをベースに、リーディングやサイエンス、コンピューターなど各教科でそれぞれいくつかのオンライン教材を使い、毎日の授業や宿題をこなすかたちとなりました。


プリスクールですので、幼稚園年中向けの教材となりますが、これが実にたくさんあるのです。


あまりにもたくさんあり、今回はいくつか学校で指定されて利用したオンライン教材をざっとご紹介しつつ、それ以外に利用したオンラインラーニングのサービスなども併せ、これらのサービスの共通点を探ってみたいと思います。


なお、著作権などを考慮し、画像や内容などは公開されている範囲に留めています。

紙媒体からオンラインに利用移行した教材 -Let's Find Out by SHOLASTIC

画像:https://letsfindout.scholastic.com/よりスクリーンショット画像を引用
画像:https://letsfindout.scholastic.com/よりスクリーンショット画像を引用
一つ目は1920年から子ども向け出版社としてグローバル展開しているSCHOLASTIC社がキンダーガーテン(幼稚園)向けに展開する学習教材、"Let's Find Out"です。

こちらの教材は遠隔学習に移行する前からクラスで利用している教材で、対面式でのクラスでは紙媒体のプリントで利用していたものです。
州ごとに学習内容基準が定めされていますが、それらが概ねカバーされた内容で、毎週、季節やイベント、生き物、自然、科学などのテーマでリーディング素材を中心に、関連する学習内容の動画、ゲーム、そしてプリント教材、クラフト教材などがセットになっています。


こちらの教材は先生もしくは親がある程度関与し、指示しながら子どもたちが利用する必要があるコンテンツです。
娘のクラスでは、Google Classroomで先生から、メインのリーディング教材を読むことと、余裕があれば関連動画やゲームを行うようなかたちで学習指示が出されました。


印象的だったコンテンツは、夏休みに入る前5月/6月週の教材テーマが、「High Five for Summer Safety(夏を安全に過ごすためのハイファイブ)」というタイトルで、子どもが夏を楽しむために気を付けること、守るべきルールなどを場面ごとに説明してくれているものです。例えば、プールに入るときは、太陽の下で遊ぶときには、といった場面ごとに、日焼け止めを塗りましょう、水を飲みましょうなど、子どもと一緒に学ぶ内容になっていました。


幼稚園の年齢の子どもにとっては、先生や親に言い聞かせられるよりも、こうして具体的な場面ごとに夏を快適に、安全に過ごすための注意点を写真や動画などで楽しく学べると、すっと頭に入り、イメージができるようです。


扱っているトピックが多岐にわたっていて、季節ごとのものなどは実生活にも役立つ内容である点がよいですが、親がある程度関与しなければならない点がトレードオフでした。
こちらのオンライン教材は教師用の指導コンテンツなども充実しているようで、保護者がエンドユーザーとして利用するというより、学校や教師がエンドユーザーで、学校や教師を通じて子どもが利用するようなビジネスになっているようです。

サイエンス系オンライン教材 -Brainpop Jr.

画像:https://jr.brainpop.com/トップページよりスクリーンショット画像を引用
画像: https://jr.brainpop.com/readingandwriting/word/nouns/よりスクリーンショット画像を引用
続いては、Brainpop Jr.(ブレインポップ・ジュニア)です。


こちらは、サイエンスの教材として学校から期間限定で利用できるアカウントが配布されました。授業で利用するメイン教材というよりは、遠隔学習となり、在宅での学習時間に行う補助教材としての位置づけでした。ですので、我が家では娘が暇を持て余しているときや、興味関心のあるトピックがあった場合に利用するようなかたちでした。

こちらのコンテンツの構成はアニメーション動画によるトピックの講義とクイズによる学びなのですが、動画やクイズには全て文字による字幕がついており、クイズでは出題された問題は単語や文章を読むことができない子ども向けに全て音声での読み上げ機能がついています。ですので、アルファベットを習い始めたばかりで、まだ単語も読めない娘でも、親が介助することなく、クリック動作さえできれば自分で学習を進めていくことができます。

他にも、学んだことをオンラインのノートにチャートを作ってまとめることができる"Make-a-map"のような機能もあります。
学習トピックは広範囲で、例えば、サイエンスには宇宙の太陽系や太陽の役割について学ぶようなものがあり、大人の私でも、「はて、これはどうだったかな? 」と調べなければわからないような内容もあり、なかなか本格的にサイエンスの学びを得ることができます。
子どもの年齢によっては操作方法やクイズなどのコンテンツはやや難しいかなと感じる内容やデザインなのですが、逆に大人も一緒に学びを楽しめるコンテンツやデザインになっている点が評価できると感じました。


今まで私が利用したことがある日本の子ども向け学習コンテンツは、完全に子ども向けにデザインされているものが多く、大人も一緒に楽しめるものが少ない印象を持っていたので、親も子どもと共に一緒に学びを楽しめるという点では、おもしろいユーザーエクスペリエンスのデザインがされていると感じました。

自宅にいながらオンライン図書館で読書を楽しむ -epic!

画像:epi!のウェブサイト、https://www.getepic.com/よりスクリーンショット画像を引用
画像:epi!のコンテンツラインナップ、https://www.getepic.com/よりスクリーンショット画像を引用
画像:epi!のフリーコンテンツよりRead to Me機能のある本の読み上げ機能利用時の画面、"Too Much TV"よりスクリーンショット画像を引用
学校で利用したオンライン教材で最後にご紹介するものは、epic!です。


こちらはリーディングの授業用に期間限定のアカウントが学校から配布されました。
娘のクラスでは対面式クラスの従業で週に1回、図書館で本を読む時間があり、その授業の代替本、兼、代替のオンライン図書館といったような教材でした。
リーディングの先生からの指示で、週に1回、保護者とこちらのサイトを利用して本を読むように指示されました。


こちらのepic!は学年毎に本、コミック、オーディオブック、サイエンスの実験などの動画コンテンツが用意され、利用することができます。文字や文章がまだまだ読めない娘は、"Read To Me"という、読み上げ機能がついている本と動画コンテンツにはまり、一度ログインすると、1時間ほどは熱中して読んだり、動画を観たりしていました。


私自身、オンライン教材の中でお気に入りだったのも、この"Read To Me"機能がついた本で、読み上げの音声機能とともに、読み上げている箇所が反転表示されるため、どの箇所を読んでいるかが目で見ることができ、ただ単に読み聞かせができるというだけでなく、この読み上げ個所の表示機能があることで、子どもが単語や文章に注意を向けてくれるからです。

動画などのオンラインコンテンツはどうしても"受動的"に消費してしまう傾向がありますが、この機能は大人が読み聞かせる場合ではできない、オンラインならではの積極的な学びにつながる機能価値なのではないかと感じています。


個人的には、親が子どもに本を読み聞かせ、一緒に想像したり、語ったりする積極的な双方向の体験が、親子双方の学びやコミュニケーションを促進、発展させると考えており、オンラインが全てを代替してくれるとは思いません。しかしながら、遠隔学習がニューノーマルとなりつつある今、テクノロジーやオンラインならではのメリットも積極的に活用していくべきだとも考えています。

文字や文章を学び始めた娘にとって、音声と共に学びの良い機会になるのではと、この読み上げ機能はスクリーン時間が長くなることへの親側の罪悪感を低減してくれるものでもありました。


ちなみに、娘自身は、やはり動画コンテンツが楽なのでしょうか、このepic!で何を見てもいいよとフリーハンドで渡してみて様子をみたのですが、3人の小学生の女の子が、スライム作りなどの家でできる実験やクラフトをする動画があり、そればかり数時間ずっと見てしまうという結果でした。親がしっかりと意識して子どもにコンテンツを選ばせる、一緒に学習の方向付けをするという介入が必要だとこのプチ実験から改めて実感しました。


このepic!のビジネスモデルでは、学校や教師向けのBtoBおよび、子どもを持つ親向けのBtoCの両方のサービスが提供されており、いずれも、利用単位や対象により、サブスクリプション型の課金モデルが展開されています。


教育者向けには無料で初期導入を提供することで、評価されれば、大口ユーザーが誕生するかもしれませんし、少なくとも、我々親子のように学校からフリーアカウントを提供されて、期間限定で利用することで、このオンラインコンテンツのサービスを認知することになりましたので、広告宣伝の価値や、これがきっかけでエンドユーザーとして課金してこのサービスを利用し始める保護者が出てくるかもしれません。


子どもの教育・学習という市場において、ステークホルダーを抑えた上で、どのようにビジネスを展開すべきか、こうした観点も学びが得られそうです。

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columnist
Aya Kubosumi ノマドマーケター

コニカミノルタ、大阪ガスで行動観察やユーザーリサーチに携わったのち、GOB Incubation Partnersを創業。夫の突然の転職に伴い、東京から3歳の娘と夫とともにNY(ニュージャージー)に移住。ノマドマーケターとして、NYの人々、もの、こと、を日々観察、体験したことを素材に、日本の商品開発マーケターの皆さんと共有したいインサイトを綴ります。

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