NYノマド 第19回 コロナ禍で激しさを増すビジネスサバイバル -ニューノーマルを商機に変えるサービスデザインとは?Part4

20.08.26 10:44 AM By s.budo

Part4.プレイヤーが豊富なアメリカの子ども向けe-learning市場

ざっと3つのオンラインラーニングサービスをご紹介しましたが、他にも我が家でコロナウィルスのパンデミックによって自宅待機生活を過ごす間、いくつかの子ども向けオンライン学習サービスを利用しました。

娘が気に入ったもので私たちが有料課金で利用したものには、スマートフォンもしくはタブレット端末で利用できるサイエンス教材アプリの"Tappity"や、教えたい人と学びたい人をつなぐ日本のストリートアカデミーの子ども向けオンラインクラスを展開する"Outschool"があります。

Tappity

画像:https://www.tappityapp.com/よりスクリーンショット画像を引用
学校が遠隔学習に移行して、とある日に宇宙の太陽系について学ぶ週があったのですが、そこで興味を持ってもらうためにYouTubeで太陽系をテーマにした英語の歌をかけたところ、それにはまり、そこから宇宙について学びたいという意欲が湧いてきたため、サイエンスアプリを探して試してみたことがTappity利用のきっかけです。


自宅でオンラインラーニングをすることは親にとっては時間や労力がかかることではありますが、子どもの興味関心に気づくことができる機会でもありました。そしてこのTappityを利用してみると、あれよあれよとサイエンスにはまり、気づくと、太陽系について、星や惑星の順番や特徴、人体の主な構造などについて私よりも娘は詳しくなっているという結果になりました。このTappityは子ども向けのテーマごとの講義を、NHKの子ども向け教育番組のようにホストが楽しく説明したり、冒険していくようなかたちでストーリーが展開し、その中にクイズや、子どもが積極的に関与するようなしかけや体験のデザインがされています。単純ですが、例えば、人体の構造を説明する画像場面では、画面に触ってこすると、細胞のような画像がたくさんあらわれるようなデザインがされており、一見、つまらなそうな画像でも、そのスクリーン画面から離脱することを最小限にするような体験デザインがなされていることが印象的でした。

Outschool

画像:https://www.facebook.com/outschool/よりスクリーンショット画像を引用
Outschoolはサンフランシスコベースの会社でCtoCの子ども向けオンラインクラスを提供したい人、学びたい保護者をつなぐプラットフォームを提供しています。
およそ30,000を超えるクラスを提供しており、シェアエコノミー系のサービスの一つといえるでしょう。
教師の資格の有無を問いませんので、先生となってクラスを提供する人のバックグラウンドは本当に様々です。
クラスの授業内容も、レゴで遊ぶもの、本の読み聞かせ、ダンス、アート・クラフト、ヨガ、マジック、リーディング、算数、サイエンスの実験、パペットなどかなりのバラエティがあり、リアルタイムでZoomを繋いで行うものもあれば、フレックス制で、受講期間中に、好きなタイミングでコンテンツにアクセスし、先生の動画や提供教材を利用して学習するものもありました。

Outschoolのウェブサイト内で授業を提供できるようなプラットフォームがデザインされています。
中には"Jedi Knight Star Wars Training (3-6 Yrs)"という、スターウォーズのライトセーバーを持って、かっこよくライトセーバーの使いこなしを学び、身体を動かそうというようなクラスも。

価格はおよそ10ドル台から。回数や頻度、時間などによって価格も様々です。
子どもの年齢ごとにクラスが検索でき、また、保護者の評価が先生や授業自体にされているため、それらを参考にしながら数ある先生やクラスを選ぶことができます。

我が家は娘が関心を持った宇宙や太陽系について学ぶフレックス制のクラスと、舞台女優をしていた女性が先生でディズニーのアニメ映画の歌をピアノで一緒に弾き語りをし、歌うことができる、Zoomのオンラインレッスン"Disney-sing-along(ディズニーの歌を一緒に歌おう)"のクラスを受けました。
本人が一番お気に入りだったのは、アナと雪の女王2やモアナの歌が大好きだったためか、ディズニーの歌を歌うクラスでした。先生の歌唱力が抜群で、聞いているだけで楽しかったようです。
こちらのOutschoolは、オリジナリティあふれるクラスを、ユニークな先生から自宅にいながら楽しむことができる点や、こうしたオンラインでなければなかなかできない学びの体験が得られるという点がエンドユーザーへの提供価値であるといえそうです。



また、このOutschoolコロナウィルスによるパンデミックで仕事の機会が減ったり、職を失ったような人や先生にとって、オンラインという場で収入を得る機会を提供しており、日に日にオンラインクラスを提供する先生やクラスの数が増えているように感じます。

UberやAirbnbといったシェアエコノミー系のサービスは、ドライバーや家を貸すホストといったサービスの提供者がいなければ成立しません。また、もともと、ホームスクーリングが存在するアメリカでは、教える人向けに、例えばPDF教材やアート・クラフトのDIY教材など、教育のコンテンツを有料もしくは無償で提供するコンテンツのC(B)to C(B)のサービスやプラットフォームも存在し、教えたいと思う人を後押しする要素があることも大きいかもしれません。

このOutschoolも、コロナウィルスによるパンデミックで提供者や利用者の増加という後押しを得て、一定の存在感や地位を獲得することは間違いないでしょう。

ニューノーマル時代のオンライン体験やサービスからの示唆

今回ご紹介した体験型おもちゃ屋さんCAMP、そして子ども向けの教育、いずれも元来は物理的な場所で、顧客に体験を提供していました。しかしながら、コロナウィルスによるパンデミックでオンラインプラットフォームを活用した体験の提供に少なからず移行することとなりました。今回実際のオンラインで提供され、私が経験してみたサービス体験から学んだこと、感じたことをもとにオンラインへのサービス移行やオンラインでの新たな体験、価値提供への示唆を考え、簡単に2点まとめてみたいと思います。

1. オンラインやテクノロジーを通してでしか提供できない価値や体験を組み込む

一つ目は、オンラインやテクノロジーを使ってできる新たな体験や価値を提供することです。

例えば、CAMPのオンラインバースデーパーティは、一度に複数の家庭や子どもたちに、バースデーパーティを提供し、その家族や友達と共に自宅にいながら(コロナウィルスの心配をすることなく)みんなでエンターテイメントを楽しんだり、1年に1度の大切な時間を共に過ごすことができます。また、CAMPではスカベンジャーハントなどのアクティビティで、各家庭内の場をつないだゲームをしたりすることで、自宅にいるからこそできる、参加者の今いる場所とみんなで繋がる新たな体験も提供していたと感じます。


オンライン教材では、テキスト、動画、インタラクティブなコンテンツなど複数のメディア形式を組み合わせ、子どもの関心や集中力を高めるようなデザインが肝要となるでしょう。また、epic!は本の読み上げ機能と共に、読み上げている箇所を反転表示させるという機能も同様にオンラインだからこその提供価値と言えるでしょう。これにより、子どもの学びだけでなく、学びが拡がるという価値により、親が子どものスクリーン時間が長くなることの罪悪感を減らせる可能性もあります。物理的な店舗や経験を代替する、しないの二元論ではなく、オンラインだからこそ、フレキシブルに、自宅にいながら受容できる価値をデザインし、サービスに組み込むことが求められていると考えます。

2. 意図的に関連する複数のステークホルダーにリーチし、巻き込み、エコシステムを作るデザイン

二つ目は、オンラインでは特に意識して関連するステークホルダーにリーチし、巻き込む、エコシステムを作るデザインをすることです。


例えば、通常の子ども向け学習教材であれば、教師と生徒が学ぶためにデザインしたものを学校や教師に売り込み、販売し、最終的に教師と生徒が利用する、もしくは子どもの家庭学習向けにデザインし、子どもの保護者に販売するという、利用する場面やユーザーごとに、コンテンツやサービスをデザインするかたちが多くみられると思います。

しかしながら、ご紹介したいくつかのオンライン教材では、学校、教師、保護者、子どもという利用に関わるマルチステークホルダーに向けて、コンテンツがデザインされています。学校や教師向けのインストラクションなどは別途提供されていますが、基本的に利用するコンテンツやサービスは同じです。これによってコンテンツ制作やサービスデザインのコストを低減するとともに、タッチポイントがあるステークホルダーを通じて、複数のユーザーにリーチしたり、利用機会を提供したりしやすくなるのではないでしょうか。


今回の例でいえば、私たちがオンラインラーニング教材を利用し始めたのは学校からのフリーアカウント提供がきっかけです。他にも、CAMPの無料のオンラインバースデーパーティでは、パーティの最後にCAMPの司会から、今日のパーティの写真や動画などは自由にソーシャルメディアにアップしてください、その際、CAMPのハッシュタグをぜひつけて投稿してくださいというコメントがありました。ポテンシャルユーザーやカスタマーに効率的に広告し、リーチするにはもってこいの方法です。特に現在、コロナ禍で在宅時間が多いユーザーとのタッチポイントをいかに増やすかという課題をかかえる企業も多いのではないかと思います。


自社サービスのステークホルダー間の関係性を活用したり、構築するデザインを意図的に取り入れることで、自社サービスへの関心やエンゲージメントを高めるエコシステムを醸成することができるかもしれません。

生き残りをかけた進化はまったなしです。
先日もこちらニューヨークとニュージャージーで長年幼児教育を提供していた学校が閉校になったというニュースを聞きました。伝統があっても、ニューノーマルで生き残りが難しい経済状況の中、物理的な場所を起点としたサービス提供にオンラインでの体験やサービスを組み込み、新たなニューノーマルのサービスを提供していくことを選択肢の一つに入れ、考えてみてはいかがでしょうか。


それではみなさん、どうぞ健康第一で、コロナ禍を乗り切り、次回のコラムでまたお会いしましょう。

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columnist
Aya Kubosumi ノマドマーケター

コニカミノルタ、大阪ガスで行動観察やユーザーリサーチに携わったのち、GOB Incubation Partnersを創業。夫の突然の転職に伴い、東京から3歳の娘と夫とともにNY(ニュージャージー)に移住。ノマドマーケターとして、NYの人々、もの、こと、を日々観察、体験したことを素材に、日本の商品開発マーケターの皆さんと共有したいインサイトを綴ります。

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