NYノマド 第22回 トレンドとしてのサスティナビリティから生活に埋め込まれたサスティナビリティへ プロローグ

20.11.04 10:38 AM By s.budo

NYの事情、風景 -経済と文化復興までの遠い道のり

皆さん、こんにちは。秋空が美しい季節となりました。ニューヨークでは市内の木々も紅葉し、秋真っ盛りです。


ニューヨーク市内では9月からの新学期の影響もあり、コロナウィルスのクラスターが複数発生し、警戒を強めています。


緊張感が高まる中、ブロードウェイは2021年5月までの閉鎖が決定、ニューヨーク・フィルハーモニックは178年の歴史の中で初めて2021年6月までのシーズン全体の公演の中止を決定してしまいました。

また、マンハッタンのグランドセントラル駅の名所の一つでもあった107年の歴史を持つグランドセントラル・オイスターバーが9月30日に約7か月ぶりに営業を再開しましたが、12日後には高額な家賃支払いなど経営の採算が経たず、再度の閉店に追い込まれてしまいました。

さらに、同じくグランドセントラル駅の至近にある、1924年創業という約100年続いた老舗ホテルであり、歴史的な建造物でもあるルーズベルトホテル、そしてマンハッタンのミッドタウンを代表するヒルトン・タイムズスクエアホテル閉業することとなりました。ルーズベルトホテルは、第26代アメリカ大統領、セオドア・ルーズベルト大統領にちなんで名づけられたホテルで、"Maid in Manhattan"、 "Malcolm X" や "Wall Street"といった映画の舞台にもなったホテルです。


ニューヨークが培ってきた文化がこうした形で幕を下ろし、失われていく様子は何とも言えない気持ちになります。


ニューヨークタイムズ紙によれば、9月にはおよそ230万人のニューヨーク州民が失業保険を受け取っており、少なくとも130万人のニューヨーク市民が失業、もしくは失業に近い深刻な休職状態などに追い込まれていると言います。そしてこの失業は主に5つの主要産業、レストラン、ホテル、芸術、輸送、商業用不動産業で、観光とビジネス活動の縮小により大きな打撃を受けていることが影響しているといいます


観光とビジネス出張などの旅行の激減の影響は、ホテルやエンターテインメント業界といった産業のみならず、文化に深刻なダメージを与えています。

コンタクトフリー(接触なし)のハロウィンイベント

暗い話題ばかりでしたが、10月はなんといってもアメリカではハロウィン🎃イベントです。


例年、各地でハロウィンイベントが盛大に催され、お子どもも大人もウキウキで入念に準備し、店やデパートはハロウィングッズやデコレーションで埋め尽くされます。しかしながら今年はコロナウィルスの影響で、ハロウィンのイベントはかなり縮小され、各家庭の庭の飾りつけも例年と比較して抑え気味、もしくはやらない家庭が多いように感じます。

ニュージャージー州では知事からハロウィンイベントを行うためのガイドラインが10月早々にアナウンスされました。


その内容は、

    • トリートバッグ(お菓子を子どもに配るためのバッグやかご)に入っているキャンディなどのお菓子は子どもが直接手で触れないが、取れるように工夫すること
    • お菓子は個包装のものを用いること、商業的に個包装されたパッケージのものを使用する(手作りのお菓子を包装したものなどは避ける)
    • トリックオアトリートをしにいく人は必ずマスクを着用すること
    • トリックオアトリートをしにいくグループは1家庭に制限し、訪問する家庭数を制限すること
    • 地元近隣に留まって行うこと
    • キャンディを食べながらその場で集まって過ごしたりしないこと
などで、かなり細かい内容となっています。


娘の学校でもハロウィンパーティをクラスで行いますが、子どもに渡すお菓子などは必ず商業的に個包装されたパッケージで持参すること、また、必ずパーティの1日以上前に学校に持参すること、そのお菓子やおもちゃなどは指定された部屋に24時間以上隔離された後に渡しますという指示連絡が来ていました。可能な限りコロナウィルスの直接のコンタクトを減らせるような施策を打つことが求められていました。


こちらアメリカでは、芸能人やスポーツ選手などのセレブリティの自宅では、誰でもウェルカムなハロウィンイベントを盛大に行う方が一定数おり、そうしたセレブのお家や方々を見たい、行ってみたい人がわんさか集まります。しかしながら、"地元近隣に留まって行うこと"がガイドラインにも出されていましたが、わざわざイベントのために出かけることについて自粛が求められていますので、今年はこうしたイベントも自粛されるのではないかと思われます。
画像:Fox CarpetのFacebookページよりスクリーンショット画像を引用


カーペットが巻かれていた管をトリックオアトリートのお菓子を片方の入り口から入れて、コンタクトフリーで子どもたちがお菓子をもう一方の入り口から受け取るというアイデアです。


コロナウィルスで物理的なイベントが激減している中でも、なんとか子どもたちに楽しい時間を持ってもらおうというカーペット会社の粋な計らいに心が温かくなりました。


そして、従来はゴミとして廃棄処分されていたであろう、カーペット芯がこのようにリユースされ、ハロウィンイベントの楽しさとソーシャル・ディスシング策の2つの価値を支えるツールとして生まれ変わっている点が素敵ですね。



さらに同様の事例をもう一つご紹介したいと思います。

写真:送られてきたアマゾン段ボール、筆者撮影
今年のハロウィン時期を控えたアマゾンの段ボールです。


こちら、何気なく受け取ったアマゾンの段ボールですが、かぼちゃのジャックオランタンのイラストとともにQRコードが記載されています。


かぼちゃのジャックオランタンを自由にデザインして、QRコードからアプリをダウンロードすると、自分が書いたり、デザインしたジャックオランタンをバーチャルリアリティで楽しめるというものです。




その名も、"Amazon Augmented Reality"。






写真:ジャックオランタンをデザインする娘、筆者撮影
このアマゾンのジャックオランタン段ボールは、配達用ダンボールをゴミ箱に捨てるまでの間、再利用するための楽しい方法を提供することをコンセプトにアプリとして提供されているものです。

我が家でも娘がジャックオランタンデザインに張り切って挑戦!

さて、ダウンロードしたアプリで読み込んでみると??




写真:アマゾンのVRアプリでデコレーションされたVRジャックオランタン、筆者撮影
手書きデザインをしたかぼちゃがスマートフォンの画面上に浮かび上がりました。このジャックオランタン、色やアイテムなどのフィルターを好きに選んでアレンジすることができます。


これには娘も大喜び。段ボールを見るたびに、私のアマゾンアプリを起動してくれとせがみ、楽しそうに遊ぶので、段ボールを捨てるに捨てられず、未だ我が家のリビングの片隅にはこの段ボールが転がっています(笑)。



配送という役割を担う段ボールに、工作を楽しむ機会を埋め込んでくれているこのアマゾン段ボール。複数の副次的な顧客価値を、主要な機能的価値や目的以外に埋め込むというアプローチは、顧客との関係性強化やエンゲージメントを高めることに寄与してくれそうです。

第22回NYノマドでは、「サスティナビリティから生活に埋め込まれたサスティナビリティへ」をテーマに、ニューヨークを中心に、"Sustainability"をキーワードにどのようなビジネスやサービス、プロダクトが展開されているのかをご紹介させて頂きます。そして、これらのビジネスに映る若者世代のサスティナビリティ意識と行動について検討してみたいと思います。

Part1. まったなしの"サスティナビリティ"、行動する市民、個人によるエンパワーメント 


Part2. サスティナブルなライフスタイルを提案するメディア&ストア、サスティナブルなビーガン素材のEバイク


Part3. 100パーセントゴミなしのショッピング体験、若者世代に埋め込まれた、サスティナビリティ意識と行動

それでは、次回のPart1. まったなしの"サスティナビリティ"、行動する市民、個人によるエンパワーメントでお会いしましょう。 

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Aya Kubosumi ノマドマーケター

コニカミノルタ、大阪ガスで行動観察やユーザーリサーチに携わったのち、GOB Incubation Partnersを創業。夫の突然の転職に伴い、東京から3歳の娘と夫とともにNY(ニュージャージー)に移住。ノマドマーケターとして、NYの人々、もの、こと、を日々観察、体験したことを素材に、日本の商品開発マーケターの皆さんと共有したいインサイトを綴ります。

s.budo