NYノマド 第23回 ニューヨーク州のピンク税廃止にみる"ソーシャルインクルージョン"のトレンドと企業の実践 Part.1

20.12.04 10:46 AM By s.budo

子どもも真剣に投票?悲喜こもごもの大統領選挙

皆さん、こんにちは。
気温がマイナスを下回る日も徐々に増え、本格的な冬が到来しているニューヨークです。日本でも徐々に寒さが厳しくなってくる頃でしょうか。


こちらアメリカで11月に何よりのビッグイベントだったのは大統領選です。複数の州で開票結果が選挙1週間前後までもつれ込みましたが、来年1月から新たな大統領が誕生することになりました。


ジョー・バイデン氏の勝利が確定した11月8日土曜日の午後はニューヨーク市内で彼を支持したたくさんの人々が街に出て歓喜の声をあげました。私が住むニュージャージーでも、ジョージ・ワシントン・ブリッジに近い道路で、複数のクルマがクラクションを鳴らし、音楽をかけながら通り過ぎるようすを聴きました。東海岸の都市部、ニューヨーク市やニューヨーク市に近いニュージャージーエリアは概して民主党支持者が多いため、このような光景となったわけですが、他の民主党もしくはジョー・バイデン氏支持者たちが街に出て喜びを共有し合う様子がニュースやソーシャルメディアで流れました。
もちろん、7300万人というトランプ現大統領の支持者たちは大いに落胆し、首都ワシントンではトランプ氏の支持者が集い、選挙結果を疑問の声を投げかける抗議活動を行っています。
画像:学校の模擬選挙投票のようす、学校のFacebook公開サイトよりスクリーンショット画像を引用
5歳の娘が通う学校では、11月3日の投票日は、通常の制服の代わりに、アメリカの国旗の3色、赤、青、白、のカラーの好きな服を着てきてよいと言われ、学校内に設置された投票ブースで模擬投票が行われました(写真)。


当日、3歳児クラスから8年生までの全生徒が、トランプ氏もしくはバイデン氏のどちらかに投票するというイベントです。


4年に1度だからでしょうか。そうであったとしても、このように子どもが小さなころから実際に投票する経験を行うことで選挙を身近に感じ、学ぶ機会があることに驚きました。


当日、帰宅した娘は「私のクラスではバイデンが勝ったんだよ。私もバイデンにvoteしたからよかった!」と興奮気味に話すのです。我が家では特に民主党が、共和党が、という会話を多くしていなかったため、親からの影響もそこまでなかったと認識しているのですが、興味本位で娘になぜバイデン氏に投票したかを尋ねてみると、誇らしげに「だって、もうプレジデントトランプは(大統領を)やったから、次はバイデン。そうじゃないとフェアじゃないでしょ。まだやってない人がやるんだよ。それがフェアなんだよ。」との回答。

大統領をすでに務めた人ではなく、次の人に席を譲るべき、それが公平だというのが彼女なりの論理のようです。
子どもが考えることはなかなかおもしろいですね。


アメリカに来て、現地で初めて大統領選を目の当たりにした私は、この4年に一度の選挙の様子が、同じく4年に一度開催されるスポーツの祭典、オリンピックにも似たような祭事性とともに、自分たちの国のリーダーは自分たちで選ぶという国民の強い関心とオーナーシップを実感しました。

画像:https://www.pewresearch.org/より引用

さて、トランプ政権による不正選挙提訴問題が続き、トランプ氏の支持者とバイデン氏の支持者間で選挙や投票カウントに対する評価がかなり割れているものの、来年1月の政権交代に向けての準備が始まっています。

コロナウィルスの第二波が猛威をふるうアメリカ国内の雲行きはなかなか晴れません。

ニューヨーク市では、陽性率が増加の一途をたどっていることと11月26日のサンクスギビングのホリデーシーズンを迎えることを考慮し、11月19日から一時的に市内の全ての公立学校の対面授業が閉鎖となりました。アメリカ人が最も大切にするホリデーイベントの一つであるサンクスギビング(感謝祭)は、日本のお盆やお正月のように、家族や親せきで集う大切な機会です。

しかしながら、アメリカ疾病予防管理センター (CDC)からは複数の世帯で集うことや旅行(飛行機だけでなく、自動車などの移動も含む)を避けるように勧告が出ています。

ニューヨークでも二度目のロックダウンも時間の問題ともささやかれ、落ち着かない日々が続いています。


そしてもう1つ、 今回の選挙では、ニュージャージー州では、娯楽用大麻の合法化についても同時に州民投票が行われ、賛成多数で可決されることとなりました。これを受けて近隣のニューヨーク州やコネチカット州ではまだ合法化されていない 娯楽用大麻がニュージャージー州で2021年1月より解禁となります


コロナウィルスのパンデミックもあり、ストレス軽減のための需要がかなり見込まれるとともに、州内だけでなく、巨大な潜在的マーケットを持つ隣州ニューヨークの需要も大いに喚起しそうです。
どのような新たなマーケットやライフスタイルが生まれるのか、関心を持ってウォッチしてみたいと思っています。

第23回NYノマドでは、「ニューヨーク州のピンク税廃止にみる"ソーシャルインクルージョン"のトレンドと企業の実践」をテーマに、社会動向、差別に対する問題提起、様々な企業活動をご紹介させて頂きます。そして、人種や民族構成、文化、経済、社会状況を超えた本来的な価値観を考察してみたいと思います。

  • Part1. 女性が払わされているエクストラコストを是正せよ -ニューヨーク州で"Pink Tax(ピンク税)"を禁じる法律が施行 
  • Part2. AIなどのテクノロジーが助長するジェンダー差別、マイノリティへの偏見
  • Part3. 製品広告にみる企業のダイバーシティ、ソーシャルインクルージョンのメッセージ
  • Part4. 一人ひとりに、コミュニティに共鳴する企業価値を訴求

Part1.女性が払わされているエクストラコストを是正せよ 
ニューヨーク州で"Pink Tax(ピンク税)"を禁じる法律が施行

新たな法律といえば、ニューヨーク州ではもう一つ、9月30日から施行された新しい法律があります。

それは、"Pink Tax(ピンク税)"です。
画像:https://predge.jp/102193/より引用

ピンク税とは「女性向けの製品サービスで、男性の同様の製品サービスと比較して価格が高く販売されていること」を指します。


例えば、シャンプーやカミソリ、理美容院、ドライクリーニング、洋服などのアパレルといった製品サービスでは、女性向けと男性向けのものを比較すると、女性向けの製品サービスが往々にして高い価格で販売されていることが多いのではないでしょうか。


アメリカでは女性のサニタリー製品に対して、消費税を課すことを免除する、もしくは税金を廃止する法律がミネソタ州、イリノイ州、フロリダ州、メリーランド州、ニュージャージー州、ペンシルベニア州、ニューヨーク州、コネチカット州、マサチューセッツ州、ネバダ州の10州で施行されていますが、これもピンク税の一つとして考えられています。

今回の法律では、ニューヨーク州でコンシューマー向け製品サービスの販売提供を行う場合、ジェンダー間で価格差を設定することが禁止されることとなりました。州のピンク税廃止に関する情報を掲載したウェブサイトには具体的に、この法律に違反する例が挙げられています。

例1)子ども向けのスイミングプールで同じブランド、同じサイズで提供されている製品で、ピンクが89.99ドルで、ブルーが69.99ドルで提供されていた場合


例2)ドライクリーニングで女性用スーツジャケットが12ドル、男性用スーツジャケットが8ドルの場合
ドライクリーニングや美容室などのヘアカットサービスでは、日本でも、女性向けと男性向けの価格設定が異なることが所与の前提とされていることが多いように思います。改めてこのようにピンク税廃止という法律施行に立ち会うと、 この価格設定が持つ、様々な見えない経済的、社会的機会損失や、社会や経済が包含していた固定概念に気づかされます。


同時に、この法律が適用される場合とそうでない場合の場合分けや、企業側の価格設定がかなり複雑になりそうに感じました。


例えば、例に挙げられていた子ども向けのスイミングプールの場合、アマゾンなどでショッピングをしていると、製品の色によって異なる価格で販売されていることがしばしばあり、多くは需要が少なく不人気と思われる(在庫が多いものと想定)色のものが安く販売されています。コストや需要などの経済的な観点で価格設定がなされています。
しかしながら、これがたまたま男の子を象徴する色だった場合、価格設定のロジックを変更する必要が出てきます。
また、例えば、ピンクは女の子向け、ブルーは男の子向け、薄いグレーはユニセックスなカラーとして認識されていますが、そもそも、色でジェンダーを弁別しようとすると、結局、ジェンダーフリー(もしくは昨今アメリカでは"バイナリーフリー"と表現されます)ではなく、ジェンダーに縛られた状態のままなのではないか、などの疑問や懸念が湧いてきます。

企業などの製品サービスの提供者側は、ビジネスで考慮すべき変数が増えたことになり、新たな価格ロジックや戦略に試行錯誤することになりそうです。そして、これに対応するリソースやコストを削減するために、男女を強調するようなカラー展開を廃止し、ユニセックスなカラーのみの製品展開にするなど、提供される製品サービスのデザインにも影響がありそうですね。


実際に私が利用している日系のヘアサロンでは、メンズカット、ウィメンズカットの価格設定がされていたのですが、それを廃止し、ヘアスタイリストのランクに応じた価格設定に変更していました。この法律と価格変更についてヘアサロンのオーナーの方と話をした際に、髪の長さは男女でも長短あるが、女性の場合、の長さに関わらずブローの工程がほぼ必ず入るので、その点がコストアップ要因の一つだった、そこで、スタイリストのランクと施術内容で価格設定をすることにしたと話していました。


類似製品やサービスの価格差については、明確な説明責任が生じ、下記のいずれかの理由を提示しなければなりません。
  • 製品製造やサービス提供にかかった時間
  • 製品製造やサービス提供における労力(困難さ)
  • 製品製造やサービス提供において発生した費用
  • 製品製造やサービス提供に供された労働力
  • 製品製造やサービス提供に使われた素材
  • ジェンダーニュートラル(ジェンダーに中立)な理由での製品やサービスのコスト増加
そしてこのピンクタックス税の法律に違反した場合の罰則ですが、第1回目の違反で250ドルを上限とした罰金、それ以降は500ドルを上限とした罰金が科されます。大きな金額ではありませんが、罰金以上に、このピンク税に違反したという事実が、そのお店や企業のブランドや評判にネガティブな影響を及ぼすことは必須でしょう。



今回のピンク税廃止の法律施行に際して、ニューヨーク州知事のクオモ知事は、

"ニューヨークは女性の権利を前進させることにおいて、この国を牽引している。そしてこれは(この法案は)障壁を打ち破り、女性の公平な活躍の場を推進するニューヨークのジャーニーにおいて、画期的なマイルストーンとなる最新の一歩となるだろう。ピンク税を廃止することで、女性や女の子が有害で不公平な価格差別を被ることがなくなり、また、このような卑劣な慣習に終止符を打つことができなかった全てのビジネスに対して責任を課すこととなる"

https://www.governor.ny.gov/news/governor-cuomo-reminds-new-yorkers-pink-tax-ban-goes-effect-today#:~:text=The%20new%20law%20mandates%20that,goods%20or%20services%20are%20marketed.

この言葉から、ここまでしなければ、ピンク税がもたらしていた女性に対する社会的、経済的損失を容認しつつけることになるというかなり力強い意志を感じます。

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Aya Kubosumi ノマドマーケター

コニカミノルタ、大阪ガスで行動観察やユーザーリサーチに携わったのち、GOB Incubation Partnersを創業。夫の突然の転職に伴い、東京から3歳の娘と夫とともにNY(ニュージャージー)に移住。ノマドマーケターとして、NYの人々、もの、こと、を日々観察、体験したことを素材に、日本の商品開発マーケターの皆さんと共有したいインサイトを綴ります。

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