NYノマド 第23回 ニューヨーク州のピンク税廃止にみる"ソーシャルインクルージョン"のトレンドと企業の実践 Part.4

20.12.21 10:45 AM By s.budo

Part.4 一人ひとりに、コミュニティに共鳴する企業価値を訴求

マイノリティを支援する活動を企業が展開する事例をいくつかご紹介しましたが、私自身が印象的だったのは、企業が製品・サービスを通じて提供している価値と共鳴するかたちでマイノリティ支援のメッセージと活動を展開している点です。


ご紹介した動画広告では、企業が自らの政治的、社会的、経済的、環境的な問題に対する立場を表明したアドボカシーの広告と製品やサービスの広告が一体となっています。


マイノリティ支援がSDGsやCSRとしてのみ行われるのではなく、自社の製品・サービス開発と提供、マーケティング、ブランディング、広告、ビジネス展開などの企業活動内に組み込まれ、展開されています。


そしてそこには、マイノリティの人々を支援の対象や消費者としてのみ据えるのではなく、コミュニティのパートナーとして、敬意と公正さをもった関係性を生み出そうとしている姿勢がみてとれます。

https://ja.wikipedia.org/wiki/ブラック・ライヴズ・マター

BLM(Black Lives Matter)運動の高まり、反人種差別への声を反映し、昨今、企業がこうした社会的擁護活動やイニシアチブに参画することが増えていますが、企業のアドボカシーコミュニケーションのコンサルティングを提供しているRALLY社のLatia Curry氏はHarverd Business Reviewに掲載した"How Brands Can Follow Through on the Values They’re Selling"という記事で、同社のコンサルティング経験をもとに開発した、企業ブランドのアドボカシー活動の評価マップ("The Brand Advocacy Map")を紹介しています。

このアドボカシーマップは下記の図の通り、
縦軸"Credibility(信頼性)"、横軸"Depth of engagement(活動の参与度)"の程度を表し、
2軸の高低で4象限を定義しています。

理想的なブランドアドボカシーの状態は、象限右上の”Living their values(自社の価値を体現して生きている)”で、自社が関心を示し、主張する社会的なイシューに対して十分な認知・理解があり、真にそのトピックに対して関与していること、そして実際に構造的な投資を行っている状態です。


この理想的な状態になると、ブランドの信頼性や消費者の信頼を構築することができます。

逆に左下の象限、"Brand purgatory(ブランド煉獄)"では、故意に社会的なイシューに対して無知であり、一切構造的な投資を行っていない状態を指します。

その結果、消費者は自社ブランドに対し深い愛情を持つことはなく、嫌悪から見捨てられることさえもあるといいます。
そして特にミレニアル世代やZ世代は、自分と価値観が合わない製品を買わない傾向があると指摘します。
図:The Brand Advocacy Map:https://hbr.org/2020/08/how-brands-can-follow-through-on-the-values-theyre-selling?registration=successより筆者作成

ソーシャルインクルージョン、マイノリティ支援は一日にしてならず 
一人ひとりの声に耳を傾ける

画像:https://www.metro.tokyo.lg.jp/foreignlanguage.htmlより
さて、今回のコラムで取り上げたピンク税や企業によるソーシャルインクルージョン、社会的擁護運動の事例ですが、アメリカと日本では人種や民族構成、文化、経済、社会状況や構造が全く異なるという指摘をいただくかもしれません。


実際に、ニューヨーク州のウェブサイトを見ると、その表記にはなんと英語をはじめとして、スペイン語、中国語(マンダリン、広東語、台湾語含む)、ロシア語、ベンガル語、アラブ語、韓国語など11種類の言語で閲覧することができます。それと比較すると東京都のウェブサイトは英語、中国語、韓国語、日本語の4言語のみです。



そしてアメリカでは、先にご紹介したようなソーシャルアドボカシーを支援するコンサルティングファームやダイバーシティやソーシャルインクルージョン(DEI:Diversity, Equity and Inclusion)の人材及び組織開発支援をする企業や組織が多く存在し、様々な方法論が開発されています。


例えば、先日、私はRacism Untaughtという、そして人種差別主義や個人や組織が持つバイアスを学習棄却し、よりよい未来のデザインにつなげるワークショップやコンサルティングを提供する、大学の先生などで構成された団体のオンラインワークショップを聴講する機会がありました。様々な人種や民族が共に住むアメリカであるため、こうしたイシューが問題提起され、ソリューションが開発され、提供されるのでしょう。


しかしながら、私はこれらの事例から学べることがたくさんあると感じています。

それは、「一人ひとりの声に耳を傾けることからはじめる」ということです。

画像:https://www.youtube.com/watch?v=_4yYEW_fyJU&feature=emb_logoより

Etsyの動画広告のしおりちゃんは日本人です。


Etsyの主要顧客である販売者のアメリカを除く国別データをみると、1位はイギリス、2位はカナダ、3位オーストラリアと欧米が軒を連ね、アジアの国ではインドが9位にランクインしているものの、日本は10位以内にもランクインしていません

日本の販売者はEtsyにとって主要顧客ではないといえるでしょう。それでもこの日本人のしおりちゃんを主人公に据え、彼女の抱える、マイノリティとしてのアイデンティティの葛藤を取り上げることで、彼女の声に耳を傾け、尊重する姿勢と、自社が目指す一人ひとりの人間の個性が輝き、そのぬくもりを受け渡し合える世界の実現に近づくことができると考えたのではないでしょうか。

しおりちゃんの声は一人のマイノリティの声に過ぎず、マジョリティの声ではないという考えはそこにはありません。一人ひとりの声こそがコミュニティを構成しているという考え方です。

Varo社も自社や金融業界が抱えるバイアスを乗り越えるため、顧客だけでなく、社員一人ひとりの声に耳を傾け、対話する機会を実践していました。
こうしたたゆまぬ実践の結果が、”Living their values(自社の価値を体現して生きている)”を実現可能にするのでしょう。


日本でもマイノリティの声にならない声や自分が抱える無意識のバイアスに耳を傾け、よりよい世界を生み出す歩みが続くよう願ってやみません。


それではみなさん、また次回のコラムでお会いしましょう。
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Aya Kubosumi ノマドマーケター



コニカミノルタ、大阪ガスで行動観察やユーザーリサーチに携わったのち、GOB Incubation Partnersを創業。夫の突然の転職に伴い、東京から3歳の娘と夫とともにNY(ニュージャージー)に移住。ノマドマーケターとして、NYの人々、もの、こと、を日々観察、体験したことを素材に、日本の商品開発マーケターの皆さんと共有したいインサイトを綴ります。

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