NYノマド 第25回 コロナ禍の追い風を受けるコネクティッド・ホームフィットネス市場 Part3

21.02.22 05:48 PM By s.budo

家庭に入り込む、第4のスクリーン
ファッショナブルな鏡型フィットネス機器"Mirror"

2つ目にご紹介するのは、2018年にニューヨークシティバレエのダンサーをしていたブリン・パットナム氏が起業し、ローンチした鏡型のフィットネススクリーン、"Mirror(ミラー)"です。

画像:https://shop.lululemon.com/story/mirror-home-gymよりスクリーンショット画像を引用

ペロトン社と同じく、新たなホームフィットネス市場の開拓を目指す製品ですが、ペトロンバイクと異なり、フラットな鏡型のデザインは自宅内の限られたスペースでのワークアウトを可能にするとともに、自宅内のインテリアとしても違和感なく設置できる洗練されたデザインが目をひきます。

このミラー、やはりパンデミックで一躍注目を浴び、2020年6月29日にカナダのスポーツアパレルウエア大手のlululemon athletica(ルルレモン・アスレティカ)におよそ535億円で買収されました


鏡には自分の姿とともに、トレーナーの姿が映し出され、エクササイズやワークアウトをトレーナーと共に行うことができます。

心拍数計測機器なども同梱され、そのデータやワークアウト時間などのデータを見ながら、また、トレーナーにアドバイスをもらいながら自分のエクササイズを進めることができます。


価格は1495ドル(約43万円)、トレーナーからエクササイズを受けられるサブスクリプションは月額39ドル(約4120円)、アップルのMacBook Proを1台購入するより少し高い価格ですね。

こちらもペロトン社同様、コンテンツのサブスクリプションサービスは同じ世帯内6名まで利用できます。


ミラーの前でのワークアウトは、家族みんなで一緒に受講することも可能ですね。もちろん、1人でも他のミラー・サブスクライバーと一緒にワークアウトをすれば、グループレッスンに参加するように利用することもできます。

こちらのミラーはどのようにして誕生したのでしょうか?

ハーバード大学を卒業し、ニューヨークシティバレエのバレリーナをしていたパットナム氏は、いくつかのブティック型フィットネスジムでトレーナーとして働いたのち、ニューヨークでRefine(リファイン )という独自のワークアウトメソッドを提供するフィットネスジムを設立しました。
そして2016年の妊娠中に、もう一つのビジネスである、このミラーを構想、息子さんを出産する前日にファンドを獲得して、本格的にスタートアップとして活動を始めました
彼女がミラーを始めた経緯や、どのように製品サービスを開発し、企業として成長を遂げているかについて答えているインタビュー動画では、

ニューヨークの狭いアパートメントにはバイクやトレッドミルのようなホームフィットネスマシンを置くスペースがないこと、タブレットやスマホの小さな画面でトレーナーの姿を見ながらワークアウトすることのフラストレーションを自分自身でも実感していたパットナム氏は、専用のワークアウトスペースを設けることなく設置でき、インテリアとも調和して違和感なくライフスタイルに溶け込める鏡型のフィットネス用のスクリーンを構想したといいます。

パットナム氏もペトロンバイク同様、自分自身という特定の個人が感じていた課題を起点にして、それを解決するソリューションとしてのミラーを開発されていますね。お子さんを出産される前日にファンドを獲得したというエピソードからは、バレリーナをされていたというアスリート魂のようなものをミラーのビジネスにも感じます。


同じくこの動画では、とてもフランクに、ゼロからどのように顧客を開拓していったのか、製品サービスを改善していったのか、チームを形成していったのかについて語ってくれています。
例えば、「最初の顧客をどうやって見つけたのか」という質問に、彼女は「近所にフライヤーを配って、興味を持ってくれた人に商品を見せたり、自分の友人や以前のフィットネスジムの顧客に声をかけたり、またその友人の友人を連れてきてもらったりした。」と話し、本当にゼロから、草の根で顧客を開拓していったことを窺い知ることができます。
そして、開発初期は顧客になってくれた人と小規模の人数で食事に行って、商品やコンテンツについて直接反応を聞いたり、個人的にメールを送ってフィードバックを求めたりと、少数の特定の顧客の声を直接聞きて集めた定性的な情報から、検証すべき正しい仮説を設定出来ていたかどうかを確認したと話していることがとても印象的でした。

ミラーのワークアウトプログラム

ミラーのワークアウトプログラムは機械学習によって顧客に提示するコンテンツが自動的に決められますが、例えば、顧客が怪我をしてしまった場合、通常の機械学習では、特定の体の部位を動かさないようにする、負荷をかけないといった、怪我を考慮したプログラムコンテンツの提示はしてくれません。
しかしながら、ミラーでは顧客の身体状況などの変化があった場合、それに応じてワークアウトやエクササイズプログラムを修正する機能が設けられています。
こうした機能も顧客からのフィードバックや生まれているのかもしれません。
ちなみに、パットナム氏も、このミラーのアイデアを考えつき、コンセプトからプロトタイプを作る際に、開発のバックグラウンドを持つ夫がソフトウェアのコーディングを手伝ってくれたそうで、家族と共同して新たなイノベーションに取り組んでいたことは、ペロトン社のフォーレイ夫妻とも共通しますね。


ミラーはコンシューマー向けだけではありません。B2B向けのプロダクトとしても、ホテルや小規模ジム、アパートメントのフィットネスジムなどにも展開されています。
そして、今後は、現在はエクササイズやワークアウトを中心としたコンテンツ提供ですが、将来的にはこのミラーが、テレビ、パソコン、スマホに続く第4のスクリーンとして家庭内に入り、将来的にはファッションや美容、そして遠隔医療といった領域もカバーし、コンテンツをバーティカルに展開していくことをパットナム氏は構想しており、ミラー自体が、スマートフォンやタブレットのようにプラットフォーム化し、さまざまなアプリやサービスのディベロパーを受け入れいくことをポジティブに考えているようです。

このファッション、美容、遠隔医療という領域は、バレリーナ、そしてトレーナーとしてのキャリア経験を通じて、パットナム氏が自分の肌、身体に自信を持つことが、よりよい、幸せな生活の基礎となるということに気づき、この自信という価値をこのミラーを通じて人々に届けたいと考えていることと親和性がある領域なのでしょう。
生活の中のネクストスクリーンはフィットネスという領域を超えて、日常生活のネクストスクリーンとして機能していくのかどうか、非常に興味深いプロダクトですね。

コネクティッド・ホームフィットネス機器の興隆からみるトレンド 
外部化されていた機能の家庭空間への日常化

コネクティッド・ホームフィットネス機器は他にも、通信機能を兼ね備えたサンドバッグとグローブで、自宅でボクササイズを行う、ファイトキャンプ(FightCamp )、ミラーのようなスクリーンと、デジタルのウェイト機能を兼ね備えたトーナル(Tonal )、カヌーなどのボートを漕ぐローイングスタイルのワークアウトができるハイドロウ(hydrow )など、すでに競合が犇めくレッド・オーシャンになりつつあります。

画像:https://joinfightcamp.com/よりスクリーンショット画像を引用
画像:tonal.comよりスクリーンショット画像を引用
画像:https://hydrow.com/よりスクリーンショット画像を引用
都市部のブティック型ジムのユーザーは、都市部に仕事もしくは生活圏を持つ人々でした。
パンデミックでリモートワークとなり、オフィスへの通勤が必要なくなり、特に結婚して家庭を持つ都市部在住のミレニアル世代が郊外へ移住し始めました。
郊外の広い一軒家のライフスタイルをスタートした彼らの生活圏には、都市型ブティックジムは存在しません。
この欠けたフィットネス機能を自分の生活動線に組み込むために、こうしたコネクティッド・ホームフィットネス機器が購入されています。これがブームを加速させている背景の一つです。


このようにもともと家庭内の生活空間になかった様々な機能が、自宅を中心に生活を営む時間が増えることにより、家庭の時空間に組み込まれつつあり、それが新たなトレンドやライフスタイルを生んでいます。

これは見た目のデザインと機能性を両立し、仕事場やワークアウトなどにも着用できるスポーツウェアをさした言葉です。


ワークアウトや運動用のスポーツウェア、仕事やオフィスに来ていく洋服、自宅でリラックスするときのラウンジウェアなど、場面や機能で分かれていた洋服ですが、複数の機能を兼ね備え、複数のシーンにオールインワンで着用できるアスレジャーへのニーズが拡大しています。

このように、家庭内の時空間に切り離されて機能化されていたものが、家庭内の日常の時空間にマッチするように統合されていく現象は今後もしばらく続くと考えます。
他にも例えば、非日常のイベントが家庭内の日常にブレンドされ、新たなプチ非日常イベントが家庭内で営まれるかもしれません。
こうした日常と非日常、仕事と生活、公私のブレンディングや統合により生まれるニーズや需要は引き続き、要ウォッチですね。

それではみなさん、また次回のコラムでお会いしましょう。
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Aya Kubosumi ノマドマーケター

コニカミノルタ、大阪ガスで行動観察やユーザーリサーチに携わったのち、GOB Incubation Partnersを創業。夫の突然の転職に伴い、東京から3歳の娘と夫とともにNY(ニュージャージー)に移住。ノマドマーケターとして、NYの人々、もの、こと、を日々観察、体験したことを素材に、日本の商品開発マーケターの皆さんと共有したいインサイトを綴ります。