NYノマド 第27回 女性の心身の健康を取り巻くタブーやネガティブなステレオタイプを刷新するフェムテック Part1

21.04.12 02:48 PM By s.budo

進化する様々なフェムテックデバイス(1) 
スマートピルケースから骨盤底筋矯正デバイスまで

飲み忘れを自動検知するスマートピルケース 
Emme   https://emme.com/

フェムテックの代表的な製品であるテクノロジーを活用し、女性の心身の健康の問題や悩みを支援、解決してくれる機器をみてみましょう。

画像:https://emme.com/よりスクリーンショット画像を引用
こちらはカリフォルニア州サンフランシスコにあるEmme社のスマートピルケース(99ドル)です。


このスマートピルケースは100社以上の低用量ピルに対応しており、このケースにピルを保管し、毎日ピルを服用すると、ケースに内蔵されたセンサーによりピルを飲んだことが自動的に記録されます。ピルの服用を忘れていた場合、スマートフォンのアプリでリマインダーが送られるという仕組みです。
ピル服用のリマインダーを設定し、リマインドしてくれるアプリは他にもありますが、服用行動と連動し、していない場合のみリマインドしてくれるという機能がこのケースの特徴です。
また、低用量ピルは毎日同じ時間に服用することが避妊効果を高めると言われていますが、こちらのスマートケースは時差がある場所に移動した際にも自動的に時間を調整し、リマインダーを送ってくれる利点もあります。

国連がContraceptive Use by Method 2019によれば、日本における低用量ピルの普及率は2.9%、アメリカでもその普及率は13.7%に留まっていますが、だからこそ、このようなデバイスの登場が社会の低用量ピルへの関心や理解を促すことに繋がるのではないかと感じます。

授乳期のママの搾乳を時間と場所から開放するモバイルブレストパンプ(搾乳機)
Willow  https://willowpump.com/

画像:https://shop.willowpump.com/pages/buy?_gl=1*1aso03r*_ga*OTYzMDY2OTI5LjE2MTY3NjY1NTk.*_ga_H7WWV9FKPV*MTYxNjc2NjU1OC4xLjAuMTYxNjc2NjU2NS4w&_ga=2.247816007.1934394027.1616766559-963066929.1616766559よりスクリーンショット画像を引用

自分自身の授乳経験を振り返って、この手があったか、、、と知らなかったことを悔しく感じるフェムテックデバイスが2014年創業のカリフォルニアベースのウィロウ(Willow)が展開するモバイルブレストパンプです。


個人的な経験と友人知人で授乳経験がある女性と話すと、出産後、想像以上に大変だったのが授乳です。


私の場合、第1子のときは保活状況が厳しく、1歳以降の年度途中で保育園に入ることは困難な状況だったため、まだ授乳中に職場復帰をすることを選択しました。

その際、定期的に搾乳機で搾乳することで、母乳がとまらないようにする必要がありました。多い時には3~4時間おきに搾乳する必要があります。

1回の搾乳はおよそ20分。この20分間×8回、一日およそ160分、搾乳機の前に縛られ、両手で胸を押さえ、何もできない状況で搾乳時間を過ごさなければならないことが苦痛でした。夜中などは横になることもできません。

以前、ニューヨークにあるとある美術館でトイレに行ったところ、1人の女性がトイレの鏡の前にある棚に搾乳機を置き、搾乳しているシーンに遭遇する経験がありました。

アメリカでは女性の職場復帰は日本と比較してとても早く、多くの女性が職場に搾乳機を持参したり、自宅で搾乳しながら仕事を続けています。そのため、ほとんどの医療保険では妊娠すると搾乳機を無料もしくは安価に購入できるよう費用をカバーしてくれます。


新生児の世話、家事、そして仕事に奔走する新生児を抱える母親にはもちろん時間がありません。


そしてこのモバイルブレストパンプは胸に直接取り付け、ワイヤレス&ハンズフリー、寝ていても、身体を曲げていてもよし、どんな体勢をしていても搾乳してくれますので、マルチタスクで他のことができる貴重な時間を生み出してくれるのです。

画像:https://willowpump.com/よりスクリーンショット画像を引用
ウィロー社のウェブサイトにはエクササイズをしながら搾乳しているようすも掲載されていますね。
さらに既存製品と比較して、快適でかつ搾乳効率が20%以上アップという優れものです。

胸の大きさの個人差に対応するため、購入前に定規アプリで胸の大きさを図り、データを送ることで、個々人にカスタマイズされたモバイルブレストパンプを利用することができます。

この商品が入手可能でかつその存在に気づいていれば、確実に私はこれを自費でも購入していたでしょう。
夜中、ダイニングテーブルに一人座り、じっと20分終わるまで何もできず虚ろな目をしながら過ごしていた自分が思い起こされ、知らなかったことを悔やみきれません。

同社は2020年9月に5500万ドル(およそ60億円強)の資金調達に成功、赤ちゃん、家族、家事、育児、仕事、そして自身の健康に奔走する現代の母親業と母親自身に大きなベネフィットをもたらしてくれるこのデバイスがより多くの赤ちゃんを持つ母親に届いてほしいと心から願わずにはいられません。

骨盤底筋を鍛えるデジタルセラピーデバイス 

画像:https://renoviainc.com/leva-digital-therapeutic/よりスクリーンショット画像を引用
フェムテックデバイスの最後にご紹介するのは2016年創業ボストンベースのレノヴィア社 (Renovia)が提供する骨盤底筋診断およびトレーニングデバイスのlevaです。


姿勢などの生活習慣や体形、出産、閉経、便秘、加齢など様々な原因で骨盤底筋が衰えると、尿漏れや頻尿、便秘など骨盤底に関連する様々な疾患様々なトラブルを引き起こします。


こちらのlevaは医療用の診断機器で、骨盤底の動きや状態を可視化し、より正確な診断を可能にします。さらに内蔵されたモーションセンサー技術が振動を起こし、骨盤底筋の状態に合わせたトレーニングを行うことができます。


このトレーニングは1日5分を2回、骨盤底筋のデータをトラッキングし、トレーニングを重ね、その結果を定期的にモニタリングすることで、患者はアクショナブルなアドバイスをもらいながら、トレーニングを継続することができます。
通常、アメリカでは骨盤底筋関連の疾患を抱えた場合、外科手術を施される場合が多いようですが、このようなトレーニングデバイスの登場で手術以外の治療方法の選択肢が増えることは患者にとっても、保険会社にとっても金銭的負担の軽減といったメリットをもたらします。

こちらのデバイスを利用するためには医師の診断と処方箋が必要になりますが、医療保険によっては保険適用が可能になります。
同社によれば、尿漏れや頻尿などの疾患を抱える女性はアメリカでおよそ2000万人、世界では2億5千万人いるといいます。
骨盤底筋関連の疾患を抱えた場合、なかなか人に相談しにくい、知られたくない症状や悩みであること、また、婦人科に通院することの金銭的、時間的、精神的負担の大きさでそのまま症状を放置してしまい、症状が悪化し、日常生活に大きな支障をきたすこととなることも多いのではないかと推測します。

産後、腰痛がひどくなっても放置したままで、見えない骨盤底筋の衰えを感じる日々を送る私が個人的に今現在非常に興味のあるフェムテックデバイスの一つです。

フェムテック関連のデバイスでは、ご紹介した3製品以外にも、女性のライフステージに合わせた様々なデバイスやテクノロジーが展開されています。

ホットフラッシュの症状を軽減するブレスレット型のウェアラブルデバイス
―GRACE   https://www.gracecooling.com/

画像:GRACE社のホットフラッシュセラピー用ウェアラブルブレスレット、https://www.stylus.com/menopause-wearable-signals-demand-for-femtechよりスクリーンショット画像を引用
例えば、イギリスのスタートアップになりますが、グレース社GRACE)では更年期障害の一つであるホットフラッシュの症状を軽減するブレスレット型のウェアラブルデバイスを開発、提供しています。


こちらはホットフラッシュを引き起こす生体反応を検知し、手首を冷却する機能が搭載され、この冷却機能により身体の体温制御システムを活性化し、ほてりやのぼせとなって表れるオーバーヒートを予防するものです。

閉経後の膣の状態を向上させるデバイス
―Maddra   http://www.madorra.com/

画像:http://www.madorra.com/ よりスクリーンショット画像を引用

オレゴン州ポートランドのスタートアップで2014年創業のマドラ社Maddra)は閉経後の膣の状態を向上させるデバイスを展開しています。

更年期とよりよく付き合うためのアドバイスやリソースへのアクセス情報を提供
Lisa Health   https://lisahealth.com/

画像:https://lisahealth.com/ よりスクリーンショット画像を引用

2017年創業のサンフランシスコベースのリサヘルス社Lisa Health)では、更年期の症状や状態のアセスメントとよりよく更年期と付き合うためのアドバイスやリソースへのアクセス情報をアプリとコミュニティを通じて提供しています。

女性のホルモンや心身の健康を向上するためのアドバイスやティップスを提供
―Aavia   https://aavia.io/

画像:https://aavia.io/よりスクリーンショット画像を引用
そのほか、日系アメリカ人のアヤ・スズキさんを含む3人の若手共同創業者により2017年からスタートしたニューヨークのブルックリンベースのアービア社Aavia)では、Z世代の若者向けにホルモン健康に関連したライフスタイルブランド Aaviaを立ち上げ、スマート低用量ピルケースや、生理やPMSなど、女性のホルモンや心身の健康を向上するためのアドバイスやティップスを提供するアプリ、アパレルなどを展開しています。 


アービアでは、社会から押し付けられている「ホルモンは敵として付き合うべし」という考え方に疑問を呈し、友達のように、よりよくホルモンと向き合うためのライフスタイルを提案しています。
そしてTikTok、Instagram、Facebook、Twitterなどのソーシャルメディアを活用し、メッセージを定期的に発信し、この世界観やライフスタイルやそれらに関するティップス情報を提供し、啓蒙している姿勢が印象的です。
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Aya Kubosumi ノマドマーケター

コニカミノルタ、大阪ガスで行動観察やユーザーリサーチに携わったのち、GOB Incubation Partnersを創業。夫の突然の転職に伴い、東京から3歳の娘と夫とともにNY(ニュージャージー)に移住。ノマドマーケターとして、NYの人々、もの、こと、を日々観察、体験したことを素材に、日本の商品開発マーケターの皆さんと共有したいインサイトを綴ります。

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