NYノマド 第27回 女性の心身の健康を取り巻くタブーやネガティブなステレオタイプを刷新するフェムテック Part2

21.04.20 11:46 AM By s.budo

進化する様々なフェムテックデバイス(2) 

パーソナライズされた排卵日検査キット 
―Oova   https://oova.life/

画像:https://oova.life/products/the-oova-kitより引用

続いては2017年創業、ニューヨークベースのバイオテクノロジースタートアップ、オーバ(Oova)社のThe Oova Kitです。


こちらは妊娠を希望する人向けのハイテクホルモン検査キットで、2週間尿を採取し、黄体形成ホルモン(LH)とエストロゲンの値を検査します。

QRコードにアクセスし、そのデータを連動したスマートフォンのアプリにアップロード、管理、トラッキングすることで、排卵サイクルと排卵日をラボでテストする検査と同等の精度で特定することができます。

価格は15回分のテストが含まれたキットがワンタイム購入で199ドル、サブスクリプション購入すると20%オフの価格で購入することができます。


共同創業者の一人、ドクター・アパルナ・ディバラニヤ氏はニューヨークの遺伝学およびゲノム科学の博士号を持ち、自分自身が30代半ばマウントサイナイ医科大の博士課程在籍時に子どもを持ちたいと思い、妊娠を試み、苦悩した18か月の経験からこの製品が生まれたと話しています。


毎朝4:30に検温、妊娠までの18か月間は、入手可能な排卵日検査薬やアプリのほとんどを試していましたが、これらの製品やサービスは生理周期が28日から32日という規則的な周期を持つ人にとって機能するようにデザインされ、生理周期が不規則だったディバラニヤ氏が正確な排卵日を知ることが難しかったためです。

このとき抱えていたフラストレーションを同じラボの同僚に話したところ、女性一人ひとりの身体にパーソナライズし、より正確に排卵日を知ることができる検査キットを作れるのではないかとディスカッションが始まり、このオーバキットの開発が始まったと話しています


そしてこのときの同僚が現在共同創業者でチーフテクノロジーオフィサーを務めるジェローム・シェルツァ氏です。


このオーバキットは、利用する女性の身体状況や収集したホルモンの値のデータに合わせて、排卵日をデータから計算、特定することができる点で、他の排卵日検査薬とは一線を画す価値を提供しています。


高齢出産が増加し続ける中、ご本人の原体験から生まれたこの製品が同じような妊娠や不妊の悩みや課題を抱える人に、より正確な妊娠の機会をもたらすことにつながれば本当に素晴らしいことだと思います。

気軽でアクセスしやすく、透明性のあるサービス提供を 
女性特有の心身の悩みに寄り添うサービスの登場

フェムテックはデバイスだけではありません。

最先端の医療や情報テクノロジーを用いた様々なサービスが開花しつつあります。

ミレニアル世代向けおしゃれでオープン&フレンドリーな不妊治療サービス
Kindbody   https://kindbody.com/

画像:https://kindbody.com/よりスクリーンショット画像を引用
その一つで、すでに6300万ドル(日本円でおよそ70億円弱)を超えるファンドを獲得、フェムテック業界の中でも大きな投資を獲得し、ビジネスを急拡大しているカインドボディ(Kindbody)です。
2018年にジーナ・バルタシ氏(Gina Bartasi)によって創業された同社はニューヨークに本社を置き、ニューヨーク市内の2か所のクリニックに加え、カリフォルニア州のサンフランシスコ、ロスアンゼルスに2か所、ロスアルトス、ジョージア州アトランタ、ニュージャージー州プリンストンの8か所にクリニックを開業しています。
いずれも、ミレニアル世代の女性が行ってみたくなるような、オープンで明るく、親しみやすい印象を与えるおしゃれなインテリアのクリニックです。

物理的な環境だけではありません。
例えば、卵子凍結の費用は6500ドル(プラス年間保管料が600ドル)、精子のドナー提供つきの人工授精が1600ドル、体外受精は13000ドル。これらの価格は平均の市場価格と比較しておよそ30%程度安価に設定されています。


また、メインの不妊治療に加え、妊娠しやすい身体づくり、ホルモンバランスなどについてアドバイスを受ける栄養コーチング(Nutrition Coaching)はオンラインセッション60分200ドル、職場復帰に備えるためのコーチング(Return-To-Work Coaching)オンラインセッションは60分160ドル、他にも助産師や産後の新生児と母親のケアを専門とするドゥーラによるコーチング、ライフコーチング、瞑想セッション、鍼、自社で展開するオリジナルのサプリメントを販売するオンラインショップなどがあり、妊活から職場復帰までのライフコースで女性が直面する様々な障害や課題に寄り添って支援するサービス内容となっています。
現在はLGBTQ+の人々が家族を持ちたいと思う願いにも対応した不妊治療およびコンサルティングサービス、そして企業の福利厚生としてカインドボディのサービスを利用できるプログラムも用意しており、従業員が平均的な不妊治療の約3割安く治療を受けられるベネフィットが設定されています。

そして何よりも大きな課題の一つが、不妊治療へのアクセスです。

アメリカでは日本以上に医療サービスが細分化されており、一つのクリニックや病院で検査から治療、手術などを受けることができないことです。
主治医(プライマリードクター)への相談はドクターのクリニックへ赴き、検査は検査技師がいるラボに行き、手術は手術が可能な大きい病院へ行く必要があります。
不妊治療は様々な検査や治療を必要としますが、それら一つ一つ、担当する専門の医師や技師の予約を取り、その場所へ行かなければなりません。そして予約を取ろうとしても、1か月以上先になるのが当たり前です。
患者となる女性側にこうした一つ一つの予約を取り、検査や治療をこなしていくこと自体、時間的、経済的に大きな負担となっていました。

予約はオンラインでスムーズにとることができ、ワンストップで不妊治療から出産までの検査、治療、アドバイスを受けることができるカインドボディはこうした大きな不妊治療の壁を乗り越えるとともに、透明性のある価格提示や情報提供は、不妊治療の計画や行動をしやすくするという意図があります。

創業者のバルタシさんは2019年にニューヨークに第1店舗目をオープンした際のインタビューで、体外受精治療を行った人は1%という現状を変え、不妊治療がより多くの女性のもとに届くことを目指し、カインドボディをオープンしたと創業への想いを語っています
子どもを持ちたいと願う多様な女性の状況や環境、ニーズに対応した不妊治療サービスに加えて、これらのユニークなサポートサービスのワンストップ提供にこだわり、サービスを拡大し続けているのも、その創業の想いがベースにあるのでしょう。


不妊治療を含む、子どもを持つという選択肢や行動を、女性が自らの手で選択、行使できる社会をこうしたスタートアップが一歩一歩築き上げている姿に力強さと大きな希望を感じます。
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Aya Kubosumi ノマドマーケター

コニカミノルタ、大阪ガスで行動観察やユーザーリサーチに携わったのち、GOB Incubation Partnersを創業。夫の突然の転職に伴い、東京から3歳の娘と夫とともにNY(ニュージャージー)に移住。ノマドマーケターとして、NYの人々、もの、こと、を日々観察、体験したことを素材に、日本の商品開発マーケターの皆さんと共有したいインサイトを綴ります。

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