待つだけの出会いに終止符を、女性主導の出会いを提供
―Bumble https://bumble.com/
トップバッターでご紹介するのは、"デートは男性が女性を誘うもの"という古くからの男女の出会いや関係性づくりにまつわる固定概念に挑戦しているのがこのバンブル(Bumble)です。

バンブルは元ティンダーの共同創業者、ホイットニー・ウォルフ・ハード(Whitney Wolfe Herd)さんがセクハラ問題でティンダー社を提訴、退社したのちに、同じく出会い系アプリ・サイトを展開しているバドゥー(Badoo)社のアンドレ―・アンドレヴ(Andrey Andreev)氏から支援を受けて2014年にテキサス州オースティンで起業しました。
こちらのバンブルは日本でもサービス提供をしていますが、日本でのユーザーはあまり多くはないようです。
2020年時点で全世界に1億人のユーザーがおり、2021年2月11日には米ナスダックに、女性でかつ31歳という最も若い年齢で上場しています。https://en.wikipedia.org/wiki/Bumble_Inc
バンブルは従来の出会い系マッチングアプリやサイトが結局男性主導で使われ、女性が遊ばれて関係性を構築しないまま終わってしまったりする現状にNOを突き付けるサービスとして誕生しました。
このコンセプトは、バンブルでは女性が主導権を握っているというメッセージがサイトやアプリ内で明確に宣言されています。
―"Bumbleはレディーファーストです。私たちは場を平等にし、デートにおける力関係を変えていきます。交友関係は尊重と平等をもって始まるべきだから。"
―" 始まりはお互いを尊重できなければ、平等はありません。健全な関係はそこから始まります。時代遅れの恋愛観を捨てて、Bumbleでは女性から先に行動します。"
この女性主体の出会いをデザインするため、バンブルではティンダーのようにプロフィールを閲覧してマッチさせますが、マッチが成立しても女性からしかメッセージを送れず、男性から会話を始めることはできない仕様になっています。
マッチしたとしても、女性側がメッセージを24時間以内に男性側に送らなければ、そのマッチは永遠に解消されてしまいます。
男性は一日に一マッチのみ、そのマッチを24時間延長することができ、唯一その行動が、その女性に対して関心度合いをメッセージとして送れる機会になっています。
また、アプリ内の課金で、24時間マッチを延長したり(月額7.99ドル)、スーパースワイプというとても気に入ったというスワイプを1コイン1.99ドルで送ることができます。
そしてバンブルは出会いを男女に限定せず、現在は仕事やキャリアのネットワークを構築するためのBumble Bizz、同性の友人を探すBumble BFF(BFF=Best Friends Forever)のの2つの出会いの機会を提供しています。
Bumble BFFでは、同性間のやり取りになりますので、女性からしかメッセージが送れない機能は搭載されていません。
さらにプロフィールの写真は、性的なイメージを前面に押し出したものの利用は禁止するなど、健全な関係性を生む、促進する場にするためのデザインの中心の一つに据えているといいます。
このファンドでは男性主導のベンチャーキャピタルのエコシステムの中で可能性やチャンスを歪められてしまっている女性起業家たちにフォーカスして、投資支援を行っています。
社内で働く人のおよそ85%が女性で、在宅勤務に加え、社内には予約制の授乳部屋を設置し、授乳を促進するスナックなどが置かれているといいます。
ウォルフ・ハードさん自身がティンダーの立ち上げから経験してきた、男性優位の出会いとデート、職場、そして投資環境を自らの手で変えてゆく姿が力強いですね。
キラキラに盛られた写真やプロフィールでジャッジする/される出会いへのアンチテーゼ
女性主導のネットでの出会いをつくるバンブルを知った時、思い出したのが米Yahoo!リサーチの研究者らが行ったオンラインの出会いサイトに関する研究です。
2008年に発表されたこの研究は、2010年にサービス提供を終了したYahoo!の出会いサービスである"Yahoo!Personals"のユーザーやウェブデザイナーを対象にインタビューや初回デートの観察を行ったもので、男女のオンラインでの相手の選び方、コミュニケーションの仕方の違いなどが興味深く分析、説明されています(Churchill, E. F., & Goodman, E. S. (2008).)。
例えば、男性は所かまわず?たくさんの女性に機関銃を打つようにメッセージを送りつけてその反応を待つというコミュニケーションをする傾向がみられましたが、女性は全く逆のアプローチで、詳細にプロフィールや写真を見て、ある程度スクリーニングした上でようやくメッセージを送るという選択的で慎重に相手を選ぶことをしているという点です。
こうした男女の相手の選び方、コミュニケーションの差異を対称な関係にしようとしているのが先にご紹介したバンブルでした。
そしてもう一点、この研究で指摘されていたのが、ユーザーが抱える矛盾でした。
それは、ユーザーが関係性を作る相手には本当の自分自身を知ってもらいたい、理解してもらいたいと感じる反面、従来のオンライン出会い系サービスが写真やプロフィールの情報をもとに一次スクリーニングされてしまう点です。
多くの魅力的な相手に自分を見つけてもらうために、自分の写真やプロフィールを魅力的に見せるために"盛る"という行動をしますが、そこに一抹の罪悪感と、同時に相手の写真やプロフィール情報を心の底から信じることができないという不安感が横たわります。
新たな出会い系のオンラインサービスはテクノロジーなどを駆使してこうした課題を解決しようと、続々とユニークなサービスや機能展開を図っています。
いくつかご紹介していきましょう。
スワイプやメッセージのやり取りに飽き飽きした人に、ビデオチャットベースのスピード系出会いアプリ
―Filter Off https://www.getfilteroff.com/
フィルターオフ(Filter Off)は、現在もジョンソン・アンド・ジョンソンにプロダクトアナリストとして勤務するザック・シュレイン(Zach Schleien)さんが2019年にスタートしたニューヨークベースのビデオチャットベースの出会い系アプリです。

ティンダーやバンブルとは全く異なる出会い方、コミュニケーションの仕方を提供するこのアプリ、相手とマッチングするためには90秒のビデオチャットをすることからスタートしなければなりません。
下記画像のように、ビデオチャットをする相手を探す際に参照するプロフィールも、相手の写真は鮮明ではありません。そしてその人に関するごく簡単な趣味や自己紹介が記載されているだけです。
最低限のプロフィール情報に留め、何よりもまずお互いにビデオチャットをして話してみて、びびっときたり、関心が湧いてくれば、そこからやり取りをスタートさせましょうというコンセプトです。

90秒のビデオチャットでめでたくお互いに"Like!"でマッチングすると、そこから二人でのメッセージのやり取りをビデオメッセージやビデオコールを通じて行うことができるようになります。
これは、マッチングするまでに何時間もスワイプしたり、ファーストデートの約束をするまでにたくさんのテキストメッセージをやり取りして時間を費やすことにうんざりしていたシュレインさんが、出会い系の出会い方そのものを変えたいとこのスピードビデオチャットからスタートするコミュニケーションをデザインしました。
シュレインさんはミレニアル世代、オンラインでのコミュニケーションやテクノロジーの使い方では、直感的かつ手間なくスピーディにできることを重視しているという行動選好も影響していそうです。
それに加えて、このフィルターオフについてのシュレインさんの開発ストーリーやコンセプトを紹介している記事には、シュレインさんが考える"出会い"の意義や意味がこのフィルターオフに込められていることが分かります。
例えば、
―“YOU FORGET THAT EVERY PROFILE YOU SWIPE LEFT, THAT’S A HUMAN. THAT’S NOT TO SAY THAT YOU SHOULDN’T SWIPE LEFT, BUT YOU SHOULD EXPERIENCE, AN AUTHENTIC CONNECTION.
(あなたは、あなたが全てのプロフィールを左にスワイプするとき(ティンダーやバンブルでは、相手のプロフィールをみて気に入らなければ左にスワイプして候補者をスクリーニングします)、それが人間だということを忘れています。左にスワイプするなと言っているのではなく、あなたは本物のつながりを経験すべきなのです。)”
―“WE HAVE TRIED TO MAKE IT FEEL LIKE YOU DON’T HAVE UNLIMITED DATES. WE WANTED EACH DATE TO FEEL LIKE A DATE, TO FEEL SPECIAL.
(私たちは、あなたが無制限のデートができないように感じるようにしようとしています。私たちはそれぞれのデートが、特別なデートであると感じられるようにしたいのです。)”
―“WE DON’T WANT TO BE A SWIPING APP, BECAUSE THERE’S AN OPTION THAT YOU CAN CANCEL THAT DATE, AND I DON’T WANT PEOPLE CANCELING BECAUSE OF HOW SOMEONE LOOKS. OUR TAGLINE IS GOING BEYOND THE PROFILE, AND SO AGAIN, IT GOES BEYOND THE PROFILE, RACE, ETHNICITY BECAUSE YOU NEVER KNOW.
(私たちはスワイプするアプリになりたくないのです。なぜなら、そのデートをキャンセルする選択肢があなたにあって、私はその人の見た目が理由でキャンセルするということをしてもらいたくないのです。私たちのキャッチフレーズはプロフィールを超えること。ですから、あらためて、そのプロフィールや人種、民族を超えること、なぜならあなたはそれを知る由もないからです。”
ティンダーやバンブルは、出会いをより簡単に、気軽にすることに貢献していますが、その人のプロフィールを左にスワイプ、右にスワイプしてスクリーニングすることで、人と出会うということを、何かコモディティ商品やサービスを買うのと同じような行動や感覚を生じさせてしまっている現状を懸念しているのです。
人は商品ではないし、デートの候補やデートが無限にあるわけでもない。さらにスワイプは相手に対する見た目、人種、民族などのステレオタイプを助長し、その人自身のアイデンティティを知ることなく、無下にしてしまうことに繋がる可能性があるといいます。
その相手を尊重したコミュニケーションをすることで、自分も尊重され、よりよい出会いに繋がるという信念がこのスピードビデオチャットを採用した根底に流れています。
こうしたフィルターオフのオンラインデートに対する世界観はたくさんのユーザーにインタビューを重ねたことから生まれてきたとシュレイン氏は話します。
出会いに対する人間の行動や価値観がスワイプやプロフィールベースという、テクノロジーやオンラインで展開されることによって形作られてしまっている事実に気づかされます。
このフィルターオフでは、他にもオンラインでの出会いイベントをホストしたり、コミュニティや企業・団体がこのような出会い系イベントをオンラインで開催できるサービスを提供しており、こちらが収益源の一つになっているようです。