NYノマド 第28回 テクノロジーが変える出会いとデート アメリカの新たな出会い系アプリ・サービス Part2

21.05.25 10:04 AM By s.budo

私(コーヒー)にぴったりの相手(ベーグル)を探す、女性ユーザーが支持する出会い系アプリ 
ーCoffee Meets Bagelhttps://coffeemeetsbagel.com/

画像:https://coffeemeetsbagel.com/よりスクリーンショット画像を引用

同様に、アンチスワイプを明確に謳う出会い系アプリやサービスの一つが、Coffee Meets Bagel(以下、CMB)です。


CMBは2012年にハーバード大MBA出身のアルム・カン(Arum Kang)さんとスタンフォード大MBA出身のダウーン・カン(Dawoon Kang)さんの双子、 ニューヨークのパーソンズ美術大学出身のソー・カン(Soo Kang)さんの韓国出身の3姉妹が立ち上げたサンフランシスコベースのスタートアップです。


2021年現在、およそ1000万人のユーザーを抱えるこのCMB、ティンダーやバンブルでは、男女のユーザー内訳が男性が女性ユーザーの約2倍いるようですが、CMBはミレニアル世代の女性ユーザーをターゲットに開発され、他の出会い系アプリやサービスと比較して女性ユーザーが多いことが特徴です


CMBはティンダーやバンブル同様、デートの候補相手探しはプロフィールと写真から始まります。
しかしながら 大きく異なるのは、CMBが自分の希望条件や嗜好に近い人をデータとアルゴリズムでマッチングし、コーヒーにあうベーグル候補を毎日正午に数件自動的に送ってきてくれることから候補者探しがスタートする点です。


そしてこのベーグル候補は、24時間に内に、ライク(Like)もしくはパスを選択しなければ、この候補者情報自体が消えてしまうデザインになっています。そしてめでたくお互いがライクを選択し、マッチが成立すると、二人でプライベートなチャットをすることができるようになります。


お互いのポジティブな好意を確認したのちに、直接的な会話をスタートさせるデザインはフィルターオフのデザインにも近いものがありますね。


ただしこのプライベートなチャットは7日間で自動的に消えてしまいます。この7日間という期限付きコミュニケーションが、このマッチの関係性を発展させたいかどうかを考えさせ、発展させたい場合はコミュニケーションをすることをプッシュするしかけになっています。



この女性が出会い系サービスを利用して成功することを実現するために、CMBでは出会いの"量"ではなく、"質"にフォーカスし、スワイプによるマッチングで、他者から選ばれるために、見た目や条件の良さを強調するようなステレオタイプを助長するような出会い方ではなく、お互いにとって特別で長期的な関係性を築ける相手を探すジャーニーを提供するデザインが意識されています


例えば、プロフィール登録では、"I am...(私は~です)"、”I like...(私は~が好きです)”、”I appreciate when my date...(デートの時に~だととってもありがたいです)”といったCMB独自の質問項目が設定されており、その人自身を表面的ではなく、深く他者に伝えやすいような工夫がされています。さらに、アイスブレーカーという秘密の質問と答えが用意されており、相手とマッチした際のみ、この非公開の質問と回答がプライベートなチャット内で公開されます。そしてこのアイスブレーカーをきっかけに会話をしたり、さらに相手を知る機会をもたらしてくれます。
女性がライクをしなければ、プライベートなやり取りができないのもその一つですね。


CMBの基本的なサービスは無料ですが、月額有料会員プランや有料課金サービスが用意されています。


例えば人気のある有料課金プログラムの一つが、オープンセサミ(Open Sesame)と呼ばれるもので、CMB内の通貨である95粒のコーヒー豆で利用することができます(コーヒー豆100粒は2ドルで購入可能)。


オープンセサミは、通常は公開されていない、お互いの共通の友人情報を公開するものです。共通の知人を見れば、より相手の人となりについて理解したり、その人への信頼感を醸成できたり(もしくはその逆も然り)することができますね。


プレミアムメンバーシップと呼ばれる月額有料会員は1か月35ドル、12か月のサブスクリプションだと180ドルを支払うことで、パスしてしまった人ともう一度マッチする機会を獲得できたり、自分からマッチしそうな相手を探すことができたり、"Woos"と呼ばれる、スーパーライク(超お気に入り!超好き!)を送ることができたり、メッセージのやり取りに対してのアドバイスや、自分に関心がある候補者のレポートなどがもらえたり、毎月コーヒー豆を貰うことができたりします


CMBの誕生経緯やサービス概要を調べる中で興味深かかったことの一つに、 アルンさんとダウーンさんの二人がTEDxでCMBサービスを開発するため、出会い系でカップルになることができた人と、できない人との間にはどんな差異があるのかについて、データ収集と分析を重ねてきたというエピソードをユーモアを交えて話していたプレゼン発表です。
例えば、カップル群の人は、やり取りしたテキストメッセージの数や頻度が、できなかったシングル群と比較して多いという量的な分析だけでなく、そのメッセージの中身の内容分析も行い、カップル群の人たちのメッセージが、シングル群と比較して、ネガティブなことも含めて、自分をさらけだす情報をより多く表出し、伝えていたといいます。


これらの分析やユーザーへのインタビューから、この背景には、自分をさらけだすことへの恐れ、自分をよく見せて人気者にならなければ相手から拒否されてしまうという強迫観念のようなものが、シングル群の人たちを表面的なコミュニケーションを押しとどめてしまっていたことを洞察しました。


長期的で健康な関係性を構築するためには、自分の弱さも含めてオープンに交わし合えることが必要で、いつかの時点でこれをしなければ本物の関係性を構築することは難しい。そしてこうした関係性を築く機会を提供するためにCMBが存在するといいます。


リサーチやデータドリブンで顧客が抱える課題を真摯に受け止める同社の姿勢とともに、出会い系という言葉に留まらない、人との関係性構築の仕方や出会い方をオンラインやテクノロジーでよりよく意味あるものにしていきたいという想いが垣間見えるエピソードです。

心理学、ゲーミフィケーション、匂いまで?! 
まだまだあります、多様な出会い系サービス

さて3つほどアメリカを中心にサービス展開されている出会い系アプリやサービスをご紹介してきましたが、まだまだ続々と新たなサービスが誕生し続けています。


いくつか駆け足になりますが、時代や世相を反映していると感じる出会い系アプリ、サービスをご紹介してサービス紹介を締めくくりたいと思います。

ゲーミフィケーション、心理学を駆使した映画のようなアドベンチャーストーリーでオンラインの出会いを変える、

画像:https://apps.apple.com/us/app/lantern-dating-focused-on-you/id1533737117よりスクリーンショット画像を引用
一つ目は、ゲーミフィケーション、心理学を駆使した映画のようなアドベンチャーストーリーでオンラインの出会いを変える、ランタン Lantern です。


こちらは2021年に登場したばかりのサービスで、キャロリン・ジレンスポールさん(Caroline Gyllensporre)、イェフダ・ニューマンさん(Yehuda Neuman)が共同創業して立ち上げた出会い系アプリです。


ニューマンさんの父であり、ニューヨークタイムズで表彰されている心理セラピストのゲリー・ニューマン(M. Gary Neuman)さんの研究や実践から得られたカップルの関係性に関する心理学を中心とした知見とアルゴリズムをベースに開発されたもので、ユーザーは映画のようなシナリオベースの冒険や旅を疑似的に体験するなかで様々な質問を訊かれたり、次の行動の意思決定を求められます。


例えば、「あなたは5000万ドル(日本円で54.4億円ほど)を手に入れました。ジェット飛行機の燃料は満タンです。どこに行きますか?」というような質問です。そしてそこで回答した答えと同じような回答をした相手とマッチングされるという仕組みです。



どんどん行きましょう。

オンラインで一緒にゲームをしながらお互いを知る出会いアプリ・サービスの、エックスオXO  (https://www.joinxo.app/

画像:https://www.joinxo.app/よりスクリーンショット画像を引用
続いては、オンラインで一緒にゲームをしながらお互いを知る出会いアプリ・サービスの、エックスオー XOです


ユーザーは性別を自由に設定することができ、オンライン上の様々なゲームを共体験することでお互いを楽しく知り合う機会を提供します。

https://www.forbes.com/sites/johnscottlewinski/2020/05/28/new-social-media-app-xo-thinks-online-dating-is-all-fun-and-games/?sh=4833b6ff7e4e


オンラインでのゲームブラインドデートですね。

ゲームを通じてパートナー候補に出会えるキッポ
Kippo  (https://www.kippoapp.com/

画像:https://www.kippoapp.com/よりスクリーンショット画像を引用

同様に、ゲームを通じてパートナー候補に出会えるアプリには、キッポ Kippoなどがありゲーマーやゲーム好きのユーザーが共通のゲームという趣味を通じて出会えたり、ゲームを楽しむことができます。

位置情報を組み合わせたハプン
ーHappn  (https://www.happn.com/en/

画像:https://www.happn.com/en/よりスクリーンショット画像を引用画像
画像:https://apps.apple.com/app/id489185828?mt=8よりスクリーンショット画像を引用
少し毛色が変わった出会い系サービスは位置情報を組み合わせたハプン Happnです。


こちらは、実は同じ通勤路、コーヒーを買いに立ち寄るお店ですれ違っていた、、、など、自宅や職場などの近隣ですれ違っていたかもしれない恋人候補に出会えるという出会い系アプリです。


自分の行動範囲のマップ上に、最近物理的にすれ違っていたマッチング候補者が表示され、お互いが気に入れば、プライベートチャットをすることができます。


通勤途中や職場のビルのエレベーターでなんとなくいいなと思う人がいた、電車で一目ぼれをした、など、物理的な近接性をもとに出会いをデザインするアプリです。ニューヨークなどの都市部ではユーザー数も多く、うまく機能しそうですが、ユーザーが少ない場所では難しいかもしれませんね。

今回はご紹介しきれないのですが、1日に1回だけマッチした相手のプロフィールが送られてくるニューヨークのスタートアップ、ワンス Once、コンシャスデーティング(意識的なデート)をコンセプトに、瞑想や対話のグループワークイベントを共に経験し、ありのままの自分でコミュニケーションを交わす時間を持ったのちに、参加者間でマッチするニューヨーク発のハムハム Humhumゲイの人に特化したグラインダー Grindrレズビアンの女性に特化したハー Her海外などを転々として働くリモートワーカーや旅行者を対象にしたフェアリーテール Fairytrail好きな音楽の共通性で出会えるテイストバッヅ Tastebuds、さらには3日間夜間に着用したTシャツの匂いでマッチするスメルデーティング Smell datingという極めてユニークな出会い系サービスも!

さらには宗教や人種別の出会い系アプリやサイトも多様に展開されています。

テクノロジーで変わる"出会い"

「なぜそのサービスが誕生したのか、新たに作られたのか」、を丁寧に紐解いてゆくと、その問いの背景にある、現在の"出会い"の在り方、意義やそこに横たわるバイアス、課題を見出すことができます。

ティンダーの登場は、気軽にスワイプして相手を選ぶという、新たなオンラインでの出会いの行動様式を生みました。しかしながら、このテクノロジーが生んだ新たな出会いは、プロフィールで相手をジャッジしたり、他者に対するステレオタイプや男性優位でかつ"出会いを消費する"ことを助長していました。
出会いに対する人間の行動や価値観が、スワイプやプロフィールデータという技術に媒介され、形作られてしまっている事実にも気づかされます。

アメリカで展開されている出会い系アプリ、サービスを知れば知るほど、その幅の広さ、多様性には心底驚かされます。それは多様なユーザーが存在し、そこに多様なニーズが生まれているということが当然影響はしていると思います。
しかしながら、「"出会い"そのものの存在意義や、意味、現状を問う」ということが、これだけの多様な出会い系サービスと価値を創出する源になっているように感じます。


アメリカの出会い系サービスの興隆や、IPOをしていくバンブルなどの企業の姿を目の当たりにすると、新規事業や新商品・サービスがスケールするかしないかを左右する要素として、表面的な課題やニーズの把握に留まらず、深く、かつ大局的に、対象としているサービスの存在意義や意味、ユーザーを取り巻くバイアスを問い、リサーチやデータから丁寧に理解し続ける姿勢を持てるかどうかにかかっているように感じてなりません。



コロナ禍で物理的な出会いが難しくなる中、オンラインでの出会いにたくさんの人がシフトし、そこで経験し、慣れることで、オンラインでの出会いによりオープンで積極的な人が増えるという好循環が生まれています。
この追い風の中、さらに多様な"オンラインの出会い"が生まれてくる気配を感じます。


コロナ架でまだまだ様々な制限が存在していますが、ニューヨーク市のデブラシオ市長は7月よりニューヨーク市を完全にオープンすることを4月29日に宣言しました。


リアルな出会いが少しずつ増えそうな今年、バーチャルと融合しながら、どんな新たな"出会い"が生まれてくるのか観察していきたいと思います。


それではみなさん、また次回のコラムでお会いしましょう。
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Aya Kubosumi ノマドマーケター

コニカミノルタ、大阪ガスで行動観察やユーザーリサーチに携わったのち、GOB Incubation Partnersを創業。夫の突然の転職に伴い、東京から3歳の娘と夫とともにNY(ニュージャージー)に移住。ノマドマーケターとして、NYの人々、もの、こと、を日々観察、体験したことを素材に、日本の商品開発マーケターの皆さんと共有したいインサイトを綴ります。

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