行政主導で展開するワクチン接種インセンティブ策
地域の公共施設、文化施設等との提携
5月に入り、ニューヨーク州、そして全米の各州は次々とワクチン接種のためのインセンティブ策を発表しました。
こちらがまたユニークなラインナップなのです。
いくつかご紹介させていただきます。
まずはニューヨーク市から。

ニューヨーク市は市内でブロンクス動物園、図書館、大学、ショッピングモール、教会、コミュニティーセンターなど様々な市内の場所でワクチン接種サイトを複数運営していますが、話題を呼んでいるのが、4月からオープンしたアメリカ自然史博物館です。
実物大のシロナガスクジラの模型があるミスタイン海洋生物ファミリーホールがワクチン接種会場となり、巨大なクジラの下でワクチンを接種することができます。
腕にワクチン接種の絆創膏を貼ったクジラを眺めながらのワクチン接種の時間は病院などで受けるワクチン接種の時間や経験とは全く違ったものになりそうですね。
ワクチン接種者は自然史博物館への入館が無料となり、ワクチン接種がてら、自然史博物館の展示を楽しむことができるのがメリットです。
同様にワクチン接種サイトとして参加し、入館や利用料を無料にしている施設には、バレエや音楽のコンサートなどの会場、リンカーンセンター、ニューヨーク水族館、ニューヨーク植物園、ニューヨーク市フェリーなどがあります。
しかしながらこうした試みは各施設からの協力が不可欠です。
単に会場を提供することを要請するだけでなく、各施設が抱える課題や置かれている状況を踏まえた上で、ウィンウィンになるような設計をするということが、この市内600か所以上という膨大なワクチン接種会場の確保に至った成功要因だと思います。
他にも、ワクチン接種を行うと、ニューヨーク市内の人気観光スポットの一つであるチェルシーマーケットではグーグルからの寄付で15ドルのギフトカードをもらうことができます。ちなみにグーグルのオフィスが入っているビルはチェルシーマーケットの至近に位置しています。
ニューヨーク市が一丸となってワクチン接種率の向上と、市内への人の誘致に取り組んでいるようすが伺えます。
続いてはニューヨーク州が展開するワクチン接種インセンティブ策です。
先のアメリカ自然史博物館のように州内の観光スポットや文化スポーツ施設などと提携したワクチン接種のインセンティブ、キャンペーンがいくつかあります。
また、電車やバスなどの公共交通を州内で運営するメトロポリタン・トランスポーテーション・オーソリティー(MTA)では、5月10日から、MTAの8つの駅にワクチン接種サイトを設置、5月16日までの期間限定で、接種者には7日間無料のメトロカードまたは無料のメトロノース往復チケットを提供していました。
パンデミック以前のような経済、社会、文化活動を再開するために、州内のリソースを活用するとともに、ワクチン接種と州内の人の行動や活動を喚起する複数のインセンティブ策の構造になっている点が興味深いですね。
そしてさらに州外から人を呼び込むために施行されたのが、観光客誘致のための観光客向けのワクチン接種のポップアップ会場の設置です。

5月6日から午後1時から8時の間、タイムズスクエアやセントラルパーク、ハイラインなどの観光地に移動式のワクチンサイトのほか、サンセットセットパークなど臨時会場が設置され、1回の接種で済むジョンソン・アンド・ジョンソンのワクチンを誰でも予約なしで受けることができます。
同様に観光業界が主要な産業となっているアラスカ州でも、海外からの旅行者に対し、主要空港でジョンソン・アンド・ジョンソンのほか、ファイザー、モデルナ社のワクチンの無料接種を5月より開始しています。
ハワイ州でも旅行者へのワクチン接種提供を検討しているようです。
ニューヨークでも、日本のツアー会社がワクチン接種ツアーの提供を開始し始めています。
こちらはフライト、ホテルの予約だけでなく、ワクチン接種の通訳やアテンドサポート、日本帰国時に必要なコロナウィルスの陰性証明のためのPCRテストなどもサポートしており、まだまだ観光客が戻らずに半額程度となっているホテル代の安さや、中国やヨーロッパなどの国からの入国を認めていないアメリカで、日本からの入国は受け入れている今のメリットを強調した内容となっています。
観光キャンペーンに絡めた無料のワクチン接種の例からもワクチン接種と経済活動の再開がセットとなり、次々と新たなビジネスや取り組みが生まれていることにアメリカらしさを感じずにはいられません。