NYノマド 第32回 金融とアートの中心、ニューヨークで生まれたNFTアート Part3

21.09.21 02:18 PM By s.budo

プレイフルで前衛的なNFTアートたちが飾られたイマーシブなギャラリー空間

ピーポくんに出迎えられながら、ギャラリーのドアを開けると受付には二人の女性がパソコンを広げて座っていました。


一人はパンクテイストのファッション、もう一人もカジュアルな服装です。

挨拶をして写真を撮っても良いかとギャラリストに尋ねると、「インスタグラムはやってる?ぜひ投稿してね。」と、笑顔で答えてくれました。

日本でも絵画を取り扱っているようなギャラリーを訪れたのは数えられるほどだった私にとって、ギャラリーは敷居の高いイメージだったのですが、こちらのSuperchief Gallery NFTはぐっとフレンドリーな印象です。


続けて、入り口のピーポくんのアートについて、東京からこちらに来てこのキャラクターにニューヨークで会って驚いたと伝えると、この作品を作ったアーティストはマイク・アイラック(Mike Irak )さんで現在東京に住んで創作活動をしていること、日本のゲームやキャラクターなどとストリートアートをミックスしたアート作品を作っていること、彼のアート作品が渋谷駅の電光掲示板に映し出されている画像や、このギャラリーのイベントでアートのライブパフォーマンスを彼がしたときのビデオをパソコンで見せてくれました。

liveパフォーマンスのビデオでは阪神タイガースのユニフォームを身にまとったマイクさんが、自分のアート作品に重ねてデジタルのグラフィティを描くアートパフォーマンスをしていて、何とも解釈できないような、不思議な気持ちが湧いてきました。

写真:ギャラリーの入り口付近のようす、筆者撮影

受付のすぐ横にはヒップホップテイストのグラフィティが書かれた壁にマイクさんの作品2点が4Kのスクリーンでディスプレイされています。こちらの作品を含め、マイクさんの作品はOpenSeaで販売されていますので、関心がある方はOpenSeaのマイクさんの販売ページをご覧ください。

Superchief Gallery NFTのインスタグラムにも、展示作品やイベントの様子を公開しており、マイクさんのタイガースユニフォームも載っていますので、こちらもよろしければチェックしてみてください。

写真:マイクさんのNFTアート作品、筆者撮影

ギャラリーの奥の空間に進むと、真っ暗な空間にいくつものディスプレイに表示されたNFTアート作品と一番奥にはプロジェクターに映し出された曼荼羅アートのような巨大なCG作品が出迎えてくれます。


壁はほぼ全面、黒く塗られており、装飾はほとんどありません。

4Kディスプレイに展示されたデジタルのNFTアート作品が刻々と照らし出されています。Superchief Gallery NFTで取り扱っているNFTアートは、OpenSeaで実際に売買取引が可能で、リスティングを観ることができますが、実空間に4Kディスプレイで映し出され、没入しながら鑑賞する体験と、ウェブ上で小さなスクリーンで眺める鑑賞体験はやはり大きな違いがあります。

NFTギャラリーオープン時のギャラリーファウンダーであるEd Zipco氏へのインタビュー記事によれば、NFTアートとあなた(顧客)がどのように生きるのかを提示するために物理的なNFTアートギャラリーをオープンしたと話しています。

写真:ギャラリー奥にプロジェクターで展示されていたNFTアート作品、筆者撮影
写真:ギャラリー内の展示の様子、筆者撮影

絵画に合った額に入れて飾ることと、ディスプレイやフォトフレームに映し出して飾ることは同じような行為に感じますが、こうして実際に体験してみると、NFTアートを飾って鑑賞するという行為はまた、それなりのツールや環境が必要になることを認識します。

それに加えて、NFTアートを日常の生活空間に設置することと、日常に溶け込んだ空間で鑑賞することへの障壁も感じます。


これから様々な鑑賞スタイル、文化が立ち現れてくると思いますが、どちらかというと、コンシューマー用であればシアタールームのように、専用のスペースを設けることが向いているような気がします。

オフィス用途であれば、受付スペース、待合室のようにブランディングやその時の組織のメッセージを発するような機能をもつスペース、もしくは会話やコミュニケーションを生むような意図をもって設置されたインタラクティブなスペースが向いていそうです。


ディスプレイや投影技術ももちろんアートの観え方を左右する要素でしょう。

ギャラリーの受付の背面にはたくさんの小型デジタルフォトフレームが販売されており、解像度の高いディスプレイを推奨していました。

ギャラリー内に展示されていたこちらの作品をご覧ください。

写真上:Devin Yalkin - "Resignation Revelations: Two"、写真下:Devin Yalkin - "Resignation Revelations: Two"(いずれもhttps://www.instagram.com/dedecim/)、筆者撮影

こちらの作品は、ニューヨーク生まれ、在住のデビン・ヤルキン氏(Devin Yalkin)の "Resignation Revelations(辞職発覚)”という作品です。


作品に使われている写真は、先月、セクハラ行為疑惑で辞職した前ニューヨーク州知事のクウォモ氏です。

タイトルの"Resignation Revelations”にもあるとおり、セクハラ行為疑惑が発覚し、辞職に追い込まれたクウォモ氏をテーマにした作品です。

複数の部下などからセクハラ行為の告発を受けたクウォモ氏は、最後の辞任会見でも、被害者への謝罪は口にしたものの、全面的に自身の過失を認めることなく、自らのコミュニケーションスタイルの一環であったという弁明に終始していました。強権的で、自身に意見する人を一切排除してきたとされるクウォモ氏、コロナ禍での対応や強力なリーダーシップは確かに評価されていましたが、同時期にニューヨーク市のデブラシオ市長のコロナ対策にはおよそ否定的で、デブラシオ市長が対策を発表するたびにそれを否定する姿勢も指摘されていました。


タイムリーで話題性、メッセージ性に富んだこの作品、写真上の作品はニューヨークタイムズが寄稿したクウォモ氏のセクハラ疑惑に関するコラムでフロントカバーに使われた作品で、今月8月30日に3.33WETH(およそ$11,803.49、日本円で130万円)で取引されました。

作品の取引ページには、販売された収益の20%は"The Mount Sinai Sexual Assault and Violence Intervention Program (SAVI)"というマウントサイナイ病院が提供する、レイプやDVといった性的暴力被害者に治療やカウンセリング、必要なサポートなどを提供するプログラムに寄付されると記載されています。

ニューヨークタイムズに使われた作品であることとともに、作品の売上を社会問題解決に活用する姿勢がこの作品の価値を高めているように感じます。

NFTアートは社会課題などの社会への問題提起、政治や権力に対する批判などを孕む現代美術のカテゴリーに位置づけられますが、展示されていたNFTアート作品群はデジタル性も相俟ってか、全体的にかなりエッジの効いた作品が多いように感じました。


日本人アーティストの作品も展示されていました。
写真左:Shintaro Kago - "Mandala Train"(https://www.instagram.com/shintarokago1969/?hl=ja)、写真右:David Henry Nobody Jr. - "Burning Nobodies House"(https://www.instagram.com/davidhenrynobodyjr/?hl=ja)、筆者撮影

こちら写真左のセーラー服を着た女性、汽車とレールをモチーフにした猟奇的でブラックユーモアのある作品は奇想漫画家の駕籠真太郎氏のものです


インスタグラムのフォロワーはなんと33.1万人、スペインの第19回『Salon del MANGA de BARCELONA』で受賞するなど、世界的に活躍され、ホラー、暴力、SFに風刺をたっぷり加えた成人マンガやイラストなどを展開し、ファンを魅了しています。


写真右の作品はニューヨークベースのパフォーマンス・アーティストのデイビッド・ヘンリー・ノーバディ・ジュニア氏(David Henry Nobody Jr)の作品、燃えさかる人形やぬいぐるみなどが配置された家の模型をかぶったパフォーマンスアートです


濃厚なブラックユーモアと刺激に溢れたこれらのアート作品は、NFTアートのデジタル性、インタラクティブ性でそのメッセージ力を増幅しているように感じます。

皆さんはこれらの作品からどんなメッセージや印象を受け取りましたか?

アーティストを支援するプラットフォームとしてのNFTアート

NFTアートはブロックチェーン技術を用いて、アーティストと顧客、ファンとの取引や関係性に新たな機会と可能性をもたらしています。


今回のSuperchief gallery NFT訪問時は、私以外の顧客はいませんでしたが、ギャラリストは定期的に開催しているオフラインのNFTアートイベントに参加するとアーティストや顧客、ファンと出会える機会になると勧めてくれました。

従来のファインアートの売買取引では初回のみ、作品を購買した顧客からアーティストに対し支払いが行われ、その後その作品が他の顧客に転売されてもその差額の収益をアーティスト自身が受け取ることはあまりありませんでした。


ファインアートではギャラリーやクリスティーズ、サザビーズといったオークションハウスが主にその取引をハンドリングし、アーティストと顧客が直接日常的にやり取りをしたり、コミュニケーションをしたりする機会は限定的です。

しかしながらNFTアートではブロックチェーン技術を用いて作品のデジタル証書に所有権や取引履歴などが全て埋め込まれおり、転売も容易です。

アーティストはNFTアート作品販売時に印税を設定することができ、転売されるたびに一定の収益を得ることが可能です。

Superchief Gallery NFTでは、ギャラリーとアーティスト間の収益の分配がオープンになっており、作品の収益の85%をアーティストが受け取ります


こうした透明性のある取引条件は、作品を生み出し、販売するアーティストが出品しやすくなるとともに、ギャラリーとアーティストとの関係性もよりフラットに導いていくドライバーになるように思います。

先のデビン・ヤルキン氏のクウォモ氏をモチーフにした作品で性的暴力被害者支援のプログラムに収益の一部を寄付していることが示すように、アーティスト自身が自分で売り上げの配分や売り上げの使途についての積極的な関与を開いていく機会も提供しています。

NFTアートとその取引プラットフォームは、アーティストが作品を制作するだけの存在ではなく、その地位を高め、作品が持つ経済的、社会的な価値や機会をどのように還元していくかを自身でイニシアチブをとり、デザインし、ステークホルダーとのオープンでフラットな関係性やコミュニティを築くことができます。

アーティストと顧客との距離感を縮めるとともに、ファンコミュニティを作り、運営することが容易になります。


ここに、NFTアートが私たちの未来に大きな変化を生み得るドライビングフォースを感じずにはいられません。

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Aya Kubosumi ノマドマーケター

コニカミノルタ、大阪ガスで行動観察やユーザーリサーチに携わったのち、GOB Incubation Partnersを創業。夫の突然の転職に伴い、東京から3歳の娘と夫とともにNY(ニュージャージー)に移住。ノマドマーケターとして、NYの人々、もの、こと、を日々観察、体験したことを素材に、日本の商品開発マーケターの皆さんと共有したいインサイトを綴ります。

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