NYノマド 第32回 金融とアートの中心、ニューヨークで生まれたNFTアート Part4

21.09.27 10:38 PM By s.budo

誰がNFTアートを買っているのか?

今回、NFTアートのギャラリーに足を運び、これはぜひ聞いて帰らねばと思っていた質問がありました。「誰がNFTアートを買っているのか?」です。

直接顧客と接する機会があるSuperchief Gallery NFTのギャラリストに直球でぶつけてみたところ、こんな答えが返ってきました。

こちらのギャラリーで作品を買っているNFTアートの購買層は性別では圧倒的に男性。

仮想通貨を介しての取引という側面があるため、仮想通貨取引をしており、仮想通貨や株への投資など、金融商品に関心が高く、ウォール街で働いているような富裕層。

と答えてくれました。

従来のファインアートのように、アートそのものへの関心の高さが最初にくるというより、仮想通貨への関心や実際の取引関与度が高く、投資としてのアートに関心があるという要素が現在のNFTアートコレクターのプロファイルの主な構成要素になっている点を非常に興味深く感じます。

経済資本だけでなく、社会学者ピエール・ブルデューが提唱した「文化資本」も持ち合わせる顧客像を想像します。

NFTアート作品とそれを取り巻くコミュニティについて最近公開されていたニューヨークタイムズ紙のコラム、"I Joined a Penguin NFT Club Because Apparently That’s What We Do Now -Is this what the metaverse looks like?"では、コレクター欲求とコミュニケーション欲求を満たしながら成長するNFTコミュニティについてのエピソードを紹介しています。

NFTアートコミュニティの中でも人気があるものの一つが、パッジー(ずんぐり)・ペンギン(Pudgy Penguinsという8888体のそれぞれユニークな表情、洋服、アイテムを身にまとったペンギンたちのNFTアートのコミュニティです。

画像:https://www.pudgypenguins.io/#/よりスクリーンショット画像を引用

セントラルフロリダ大学でコンピューターサイエンスの学生が始めたこのNFTアートコミュニティでは、ペンギンたちが売り出されて20分でオリジナルコレクションが完売、中にはPudgy Penguin #6873のように、46万9千ドル(日本円でおよそ5160万円)で売られ、現在は56万6127ドルの値をつけているペンギンもいます。


NFTアートコミュニティでは、メンバーはペットオーナー同士が集まるように、自分が購入したNFTアートを介して、ディスコード等でつながってコミュニケーションしたり、自分のNFTアートを自慢し合ったり、取引をしたり、情報交換をする場になっており、仮想通貨セレブたちをコミュニティに呼んだりと、様々な活動が繰り広げられています。


パッジー・ペンギンにはおよそ4000人のオーナーがおり、コミュニティ内ではペンギンは"ペンガス(pengus.)"、オーナーは“ハドラーズ(huddlers.)”と呼ばれ、帽子などのアクセサリーを何も頭に身につけていないレアなペンギンを“タフツ(Tufts)”と呼び、レア度が低いペンギンを“フロアース(floors)”など、独自の言葉や慣習を生み出しています。


パッジー・ペンギンのオーナーたちの中には自分の自慢のペンギンを、ロレックスの時計を買うようなものと家族に説明している人もいれば、金融投資と位置付けている人、レアなプロダクトを自慢したい人、MMORPGやソーシャルゲームのコミュニティのようにコミュニティ内での社会的交流機会に価値を感じている人がおり、承認欲求、社会的欲求、金銭的価値、コレクター欲求など様々な欲求を満たしたい人たちが集まっているようすが伺えます。


ペンガスのオーナーたちはTwitterのアイコンを自分が所有するペンギンに変え、さりげなく自分自身がNFTアートのオーナーであることをPRしています。

私もNFTアートに関心を持つようになり、ようやくTwitterのアイコンに話題のNFTアートのキャラクター達を使っている人がいることに気づくようになりました。

さほど遠くない未来、テスラやポルシェで待ち合わせ場所に現れるのと同じように、Zoomミーティングに高額のNFTアートの背景画像で現れる人が増えていくかもしれません。

NFTアートはどこへゆくのか 
NFTアートの可能性と未来への示唆

2021年の四半期でNFTアート市場は800%以上の成長をみせ、490百万ドル(日本円でおよそ540億円弱)と推定されています

11月にニューヨークで開催予定のNFTアートイベントのNFT.NYCはVIPチケットを除き、全ての参加チケットが売り切れとなっています。

ブロックチェーン技術を使ったNFTはアートのみならず、ルイ・ヴィトンなどの高級ブランドが自社製品に真贋の証明に活用したり、グッチがNFTスニーカーの発売をしたり

など、様々な展開を見せつつあります。


しかしながら、NFTアートのネガティブな影響や課題が指摘されています。

NFTアートの取引に利用されているイーサリウムをマイニングするためには、多くの電力を消費する高性能コンピュータを使用することが必要で、この電力消費のために二酸化炭素の排出量の増加を引き起こしていることが指摘されています

また、日本を代表する現代美術家の村上隆氏も今年3月に代表的なモチーフのフラワーを描いたNFTアート作品"Murakami.Flower #0000"のオークションを予定していましたが、現在NFTアートに使われている暗号技術の問題で一旦中止し、現在は準備中とソーシャルメディアで発表されています。このように技術的な課題も残っています。

 

しかしながら、ブロックチェーン技術、デジタルテクノロジー、金融、そしてアートが交錯し、サブカルチャーとともに立ち現れ、その存在感を示しつつあるNFTアート。

課題やネガティブな影響が指摘されつつありますが、私たちの様々な既成概念や価値、既存市場に大きな変化をもたらしうる新たな可能性を秘めています。


2017年に創業し、アートの民主化を掲げ、アート投資事業を行うニューヨークベースのスタートアップ、マスターワークス(Masterworksは、複数の投資家が現代美術を中心としたブルーチップアーティストのアート作品の所有権の一部を、株式投資を行うように少額かつ容易に購入し、一定期間保有し、その後そのアートを売却した差益を利益還元するアート投資ビジネスを展開しています。

このような動きからも、制作、保管、購入、鑑賞、所有といったアートに関する一連の体験や価値、アーティストと顧客、コミュニティとの関係性に留まらず、今までの「所有」という概念や「複製可能なデジタルデータにおけるリアル/本物」の概念への問題提起など、その範疇は広く、既存のアートおよび金融市場に異議を唱える動きが加速しそうな予感がします。

その一方で、デジタル化しNFTを埋め込むことで、ありとあらゆるものを消費可能な対象と変え、データの一部や一つ一つのピースまでからもお金を吸い尽くす手段として機能させてしまう可能性も孕んでいます。


ドイツボン大学の哲学者、マルクス・ガブリエルはNHKの番組内でニューヨークのタイムズスクエアに流れたとあるデジタル広告を指し、「意味のない欲望を純粋に祝福している」表現しました


NFTアートの誕生と歴史はニューヨークベースのNFTアーティストやスタートアップなしには語ることができません。

金融とアートの中心地ニューヨークで、NFTアートが純粋な欲望を膨張させるツールとしての鋳型を穿つのか、それとも、中立的で民主的な経済と文化のプラットフォームを獲得していくのか、観察を続けてみたいと思います。

 

それではみなさん、また次回のコラムでお会いしましょう。
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Aya Kubosumi ノマドマーケター

コニカミノルタ、大阪ガスで行動観察やユーザーリサーチに携わったのち、GOB Incubation Partnersを創業。夫の突然の転職に伴い、東京から3歳の娘と夫とともにNY(ニュージャージー)に移住。ノマドマーケターとして、NYの人々、もの、こと、を日々観察、体験したことを素材に、日本の商品開発マーケターの皆さんと共有したいインサイトを綴ります。