NYノマド 第34回 様々なアメリカの商品サービスに見る、"効率"の哲学とデザイン発想 Part3

21.11.22 03:20 PM By s.budo

プロセス全体を究極的に効率化したサービスたち 
家を売る前に購入できる不動産売買サービス"Orchard"

アメリカではネイトのショッピング体験のように、ここまで効率化できたら、それはすごい!と感じるようなサービスに出会うことが少なくありません。
残念ながら、私自身はユーザーではないのですが、機会ができたら利用してみたいと考えている"超効率化"サービスを一つ最後にご紹介したいと思います。

画像:https://orchard.com/よりスクリーンショット画像を引用
"Buy your next home before you sell(売る前に次の家を買おう)"というキャッチコピーがウェブサイトにも前面に押し出されたこのオーチャードは、家を買うことをストレスフリーにすることをミッションに、新たな家の買い方を提供する不動産サービスです。



もともと、建築後経年しても不動産価格があまり下がることのないアメリカでは、家を購入することは住まいを得るだけでなく、資産運用の観点でも支持を得ています。
ローンを組んで家を購入し、家族の増減やライフスタイルの変化があれば、今までの家を売却し、その売却益を元手に新たな家を購入し、住み替えすることが一般的です。この場合、自宅が売れなければ、次の家を購入することができません。

不動産の賃貸、売買のリスティング情報プラットフォームを展開するZillowによれば、2020年、家が売りに出されてから売れるまでにおよそ平均で55~70日かかるとされています。
売りに出すまでの準備や、売れてからの契約手続き、物件や設備などの検査があり、入金までを考えるとさらに日数がかかりますので、自宅が売れ、次の物件を購入するまでには時間だけでなく、かなりの労力が長期間かかることになります。

この自宅売買のプロセス全体に横たわる様々なペインポイントからホーム―オーナーたちのストレスを解放しようというのがオーチャードのワンストップ不動産売買サービス&プラットフォームです。

現在の自宅が売れる前に、自宅の査定結果、マーケット情報などを元に、売却見込み額を算定してくれ、その金額をオーチャードが貸し付けてくれることにより、自宅を売る前に次の新居を購入することができるのです。
また、自宅の売却や購入に関わるリスティング作業(家の内覧案内等を含む)、価格交渉、契約、検査、貸付、保険、不動産登記、修理など様々なプロセスや専門家を全てワンストップで提供してくれますので、一つ一つのプロセス毎に自分で必要な専門家や企業を探し、見積もりを取って比較をし、発注し、プロセスを管理するという大仕事から解放してくれます。
そしてさらに、通常であればようやく自宅が売れてからスタートする新居の購入プロセスを、自宅の売却プロセスの前に、もしくは同時並行でやってくれるのですから、時間的、精神的、金銭的労力は1/2以下になりますね。
自宅の売却額が次の新居購入に影響しますので、新居を購入して自宅が思うように売れなかったらどうしよう、という不安や精神的負荷もかなり軽減されます。
新たな新居に住みながら、以前の自宅が売れるのを見守るプロセスと、今までの自宅を売ってから新居を探すプロセスとを比較してみても、"新居を購入する"という経験が全く異なるものになることが未経験でも容易に想像できます。

新居を購入するプロセス全体を究極的に効率化した結果、自宅を売る前に次の新居を購入できるサービスというデザインコンセプトになったオーチャード、この発想は、手間や時間をかけないで済むための"効率化"にプレミアムなお金を支払うアメリカ文化からこそ生まれたサービスだと感じずにはいられません。

アメリカの"効率化"デザイン哲学から見えること 
鳴かぬなら…?

このように今回ご紹介した、"効率化"を機能化、もしくは価値化したいくつかのアメリカ製品・サービスを眺めてみると、アメリカの課題解決への姿勢と、効率化に対する価値意識が透けて見えてきます。

ご紹介したトレーダージョーズのオイルスプレーは、自宅での調理を効率化するのかと問われると、もちろん、油を使う他の料理、揚げ物には使えませんし、キャノーラもしくはアボカドオイルしかありませんので、ごま油を使った炒め物などにも使うことはできません。
アメリカの家庭でよく登場する簡単なフライパンで焼くだけ、などのピンポイントなレシピで、油をフライパンに塗ること、においては機能すると言えるでしょう。
レイノルズラップやトレーダージョーズのオイルスプレーでは、ある特定の課題にフォーカスし、その課題を徹底的に効率的、機能的に解決しようとする製品サービスのデザイン哲学と言えるでしょう。

これらからは、欧米では食事をする時に、ナイフ、フォーク、スプーンのカトラリーが機能ごとに存在し、その機能ごとに最適化されたデザインが製品やサービスとなっていることが思い起こされます。
日本は箸の文化で、箸でつまむ、指す、切る、口の中にかき込むなど、様々な機能を一つの箸のデザインの中で達成させています。こう考えると、日本の箸のデザイン哲学を突き詰めると、アメリカとは全く異なるアプローチで、複数の課題を効率的に解決する方向性を見出すことができるかもしれません。
そしてネイトのショッピングアプリは、ショッピング体験の中で購買というプロセスをピンポイントで革新することで前後のショッピング体験でコンフリクトや新たな課題を生んでしまっている状況ではありますが、全く新たなショッピング体験を生み出していました。
オーチャードの不動産売買サービス&プラットフォームでは、家を売り、新居を購入するプロセス全体を究極的に効率化するために、全体のプロセスを刷新するという解決策が生まれていました。

これらのサービスから私が感じるのは、「かぬなら、殺してしまおうホトトギス」という織田信長的な革新的課題解決の姿勢です。
全体を無理のないように少しずつ効率化しようとすると、中途半端なソリューションやデザインに陥りやすく、局所的な解決も、全体的な解決のいずれも達成できないということがしばしば起きます。
かぬなら、かせてみようホトトギス」から始まった課題解決が、結局「かぬなら、くまで待とうホトトギス」という徳川家康的な解決姿勢になってしまっている状態です。
日本では様々な組織や顧客のコンセンサスを得ながら改善したり、デザインをしたりするため、こちらの徳川家康的な課題解決姿勢に陥りやすいように感じます。
その結果、織田信長的な、革新的イノベーションを創造しづらくなっているのではないでしょうか。
アメリカのスタートアップに見る、"Disruptive(破壊的)"なサービスはこうした織田信長的課題解決姿勢がもたらしているのかもしれません。
最後に、これらの製品サービスの需要が成立するのは、効率化、すなわち、手間や時間をかけないで済むことにプレミアムなお金を支払うアメリカ的価値観が根底にあることが挙げられるでしょう。
日本ではそれとは対照に、掃除やベビーシッターなど家庭の手間を外部にアウトソースできるサービスはまだまだ発展途上ですし、食事というプロセスにおいても、外食に加えて中食が食市場において拡大傾向にありますが、まだまだ内食が72兆4,041億円の半数を占めている状況です(2021年版総菜白書)。
食品でも、コロナ禍の巣ごもり需要の追い風を受けた野菜や肉などの具材を加えるだけのメニュー調味料カット野菜の需要が好調です。

これらの状況を鑑みると、その背景には、手間を一切かけないことにお金を払うアメリカ的な価値観より、手間を全くかけないことに対する罪悪感やほんのひと手間かけることを楽しむ価値観があることが考えられます。
キャンプに持参したインスタントドリップコーヒーはまさに、ひと手間をちょっとかけることを楽しむ製品ですね。

日本は海外の文化を輸入し、自国流にアレンジ、組み込みながら独自の文化を再生産することが得意な稀有な文化を持っています。アメリカ的な"効率性"のデザイン哲学や視点を輸入し、製品やサービスの改善やイノベーションに新たな息吹を吹き込んでみるのはいかがでしょうか。

それではみなさん、また次回のコラムでお会いしましょう。
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Aya Kubosumi ノマドマーケター

コニカミノルタ、大阪ガスで行動観察やユーザーリサーチに携わったのち、GOB Incubation Partnersを創業。夫の突然の転職に伴い、東京から3歳の娘と夫とともにNY(ニュージャージー)に移住。ノマドマーケターとして、NYの人々、もの、こと、を日々観察、体験したことを素材に、日本の商品開発マーケターの皆さんと共有したいインサイトを綴ります。