NYノマド 第34回 様々なアメリカの商品サービスに見る、"効率"の哲学とデザイン発想  プロローグ

21.11.02 01:46 PM By s.budo

皆さんこんにちは。

自宅アパートの向かいにあり、ハドソン川を眺める公園の木々も赤や黄色に色づき、短い秋が通り過ぎようとしています。


10月はなんといっても毎年10月31日に行われるハロウィンが、サンクスギビングデー、そしてクリスマス、ニューイヤーへと向かう冬のホリデー気分を盛り上げるイベントの第一弾となります。

去年はコロナウィルスによるパンデミックで子どもが家々を回ってお菓子をもらいに行く"トリック・オア・トリート"のイベントは規模も縮小され、ほとんどが非接触型での開催となり、子どもたちにとっては寂しいハロウィンとなってしまいました。

今年は11歳以下のコロナウィルスワクチン接種は始まっていませんが、ハロウィン前に農場などで開催されるパンプキンピッキングなどのイベントも通常規模で開催されており、マスクやハンドサニタイザーなどの予防策を除き、いつものハロウィンが戻ってきそうです。

ターゲット(Target)などのリテイル店舗やトレーダージョーズ(Trader Joe’s)などのスーパーマーケットでは、9月に入るとすぐにハロウィン商戦がスタートされ、ハロウィンイベントのデコレーショングッズ、子どもたちがトリックアンドトリートに出かけるためのコスチューム用品(中にはペット用のコスチュームもバラエティ豊かにあります!)、子どもたちに配るチョコレートや飴などのお菓子やそれらを入れる紙袋等の包装グッズ、かぼちゃを使った食品の新商品が所狭しと店内に並びます。
と、思うと、10月の半ば過ぎにはすでにサンクスギビングやクリスマスグッズが商品棚にお目見えし始めます。

毎年この光景を見ては、なんて気が早いのだろうと思うのですが、現にハロウィンが訪れる前にクリスマスのデコレーションを購入している人をたくさん見かけると、底堅い需要があることを改めて認識します。
写真:車のトランクスペースを飾り付けて行う"Trick or treat"ならぬ、"Trunk or treat"ハロウィンイベントの様子、筆者撮影

今月のコラムでは、"アメリカ的な効率性"の価値が前面に押し出された商品サービスをご紹介し、アメリカの効率性の価値概念から、日本の効率性の価値の中身の違いについて考えてみたいと思います。

  • プロローグ. 秋真っ盛り、イベントシーズンのスタート
  • Part1. 切れないなら、カッターで切ってしまおう ―Reynoldsのラップ
  • Part2. どのショッピングサイトからも、2タップでショッピング完了 ―新たなショッピング経験を作るnate
  • Part3&エピローグ. プロセス全体を究極的に効率化したサービスたち、アメリカの"効率化"デザイン哲学から見えること ―鳴かぬなら…?

秋真っ盛り、イベントシーズンのスタート

さて、今年は短い秋と紅葉を楽しもうと、アメリカ人の友人家族と一緒にニューヨーク州の北に位置するキャッツキルという山間部に2回ほどキャンプに出掛けました。

日本でもバーベキュー程度のアウトドア経験だった私たち家族ですが、アメリカのキャンプとはどんなものなのか、何を作って食べるのか、何をするのか、興味津々です。
テントなどほとんどのキャンプ用品は揃っているので、寝袋と寝袋の下に敷くマット、食べ物を持ってくるだけでいいよと言われ、それらの準備をしてキャンプサイトに赴きました。

キャンプ場の多くは州営で、最近はAirbnbなどにも、個人が所有する敷地に展開するキャンプ場がリスティングされていて、キャンプ場のバラエティも広がっているようです。
価格はキャンプ場により異なりますが、州営のキャンプ場はおよそ一泊20ドル程度で利用することができます。やはりキャンプはコロナウィルスによるパンデミックの後、人気が再燃したようで、キャンプ場を予約してくれた友人は、人気のあるキャンプ場の人気のある場所は半年以上前から予約が必要だと話していました。

キャンプ場へは自宅から車でおよそ2時間ほどの場所に位置し、キャンプ場周辺はスマートフォンやWiFiの電波は全く入りません。モバイルで連絡を取り合うことができないので、デジタルデトックスには最適かもしれません。

キャンプ場のチェックインは2時、無事に到着すると既に私たちのキャンプサイト周辺でも様々なキャンパーたちがキャンプを楽しんでいました。家族連れだけでなく、カップルや女子会、友人同士など様々なグループとともに、キャンプの仕方もテントを設営するオーソドックスなタイプのものから、キャンピングカーを乗り入れその中で過ごす人たちなどバラエティに富んだ印象です。

私たちのキャンプサイトでは前日に現地入りしていた友人が寝室とピクニックテーブルの2か所にテントを設置してくれており、食事中も日よけ、虫よけ対策がばっちりです。
写真:キャンプサイトの様子、筆者撮影

今回、アメリカのキャンプを初体験し、"アメリカらしさ"を感じたことがいくつかありました。


一つ目はトイレです。

写真:キャンプサイトの様子、筆者撮影
今回訪れたキャンプ場は、キャンプ場内に設置された集合シャワールームとトイレ以外に、集合洗面施設から遠いサイトには、サイトが位置する場所の目の前の細い道を挟んだ向かいに木製の簡易トイレが個別に設置されており、わざわざ集合施設まで行かなくても良いようになっていました。
キャンプには不便さがつきものですが、利便性、効率性を重んじるアメリカのキャンプ場らしい簡易個別トイレのソリューションですね。

もう一つは、キャンプの朝に、お茶の時間に楽しむコーヒーです。


私たちはお茶のティーバッグを持っていくような感覚で、日系のスーパーで簡易ドリップコーヒーを購入し、持参しました。到着して一息つくためにコーヒーを入れようとこの簡易ドリップコーヒーを出したところ、アメリカ人の友人が目を丸くして物珍しそうにこのコーヒーを手にしました。そして今までこんなコーヒーは見たことがない、どんな風に使うのか、と矢継ぎ早に尋ねてきました。袋からコーヒー豆が入ったドリップバッグを出し、上部を破いてマグカップにセットし、お湯をここから入れてコーヒーを淹れるものだと説明すると目を丸くして、これはいいね、キャンプにぴったり、日本はこんなものがあるんだねと感嘆していました。私たちにとっては当たり前の簡易ドリップコーヒーですが、アメリカ人にとってはその発想もないような商品だったのです。


このやり取りで、アメリカ人と結婚した友人が、「アメリカでコーヒーと言えば、インスタントか、コーヒーメーカーか、少しお金持ちの人はカプセルタイプ(アメリカでは"ポッド"とも言います)で、義母が家に遊びに来た際にコーヒーメーカーでコーヒーを入れたら、義母にコーヒーの淹れ方を知っているのかと驚かれた」と話していたことを思い出しました。

時間や手間をかけて、豆を挽き、お湯を沸かし、コーヒーフィルターとドリッパーを用意し、お湯が湧いたらゆっくりと注ぐ、、、アメリカではこれだけの手間を日常的にかける人は少ないと言うのです。

確かに、どこの町にも比較的必ずあるダンキンドーナツのコーヒーを片手に道を歩いたり、車を運転したりしている人をよく見かけます。家でコーヒーを淹れずに2ドル前後で買えるダンキンドーナツのコーヒーをさくっと買いに行くという人も多い印象です。

先のキャンプを共にしたアメリカ人の友人も、簡易ドリップコーヒーはキャンプにはぴったりと言いましたが、日常的に使いたいという考えはないようでした。確かに、キャンプ中の食べ物のも、焚き火台でソーセージを軽くあぶってパンに挟んだホットドッグと購入してきた出来合いのサラダを食べたり、多少、コンロを使って調理をする場合でも、出来合いのチキンスープにジャガイモなどの野菜とパスタを入れ、チキンパスタスープにして食べたりする程度でした。

日本ではキャンプ料理というと、ご飯を炊いたり、スモークしたり、中にはピザやパンを焼いたりと、キャンプ場でもある程度自炊して食事をするというのが主流なのではないでしょうか。

アメリカでは、時間や手間をかけて何かをしたり、手間暇かけたりすることを楽しむことよりも、効率性が重視されることからくるのかもしれません。

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Aya Kubosumi ノマドマーケター

コニカミノルタ、大阪ガスで行動観察やユーザーリサーチに携わったのち、GOB Incubation Partnersを創業。夫の突然の転職に伴い、東京から3歳の娘と夫とともにNY(ニュージャージー)に移住。ノマドマーケターとして、NYの人々、もの、こと、を日々観察、体験したことを素材に、日本の商品開発マーケターの皆さんと共有したいインサイトを綴ります。

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