NYノマド 最終回 未来に向けた変化の兆し Part1

21.12.10 04:21 PM By s.budo

弾丸広告メールによる扇動消費から、スロー&コンシャス販売への変化 
アンチ・ブラックフライデー、アンチ・コンシューマリズムを宣言する企業たち

今年の感謝祭は11月25日木曜日でしたが、恒例の翌日の26日の金曜日から始まるブラックフライデー、そして29日のサイバーマンデーまでの間に大々的なセールイベントが繰り広げられました。

昨年のパンデミック下でのこのセールスイベントはオンラインショッピングがメインでの開催でしたが、今年はハロウィンイベント直後からブラックフライデーのプレセールがオンラインを中心に始まりました。

11月の1ヶ月間に渡ってこのオンラインホリデーセールが展開され、ブラックフライデーの当日は店舗での大々的なセールイベント等も行われ、マンハッタンなどでも混雑する老舗百貨店メイシーズの売り場などがニュースで流れていました。

サイバーマンデー当日はアカウントを登録しているオンラインショッピングサイトからひっきりなしにセールのお知らせのメールやテキストメッセージが届いていました。私のグーグルのメールアカウントやスマートフォンのテキストメッセージに届いていたサイバーマンデー当日の販促メールやテキストの数は100通ほど。アカウントを登録し、広告メールを受けとれる設定にしてしまっているこちらのせいでもありますが、弾丸のような広告メールやメッセージには辟易してしまいます。

デシエム(DECIEM)

画像:https://deciem.com/en-us/deciem-about.htmlよりスクリーンショット画像を引用
そんな中、"ジ・オーディナリー(THE ORDINARY)"や"ニオッド(NIOD)"といったシンプルで機能的なスキンケア商品を展開するカナダのヴィーガン・スキンケアメーカー、"デシエム(DECIEM)"

"Bye-bye Black Friday, hello Slowvember. 🐢💛"

と同社のインスタグラムアカウント内にコメントを出し、企業がこぞって消費者を扇動し、ブラックフライデーに購買させようとする動きに対し、ブラックフライデーをボイコットする"Slowvember"キャンペーンを打ち出しました。

2013年に設立され、オンライン販売のD2Cブランドからスタートしたデシエムは、アメリカでも人気があり、メイクアップ、ヘアケアなどのビューティ商品を扱うセフォラ(Sephora)でも商品が販売されています。
ニューヨークのマンハッタンにも直営店を6店舗展開する人気ブランド。現在はエスティー・ローダーグループの傘下にあります。

ウェブサイトで自らの存在を、「アブノーマルなビューティカンパニー、謙虚でハッピーなスキンケアブランドたちの傘(アンブレラ)です」と紹介しているように、今までの化粧品ブランドとは一線を画した独自の路線を走っています。ラボクオリティのスキンケア成分をフィーチャーし、原材料をそのまま商品名にした商品展開や広告やパッケージにコストをかけず、顧客に対して透明性を持ち、真摯に本当に良いものを提供するという哲学を持っています。
お財布に優しく、例えばジ・オーディナリーでは日本円で500円~3000円ほどで、リピートしやすい価格帯も支持を受けている理由の一つです。

今回のキャンペーン、"Slowvember"とは、"11月(Novemver)"と"slow"の造語です。

このキャンペーンでは11月の1か月間に渡り、同社の傘下のスキンケアブランド、全ての商品が23%オフになり、この1か月の期間に新しい商品と出会ったり、本当に必要なものを考えたりする時間をお客様にゆっくりとって欲しいと考えに基づいて展開されました。

私が11月23日に受け取った同キャンペーンを告知するメールには
― "You may have heard that on November 26, 2021 (formerly known as ‘Black Friday’), our 23% saving will be paused for a day of conscious slowness. In previous years, we’ve closed our store on this date for a moment of nothingness. 

(お聞き及びかもしれませんが、以前はブラックフライデーと知られている2021年11月26日、意識的なゆっくりの日として私たちの23%オフは一時停止されます。前年は"無"の機会としてこの日にお店を休業しました。"
と書かれており、デシエム社が彼らの商品および彼ら自身とお客様との関係性や、「ブラックフライデー」が内包する有害性、「消費すること」の意味についての同社のスタンスが宣言されていました。

この1か月間に渡る23%オフのセールスイベントに加え、11月はDECIEMの顧客がスローで充実した時間を送れるよう、フラワーアレンジメント、水彩画、ライブミュージックと詩、といったラインナップで無料の対面式ワークショップをカナダのトロント、ロンドン、ニューヨーク、オーストラリアのシドニー、韓国などで開催していました。オンラインだけでなく、オフラインの物理的な顧客とのタッチポイントでもこれらのイベントを開催していることからも、お客様との関係性に向き合い、ゆったりとその時間を楽しむ機会をお客様に持ってほしいという姿勢が伝わってきます。

パタゴニア(Patagonia)

さて、ブラックフライデーのボイコットを宣言した企業はデシエムだけではありません。ブラックフライデーやサイバーマンデーのセールを行わないことを先駆けてアクションしてきたアンチ・ブラックフライデーの老舗、パタゴニア(Patagonia)は同社のツイッターアカウントに寄せられた顧客からのブラックフライデーについての問い合わせに対して、

―"Hi Michael! We will not be participating in Black Friday or Cyber Monday. Instead, we're encouraging everyone to give their old and unused items a new life. Feel free to check out our Worn Wear site which features our gently used gear!

(マイケルさん、こんにちは。私たちはブラックフライデーやサイバーマンデーには参加しません。代わりに、皆さんに古くなったり、使わなくなったアイテムに新しい命をあげることを奨励しています。よかったら丁寧に使用された中古品を紹介している私たちの着古しサイトをチェックしてみてください)"

と回答コメントをツイートしました。

新たな消費のみにフォーカスするのではなく、既に使っているものや使わなくなったものにも焦点をあて、できる限りそのプロダクトの価値がある限り、大切に使い、扱うことを訴えています。

ミール (MiiR)

他にも、ワシントン州シアトルに本社拠点を置く、ステンレスボトルメーカーのミール(MiiR)ではブラックフライデー当日に購入した同社商品の売り上げの全てを、安全な飲み水を提供する活動を国際的に行っている非営利活動法人チャリティ・ウォーター

Charity:waterinstagram.com/charitywater/)に寄付することを同社のウェブサイトやインスタグラムなどのソーシャルメディアアカウントを通じて発表していました。
ミールのプロダクトは全て、最小限、持続可能、機能的、かつ耐用性を兼ね備えたデザインがコンセプトとなっており、自社を"a design forward and generosity driven drinkware company with a social and environmental mission(社会と環境のミッションを持ったデザイン・フォワードで寛容さ主導のドリンクウェア会社です。)"と説明しています。

こうした、アンチ・ブラックフライデーに始まる大量消費主義への抵抗は、2012年にニューヨークの慈善団体92nd Street Yと国連基金が始め、アメリカ合衆国の感謝祭後の火曜日に国際的な「寄付の日」を設け、ブラックフライデーやサイバーマンデーの商業活動と消費者主義に対抗するようという社会的なムーブメントの"ギビングチューズデー"が定着しつつあり、今年もディズニー社が12月31日までに購入された全てのディズニーの本に対して、本や教育関連のリソースを必要な人に届ける活動をしている非営利団体ファーストブックに本を寄付する活動や、ケンタッキーフライドチキンがギビングチューズデーに購入されたチキンサンドイッチ一つ毎に、飢饉撲滅の活動を行うブレッシングス・イン・ア・バックパック(Blessings in a Backpack)に1ドルの寄付を行う活動を行いました。

他にもFacebookを展開するメタ社などを筆頭に様々な企業が今年もギビングチューズデーに参加していますが、こうしたギビングチューズデーの機会が大企業による大量消費主義の罪悪感をこの時だけ一時的にリセットし、そのイメージをカバーするような機会になってしまわないことを願うばかりです。

そうなったとしても、消費者の目には明らかかもしれません。


今回ご紹介した3社のように大量消費主義を前提としたリニアなビジネス視座や、モノを売る、買うという企業と顧客との限定的な関係性に囚われることなく、真摯にお客様や社会と向き合い続け、透明性を持ってメッセージを発し続ける企業が存在感を増していくでしょう。

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Aya Kubosumi ノマドマーケター

コニカミノルタ、大阪ガスで行動観察やユーザーリサーチに携わったのち、GOB Incubation Partnersを創業。夫の突然の転職に伴い、東京から3歳の娘と夫とともにNY(ニュージャージー)に移住。ノマドマーケターとして、NYの人々、もの、こと、を日々観察、体験したことを素材に、日本の商品開発マーケターの皆さんと共有したいインサイトを綴ります。

s.budo