NYノマド第6回:新民泊サービス、ライドシェアサービス事情にみるシェアリングエコノミー成功要因(後編)

19.06.13 11:48 AM By s.budo

前編で、マリオット会員というアセットを活用した新民泊サービスをイントロに、ライドシェアサービスの市場を概観しましたが、いよいよ後編では、主要なプレイヤー3社のマーケットシェア、特徴、また同乗体験による比較検証を交えつつ、シェアビジネスの課題の考察してみました。

主なニューヨークのライドシェアサービス:Uber、Lyft、そしてVia

こちらニューヨークではライドシェアはメジャーかつ欠かせない交通手段の一つとなっていますが、こちらでのライドシェアサービスがなぜこのように拡大しているのか、逆に日本ではなぜマーケットがなかなか発展しないのかについて検討してみたいと思います。始めに、ニューヨークでメジャーなUber、Lyft、そして最近地下鉄などに広告を積極的に出しているViaについて、簡単にサービス概要やその違いをまとめ、その上で、私や友人の利用経験も交えて紐解いてみたいと思います。
Uber、Lyft、Via3社の概要やマーケットシェアを下記の図にまとめてみました。NYCではUberが圧倒的なシェアを持ち、次いでLyftが対抗馬、少し異なる乗り合いバンサービスを提供するViaとなります。他にも、Juno(https://gojuno.com/)など、いくつかライドシェアサービスを提供するベンチャー企業が存在し、NYCでのライドシェアマーケットはまだまだ伸びしろが大きいと言えそうです。私自身もこちらに来てからUberとLyftは両方のアプリをスマートフォンに落とし、かれこれ30回~40回は利用していますが、周りの日本人の友人、知人、特に車を運転しないママ達には日ごろの足として重要な存在となっているようです。利用した経験も踏まえてライドシェアのユーザーのメリットや価値をあげるとすると、


  1. タクシーをつかまえたり、電話をかけて呼んだりする必要がなく、アプリで比較的待ち時間少なく確実に配車可能(NYCでは稼働車数が多いため、日本のタクシー配車アプリのように、"周囲に配車可能なタクシーがありません"といったがっかり体験をすることは今まで一度もありません)。
  2. 事前に料金と想定乗車時間、到着時間、そしてドライバーが誰なのか、どの程度の評価のドライバーなのか(ドライバーは5点満点でユーザーから評価され公開されます、Uberの場合はユーザーも5点満点で評価されます)を把握することができるため、不安感や不信感が軽減される。
  3. 乗車料金とチップの支払いは登録したクレジットカードから自動引き落としとなるため、キャッシュレスで乗車可能、メーターがあがってお金が足りない!と焦る必要がない。
  4. 乗降地をマップ上で指定できる(Viaはバンの最終目的地までのルート内での乗降地指定となる)ため、ドライバーに行先を伝える必要がない、地理に詳しくなくても、英語が堪能でなくとも、地図上でオーダーすればOKという手軽さ、気軽さ、心理的負担の少なさ。
  5. ドライバーは自分が所有する車でライドシェアサービスを提供するので、比較的車がきれいでメンテナンスもされている。タクシーの商用車よりも身近でリラックス感がある。

といった点があります。乗車料金はその時々で変動するため、一概にライドシェアが最も安い!とは言えないため、価格競争力はそこまで感じませんが、ユーザーのサービス利用動線やプロセスにおいて、サービス利用の検討、情報収集、利用の意思決定、サービス利用の圧倒的な物理的、心理的、快適性が存在すると言えそうです。イエローキャブの稼働台数がUberを下回ったのもうなづけます。逆に、ライドシェアサービスを提供する各社のサービス内容に大きな違いがないため、サービスや提供価値の差別化にはまだまだ余地があると言えそうです。

車内に忘れ物をしてしまった!、カスタマーサービス、窓口対応の良さが光るLyft

ええ、何を隠そう、お恥ずかしいですが、こちらでライドシェアサービスを利用した時に、車内に忘れ物をしたことがあります。子どもと一緒の乗車時に、子どもがお菓子を食べたいというので、リュックから出そうとごそごそしているときにおもちゃを車内に落としてきてしまったようで、帰宅後に娘のおもちゃがリュックにないのに気が付きました。恐らく、行きのUberか、帰りのLyftどちらかの車内だろうと思い出し、それぞれの紛失、忘れ物の連絡先を探し、ダメもとで連絡してみることにしました。Uber、Lyftともに利用したトリップ(乗車記録)をアプリ内で指定し、問い合わせたい内容を選択して問い合わせる形式になっていました(写真)。それぞれ、紛失物の問い合わせを進めてみると、Uberはドライバーが電話番号のコンタクト先を提供している場合はそこに自分で連絡して確認してくださいという対応でした。しかしながら、ドライバーは恐らく、普段、運転しているでしょうから、電話をかけても全く出ません。それ以上やりようがなく、Uberでの問い合わせは諦めました。翻ってLyftでは、紛失の問い合わせをドライバーにしたいとアプリからリクエストすると、なんとすぐに私の携帯電話のテキストメッセージにLyftの担当者から返信が来て、ドライバーにコンタクトして紛失物の有無を確認してくれると連絡してくれました。なんという安心感&自分がドライバーに電話をかけて聞かなくてもよい手間省け感でしょう。しかも、テキストメッセージであれば、記録が残りますし、聞き取りづらい電話で英語で話さなくて済むのも大助かりです。その後も、ドライバーにコンタクトしているが、まだドライバーからの応答がないという経過の連絡をくれたりとなかなかまめな対応を展開してくれました。結局、紛失物はなかったことをドライバーに確認したという連絡をもらい、断念&終了というかたちになりましたが、紛失物がなかなか見つからなかったり、自己責任でなんでもやらなければならないアメリカ社会では、かなり心強く感じたカスタマーサービスでした。

写真:Uberのアプリ内の紛失問い合わせ画面

ドライバーの横顔ー移民で支えられるライドシェア

何度かライドシェアサービスを利用していると、タクシーのようにドライバーと他愛もない会話することが多々あります。その会話の中で、どこの国の出身か、国籍はとよくこちらが聞かれるので、こちらも聞き返したりしますが、ドライバーをしている人はほとんどが移民です。そしてほとんどが男性です。インド、パキスタン、コスタリカ、カンボジア、中国、韓国、東欧、南米など、様々な国からの移民の人で、ニューヨーク生まれ、ニューヨーク育ちというライドシェアのドライバーに私は出会ったことがありません(もちろん、中にはいらっしゃると思いますが)。そして、本業の仕事としてドライバー業を営んでいたり、本業の傍ら、副業としてドライバーで副収入を得ているようです。そして、多くのドライバーが、Uberだけ、Lyftだけというようにどちらか一方のドライバーをしているのではなく、両方のドライバーとして登録し、両方のアプリとサービスを使い分けながら、多くのライドシェアを提供できるように工夫してお金を稼ごうとしているようです。中には車内に複数のスマホを設置し、Uber用、Lyft用の端末をそれぞれ巧みに操り、顧客獲得をしているようなドライバーもいました。アメリカの軍隊も移民で支えられているといわれていますが、ライドシェアサービスもこうした移民の人々の労働力で成立しているマーケットなのです。特にライドシェアサービスにおいては、通常アメリカ国内で働くために必要な労働許可(ワークパーミッション)がグレーでも、ドライバー登録はできたりしますので、労働許可が必要なアルバイト、パート、正規雇用以外に、手軽かつ簡単に始められる仕事の手段、方法および貴重な生活の収入源として重宝されているという側面があります。同時に課題も徐々に発露しつつあります。バックグラウンドチェックは、アメリカ国内にあるデータや履歴のみが参照されるため、アメリカ国外での犯罪歴や違犯歴などがある外国籍の移民のドライバーが問題視されるという事態も起き始めています(例えば、https://www.cnn.com/2019/05/14/business/uber-driver-accused-war-criminal-invs/index.htmlなど)。
こうした現状を鑑みると、日本ではタクシー業界の反発も一つの阻害要因ではありますが、兎にも角にもシェアライドを提供したいと考えるドライバーがほとんどいないというのが、マーケットがアメリカなどと比較して拡大しない大きな要因と私はみています。

ドライバーの確保、満足度向上に動く各社

ドライバーなくして、ライドシェアサービスは成立しません。利用ユーザーを増やすにも、サービスのマーケットシェアを拡大するにも、ドライバー数の拡大が必須となります。しかしながら、彼らは個人コントラクターとして、稼いだ分しかもらえず、労働環境も過酷だとして、ドライバーを辞めてしまったり、UberやLyftに対して抗議や異議申し立てをするケースも増えてきているようです。そのため、各社ドライバーに対するサービスの拡充にも力を入れ始めています。前述の表にも記載したように、例えばLyftでは、ドライバーが銀行口座を開設しやすくするようなサポートをしたり(移民で職に就いていない人はやはり銀行口座が開設しづらいという現状があります)、所有する車のメンテナンスや修理を安価に提供するといった、ドライバーにとって魅力的な環境づくりに踏み出しています。顧客に対するサービスデザインや価値のデザインとともに、サービス提供者側のドライバーに対するサービスおよび価値のデザインを同時並行してやらなければならないというのが、シェアリング系サービスの大きな特徴と言えるでしょう。

シェアリングエコノミーにおけるビジネス拡大のキー

マリオットの新民泊サービス、そしてNYCのライドシェアサービスを紹介してきましたが、どちらもやはり、サービス提供者側の確保と、サービス提供者側に対するサービスおよび価値のデザインが、顧客に提供するサービスおよび価値のデザインとともに重要だということが見えてきます。プラットフォームさえ作れば、あとはユーザーも、サービスの提供側も乗っかってくれるという安易なものではありません。シェアリングエコノミー系のビジネスでは、顧客のみならず、サービス提供者側の実態把握や理解のためのリサーチが求められます。そして、彼らが何を求めていて、何を提供し、どのような関係性を結べば、彼らはこのビジネスに提供者側のプレイヤーとして参加し、し続けてくれるのかを、その社会構造や背景、文化なども踏まえて真剣に検討する必要があります。
日本ではどうでしょうか。ライドシェアサービスを展開するには、どんな人が提供者側のドライバーになりうるでしょうか。そしてその人はどんな価値を享受すれば、ドライバーとして関係性を続けてくれるでしょうか。移民の受け入れを拡大する施策を始めているとは言いつつも、ある程度のプロフェッショナルや業界に限定したビザ発給にとどまる日本に移民が爆発的に増えるということはすぐには難しそうですので、それ以外の選択肢を考えねばなりませんね。ぜひ皆さんも、日本の社会構造や背景、文化などを踏まえて考えてみると、よいマーケティング脳トレーニングになると思います!
それではまた次号でお会いしましょう。

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ビジネス、公的な活動問わず、アメリカのこれらの事例から何かのヒントがお届けできれば幸いです。みなさんからのコラムに関するご質問や、こんなことを聞いてみたい、知りたい!というリクエスト、叱咤激励などなど、24時間365日お待ちしております。ではまた次回コラムでお会いしましょう。

Columnist
Aya Kubosumi ノマドマーケター

コニカミノルタ、大阪ガスで行動観察やユーザーリサーチに携わったのち、GOB Incubation Partnersを創業。夫の突然の転職に伴い、東京から3歳の娘と夫とともにNY(ニュージャージー)に移住。ノマドマーケターとして、NYの人々、もの、こと、を日々観察、体験したことを素材に、日本の商品開発マーケターの皆さんと共有したいインサイトを綴ります。

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