NYノマド 第8回:攻めるオンラインビジネス企業 〜顧客に響くデジタルとフィジカルな空間と経験(最終章)

19.09.10 05:54 PM By s.budo

さて、最終章では、Amazon Go店舗のサービスデザインの総括、そして、二章でご紹介したDirty LemonによるDrug Store体験も踏まえ、オンラインリテーラーたちが今なぜ、実店舗を仕掛けているのかについて、未来の店舗について思考を巡らせてみたいと思います。

徹底的な効率化と緻密な顧客カスタマイズの賜物

今回のAmazon Goの来店で実感したのは、特にこのニューヨークのAmazon Go店舗は、合理性、効率性を重視するニューヨークのビジネスマン、ビジネスウーマンに徹底的に特化した店舗デザイン、商品ラインナップを提供している点です。

逆に言えば、それ以外の人にとっては、何度も訪問するようなお店ではないかもしれません。

事実、たくさんの買い物には向いていませんし、スマホがないと買い物ができないため、年配者やスマホを持っていない人を排除するという批判もたくさんあるようです。

しかしながら、Amazon Goにはありとあらゆる全ての人に来てもらうことは最初から想定していないのでしょう。

アメリカのショッパー・マーケティングの第一人者の著書を紹介したウェブ記事にこんな記述があります。
”精算データを分析した結果、米国での1回の買い物における最も一般的な購入品数はなんと1品だったのです。しかも、買い物客の半数の購入商品数は5個以下であり、まとめ買いの買い物客は意外と少ないことが分かりました。
(中略)上記の事実に気がついているスーパーは意外と少なく、店舗設計が「まとめ買い」向けにデザインされた物が多いそうです。”

単品購入や5個以下の購入をする買い物客の数が最も多いということを元に、顧客にとってもロス時間がなく効率的にショッピングができる、かつ、"滞在時間もミニマム、でも来店頻度を増やすショッピングのデザイン"を徹底的に具現化しているといえるのではないでしょうか。


さすが、Amazon、データに基づいて、次の手、次の手をどんどん繰り出してきますね。

(写真:Whole Foods店舗で販売されているミールキット、日曜午後4時くらいの撮影でしたが、かなり売れているようすです、写真筆者撮影)

アメリカだけでなく、日本でもすでに2018年からスタートしていますが、AmazonはAmazon Freshでミールキットをオンラインで販売していますが、最近近所のWhole Foodsに買い物に行ったところ、なんと、Whole FoodsでもAmazonミールキットの店舗販売が始まっていました(写真)。


オンライン、オフラインの境界なく、顧客から必要とされている商品、サービスを、必要とされている時空間に提供するという、オンラインリテーラーの王様として君臨するAmazonの哲学や目指す未来が透けて見えてきます。



あなたのニーズに先んじて、目の前に利便性を提示、提供してくれるAmazonは日々の生活の動線のあらゆるショッピングの効率化を目指して、オンラインと物理的店舗の両方で、新しいショッピング体験、動線、商品サービスを革新し続けており、そこから、Amazon Goのような新しいショッピング文化が生まれ、革新的なショッピング体験のストーリーが顧客に共有され、さらなる購買や顧客増加を推し進めていくのでしょう。

妄想的考察 〜なぜ、今、物理的な店舗なのか、そして未来の店舗はどうなってゆくのか

Drug Store by Dirty LemonAmazon Goの物理的店舗でのショッピング体験レポートをご紹介してまいりましたが、この2店舗の体験をもとに、最後に未来の店舗につながるキーワードについて考えてみたいと思います。

今回、私が興味深く思った点は、オンラインショッピングを軸にした両企業が、異なる目的やデザインではありますが、ショッピング方法や動線をターゲットに合わせて徹底的にカスタマイズ、効率化している点、そして物理的店舗に投資をして展開しているという点です。

モールやお店に行ってショッピング自体を楽しむ余暇型ショッピングでは売り上げを維持しづらく、オンライン上に無数に存在するオンラインショッピング店にこの余暇型ショッピングが代替されつつある状況の中、であえて物理的店舗を作り、展開する理由はなんでしょうか。それは何を意味しているのでしょうか?


オンライン店舗だけではなかなか難しいもの、

それは、

顧客とともに作るストーリー、体験、そして、継続的な関係性構築 なのではないかと考えます。

Drug Storeでは、インスタ映えするデザインや無人店舗というイノベーティブで話題性のある店舗を作り、顧客がシェアしたくなるストーリーや体験の提供をしています。

近年では、このDirty Lemonのとっている戦略はビジュアルマーチャンダイジングと呼ばれ、より重要視されるようになっています。

ビジュアルマーチャンダイジングを軸に、新たな顧客層との接点の獲得と、イノベーティブでスタイリッシュな健康ドリンクを購入するライフスタイル自体の提供拡大を図るとともに、顧客はストーリーと体験を通じてDirty Lemonとの関係性が構築され、強化していこうとしているのでしょう。

Amazon Goでは、ある特定のターゲット顧客の動線に、徹底的に効率的かつ革新的なショッピング機会を先んじて提案、提供し続けています。
次から次へと生まれる新たなショッピング体験と文化は顧客が周囲と共有したいストーリーを生成し続け、緻密に生活動線内に埋め込まれたショッピング機会は顧客にとってAmazonがオンライン、オフライン問わず必要不可欠な存在となっていきます。


もはや、単に物理的店舗の商品をオンラインで販売するだけ、オンラインで販売していた商品を物理的店舗で売るだけ、では顧客は継続して来店、購買してくれません。
アメリカでは、デパート小売りチェーンのKohl'sが、各店舗でAmazon商品の返品手続き(パッキングと返品配送)を無料で行うサービスを始めています。
従来の物理的店舗として営業しているだけでは顧客が来てくれなくなり、その打開策として顧客の手間を肩代わりするサービスを提供することで顧客の生活動線にタッチポイントや関係性を作ろうという意図なのでしょう。
このように継続的なタッチポイントや関係性づくりの努力をオンライン、オフライン問わずにし続けられる店舗は未来にも必要な要素と考えます。そしてそのためにはDirty LemonやAmazon Goのように顧客を引き付け続ける、革新的な体験と共有したくなるストーリーの提供が特にミレニアル世代以降の未来の顧客に求められる要素になっていくのではないでしょうか。



第8回のNYコラムはいかがでしたでしょうか?


また、ニューヨークで未来を感じるビジネスやお店ができましたら、皆さんにぜひシェアさせていただきたいと思います!

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columnist
Aya Kubosumi ノマドマーケター


コニカミノルタ、大阪ガスで行動観察やユーザーリサーチに携わったのち、GOB Incubation Partnersを創業。夫の突然の転職に伴い、東京から3歳の娘と夫とともにNY(ニュージャージー)に移住。ノマドマーケターとして、NYの人々、もの、こと、を日々観察、体験したことを素材に、日本の商品開発マーケターの皆さんと共有したいインサイトを綴ります。

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