DX番外編_リアルなトランスフォーメーション

20.11.06 10:33 AM By s.budo

Serendipity 予想外の発見 !


じっと耐える理美容店

記録によれば、理容は、エジプトから始まりギリシア時代にヨーロッパで理容業がスタートし現在に至るという、様々な職業の中でも世紀を超えて連綿と続いています。その理美容店が、コロナ禍の状況下苦境に立たされています。帝国データバンクの2020/5/20のリリースでは、「新型コロナウイルスの影響による消費者の外出自粛の広がりで、来店客数・客単価の減少や、来店サイクルの長期化が見込まれる。低調な消費が続く状況下、これまで営業を見合わせていた店舗の閉店や廃業を選択する事業者も増えてくるだろう。」と報じています。


私が月に一度通う美容店も例外ではなく、4月より客足が鈍り、その後少しづつ回復している様子ですが、いまだ活気は戻らず、日々の感染者数の増減が予約とキャンセルに如実に表れる状況となっています。社会では、これを契機にデジタルシフトの機運が高まっていますが、こと理美容サービスにおいては、AIやロボット等の先端技術を駆使しても変身(トランスフォーム)は、まだまだできそうにはありません。

そんな二進も三進もいかない中、全く想像していなかった、“髪”を楽しむという新しい経験に恵まれました。

“髪”を楽しむという新しい価値


私は、かれこれ10余年、同じ美容店で同じスタイリストさんに担当頂いていますが、毎回、「本日はいかがいたしましょう?」と質問され、“髪にこだわりのない”私は、毎回「(1か月で伸びた髪を)1センチほど切ってください。」と返答していました。同じやりとりが続くこと数年、なぜスタイリストさんは、私が“髪にこだわりのない”のに同じ質問をし続けるのだろうと不思議でした。


その後、年齢とともに白髪が増え、3か月に一度の白髪染めが2か月に一度となり毎月になろうとした頃、私も、これからどうしたものかと考えあぐね、「本日はいかがいたしましょう?」と聞かれたとき、思わず「自身に似合う髪型をしている人はどれぐらいいますか?」と質問しました。すると意外にも「7~8割の人は、似合っていない髪型をされています。もっと相談してくれれば、より良い髪型にできるのに。」とのことでした。
私の“これから”が決まりました「私の髪をスタイリストさんの好きにしてください。」と。そして、私の髪は、ブリーチ(色抜き)され、黒茶色にカラーリングされるという全く予想もしない展開になり、驚きの結果が待っていました。

整髪後にスタイリストさんから何気なく「髪の変化を楽しんでください!」と一言添えられました。最初は、??でしたが、いままでの白髪が増えていく(老け込んでいく)というネガティブな変化が一転、色落ちして茶色が増えていく(若々しくなる)というポジティブな変化が楽しめる様になりました。
デジタル化は効率性を加速させますが、他方、この様なセレンディピティ(serendipity:素敵な偶然に出会ったり、予想外のものを発見すること)は、リアルならではの経験だと思い知りました。

リアルとネットで明暗を分ける衣料品店

コロナ禍で百貨店、専門店への客足が鈍る中、eコマースの衣料品販売が好調です。もっとも、そこにはリアルとネットという購入場所(方法)の特徴だけではない、より質的変化がある様に思われます。

私の事務所の近くに、3坪ほどの小さなカジュアル衣料品店があります。お店は人通りの少ない道路沿いにあり、お客さんが入っている様子はあまりなく、どうやってやりくりしているのか不思議でした。品揃えはアメリカンカジュアルが中心で、(失礼ながら)小さいお店にもかかわらず、80以上のブランドを取り扱い、価格帯も幅広く、一見する限り顧客層が絞れておらず、販売面、調達面ともにスケールメリットが得られない感があります、が、このお店は、20年前に提唱されたクリック・アンド・モルタル(実店舗と電子商取引を行うオンライン上の店舗の双方を運営することで相乗効果を狙うビジネス手法)の進化系に思われます。

このお店は、実店舗よりもネットショップの顧客が多いことを利して、実店舗のみでは不可能なブランド数と価格帯の衣料品をラインナップし、同時に実店舗を運営していることによる安心感と存在感を放っています。

お店と顧客の新しい関係

新たな可能性はショップの形態に留まりません。むしろ顧客との関係性がより本質的かもしれません。

今日、商品販売局面では、「衝動買い」や「ついで買い」を誘発する様々なマーケティング手法が駆使されていますが、ネットでは1点のみを「目的買い」する顧客が増えており、顧客単価のアップを誘発する配送料無料の特典等によるクロスセルは通じなくなってきています。
このお店では、顧客単価よりも購入頻度のアップにつながる顧客中心のマーケティングを展開しています。
 ●商品が届いたあとにがっかりしない様に、衣料品の画像は敢えて素っ気ないものを採用 
 ●ネットでの購入データをもとに既存顧客をイメージした商品の仕入れ
 ●ソーシャルメディアを通じた顧客からのフィードバック
 ●販売以上に、顧客ニーズの把握、顧客とのコミュニケーションを重視した実店舗の運営

衣料品メーカーとの取引関係のしがらみが無く、ネット利用者という巨大な市場を相手にネットショップを軸足にしつつ、実店舗も運営することで今までにない顧客層を見出し、一人ひとりの顧客にニッチなブランド商品を提供する新しいバリューチェーンと言えます。

s.budo