NYノマド:第1回 NYのホリデーシーズンと白熱するショッピング戦争_ part.2

19.02.05 06:28 PM By s.budo

人の感情と理性にささるマーケティング ノマドマーケター at NY

わかっていてもひっかかる2つのキーワード


バレンタイン商戦も終盤を迎え、日本ではどんなマーケティングが展開されているのでしょうか?
ややブームに陰りの見える感のあるバレンタインですが、「NYのホリデーシーズンと白熱するショッピング戦争」を現場体験した私としては、日本のマーケターが駆使する新たな戦略にも大いに関心があります。
さて、part.1では、「ブラックフライデーとサイバーマンデーの本場に見る、これでもかプロモーション」にまんまとひっかかった私のエピソードをご紹介させていただきましたが、part.2では、ひっかかった2つのキーワード(理由)をお話させていただきます。
※part.1は、こちらのページをご参照ください。


"人間は利得よりも損失の方が2倍強く感じる"         


1つ目のキーワードは行動経済学です。これらのマーケティング戦略にはダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーによって提唱された理論である"損失回避性 "が巧みに利用されています。

損失回避性とは、 

"人間は利得よりも損失の方が2倍強く感じる"         

という人間の心理傾向です。 
※『ファスト&スロー(上・下)』ダニエル・カーネマン[著],村井章子[訳],早川書房,2012年 

私の場合、「今私のメルアドを登録しなければ、15%オフで買えなくなってしまうかもしれない!しかもこの特典、48時間以内にきえちゃうー!」「◯◯時間後のサイバーマンデーセール終了までに決めないと、60%オフの機会を失っちゃう!」「せっかく20%オフクーポンがあるんだから、使わなくっちゃもったいない」という損失回避性の行動をとるよう、これらのオンラインマーケティングやクーポンに促されてしまったわけです。

もちろん、日本でも同様の取り組みはありますが、アメリカではこれら損失回避性を煽る文言や条件がかなりあからさまに、そして明確に表記されているように感じます。「初回メールアドレス登録で、48時間以内の条件で、15%オフです」というのは、48時間以内の条件がかなりメール登録の行動を後押しします。ここでは、最終目的は顧客に購買してもらうこと、ですが、主目的は顧客とのタッチポイントを獲得すること、に置かれているのです。顧客が関心を持って、自社のオンラインショッピングサイトにアクセスしてくれたとなれば、定期的にその顧客とコミュニケーションできる、プロモーションメールなどの情報を送れるメールアドレスをゲットし、またリーチアウトすればよいのです。メールでのオンラインプロモーションはアメリカではデジタルマーケティングトレンドの中でも以前廃れていない手法であり、むしろ、さらに顧客ごとにカスタマイゼーションがなされ、より親密なコミュニケーションを展開するツールとして不動の地位を獲得しています 。
2019年のデジタルマーケティングのトレンドを紹介しているウェブ記事でもAIとともにメールでのプロモーションは、未だトレンドの一つとして取り上げられています。

今だけ、ここだけ、あなただけ -具体的かつ時限的な特権の提示


2つ目のキーワードは低コンテクストです。アメリカはご存知の通り、移民の国です。様々な人種、国籍の人が集まってできている国です。自分から声をあげたり、話したりしないと、存在すら認めてもらえません。渡米前に私が試してみた英会話レッスンでは、「君の意見は分かるけど、その意見を支持するような、もっと具体的な経験や事例を必ず2つ、3つは説明しないとわからないからね!」と口すっぱく言われたことを思い出します。ほぼ同じ国民からなり、様々な文化や前提を共有している日本と異なり、とにかく、明確に、具体的に、顧客にとってどんなよい特権が獲得できるのかのメッセージを送らなければなりません。その結果、クーポンの具体的な金額や期限の条件が明記され、日本人である私も行動してしまったように、より顧客の損失回避性に基づく行動を促すのではないでしょうか。 


公共サービスにも浸透する”見える化”戦略       


ビジネスだけではありません。パブリックライブラリー(町の図書館)で本を借りたときにも、そのレシートにこんな記載がされていました。「You just saved $120.00 by using your library.」 


なんと、図書館が本を借りることで、セーブできた金額を教えてくれるとは。   ここに2つ目のキーワードの低コンテクストゆえの”見える化”戦略がビジネスだけでなく、公共サービスにも浸透していることが垣間見えます。図書館のサービスがあなたにこれだけベネフィットを提供していますよというメッセージをシンプルかつ明確にレシートに記載することで、公共サービスがどんなプラスの価値やインパクトを生み出しているのかを直接市民に伝えているわけです。


政府や役所などの公的機関は国民や住民への公共サービスを提供することが使命であるわけですが、いかに適切に予算を配分するか、コストを抑えるかが中心です。しかしながら、この図書館レシートのように、いかに今ある資産がいかに活用されているか、そして公共サービスがどんなプラスの価値やインパクトを直接的にあなたに生み出しているのかを見える化し、よりオープンに住民と共有することで、市民の公共サービスへの関心を醸成するとともに、ポジティブな評価獲得に繋がっていくように思います。そしてこういった取り組みが健全かつオープンな市民の議論を生み出すのかもしれないなと感じながら、しげしげとレシートを見つめる私でした。

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ビジネス、公的な活動問わず、アメリカのこれらの事例から何かのヒントがお届けできれば幸いです。みなさんからのコラムに関するご質問や、こんなことを聞いてみたい、知りたい!というリクエスト、叱咤激励などなど、24時間365日お待ちしております。ではまた次回またコラムでお会いしましょう。

Columnist

Aya Kubosumi ノマドマーケター


コニカミノルタ、大阪ガスで行動観察やユーザーリサーチに携わったのち、GOB Incubation Partnersを創業。夫の突然の転職に伴い、東京から3歳の娘と夫とともにNY(ニュージャージー)に移住。ノマドマーケターとして、NYの人々、もの、こと、を日々観察、体験したことを素材に、日本の商品開発マーケターの皆さんと共有したいインサイトを綴ります。 

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