NYノマド 第31回 米リテイル業界をドライブする体験型キュレーション店舗ビジネスとRaaS   プロローグ

21.08.10 02:14 PM By s.budo

みなさん、こんにちは。

日本では東京オリンピックが開催され、メディアの報道もオリンピック一色となっているようですね。


今回のコラムでは、ニューヨークで存在感を高めつつあるキュレーションしたブランドや製品を展示販売し、新たな顧客獲得やブランディング構築を図ることを支援する場やイベントを提供する体験型展示店舗ビジネスをふんだんな写真でご紹介し、アメリカのリテイル業界に起きつつある変化や最新トレンドについて紐解いてみたいと思います。


初回のプロローグでは、アメリカでの東京オリンピックのメディア報道、活況を取り戻しつつあるニューヨークをご紹介させていただきます。

  • プロローグ アメリカでの東京オリンピックのメディア報道
  • Part1. 興隆するD2C(消費者への直接販売)ブランドをターゲットにした体験型展示店舗とRaaS、コンシャスな消費とそれを体現するブランドを共に育てる場 ―ネイキッド
  • Part2. ネイキッドのコンセプトが生まれた背景
  • Part3. ネイキッドの対抗馬 ―D2Cブランド、アートが集う世界一おもしろいお店、ショーフィールズ
  • Part4. 新興RaaS企業からのメッセージ ―RaaSと物理的店舗の意義

アメリカでの東京オリンピックのメディア報道

アメリカではニューヨークのロックフェラーセンターに本社を構えるNBCが東京オリンピックの放送権を獲得しており、テレビやストリーミングサービスを通じてオリンピックの様子を配信しています

開催国ではないアメリカでは、NBC以外のメディアはニュースなどでオリンピック関連のニュースを取り上げてはいるものの、日本のメディアのように熱狂しているように感じません。

アメリカ選手やチームの話題とともに、各国から参加し、メダルを獲得した選手やチームの報道が中心で、選手村の様子などを事細かにレポートするニュースは少ないように感じます。


私もアメリカでどのようにオリンピックが放映されているのかに興味があり、NBCが放映したオープニングセレモニーをNBCのウェブサイトで観てみましたが、キャスターがセレモニー後に今回のセレモニーの感想について、印象的だったシーンはドローンを眺めながら、イマジンを歌った場面と話していました。

皆さんにとって印象的だった場面はどこでしょうか。


アメリカメディアの報道では、特に前回のリオオリンピックで4つの金メダルと銅メダル1つを獲得している女子体操のシモーン・バイルズ選手が体操女子団体決勝を途中棄権を7月28日に発表したことが大きく報道されていました。


その翌日の7月29日、たまたまテレビをつけるとNBC系列局のUSAで東京オリンピックの様子を放送していました。

その放送中にナイキのテレビコマーシャルをみかけました。

場面は誰もいないプレスルーム、登場する人は誰もいません。しばらくするとナレーションが入ります。そして、"Tomorrow, We Will Respect Mental Health(明日、私たちはメンタルヘルスに敬意を表します。)"で締めくくられる30秒の短いものです。

画像:https://ispot.tv/a/O8Myよりスクリーンショット画像を引用

シモーン・バイルズ選手、そしてメンタルヘルスを理由に全仏オープンでの記者会見を拒否したテニスの大坂なおみ選手を筆頭としたアスリートたち、そして私たちに対してもメンタルヘルスをネガティブに捉えることから脱却し、ポジティブかつオープンに語ることを問題提起するコマーシャルなのでしょう。


とても印象的なコマーシャルだったのですが、なぜか、ナイキのウェブサイトやソーシャルメディアアカウントでこのコマーシャルを探すことができず、その後はこのコマーシャルにテレビで遭遇することもありませんでした。

ミステリアスのアこのコマーシャル、どの時点で制作されていたのかは分かりかねますが、このタイミングで放映し、アスリートのメンタルヘルス問題を擁護し、支援する姿勢はとても印象的でした。


日本のスポンサー企業が現状のオリンピックや選手、日本社会と向き合いながら、スポンサー枠のコマーシャルを放送しているのか、気になっています。

久々のニューヨーク街歩き ―息を吹き返すマンハッタンのローカルビジネス

そしてこちらでは夏休みも中盤に入り、久々にマンハッタンで友人と共に街歩きをしに行きました。用事がなく、ゆっくりと歩くのはしばらくぶりのことでした。


今回はキース・へリング、バンクシー、そして日本人アーティストの松山智一さんなど気鋭のアーティストたちが筆を振るったパブリックアートの壁、バワリーミューラルがあるマンハッタンのソーホー、ノリータエリアを中心に散策し、ユニオンスクウェアを通り、マディソンスクウェアまでゆっくりと街歩きをしました。



マディソンスクウェア付近の様子、写真内の時計はティファニー社製、筆者撮影

ソーホー、ノリータ周辺はアパレルショップやカフェ、レストラン、ギャラリー等が多く集い、またルイ・ヴィトン、シャネル、グッチといった高級ブランドも軒を連ねるファッションエリアでもあります。

日本では東京の表参道といった場所に近いイメージでしょうか。


散策した当日もいくつか高級ブランドショップの前を通りましたが、群を抜いてルイ・ヴィトンショップに人が連なっていました。

現在は予約制の入店でショッピングができるようになっているにもかかわらず、15人ほどは店外に並んで入店を待っている状態でした。


それなりに人通りもあり、レストランやカフェによっては人が多く集う場所もありましたが、まだまだシャッターが閉じられ、テナント募集のサインが掲示されている店舗やこれからオープンする予定の改装中の店舗も多く見かけ、コロナウィルスによるパンデミックからの復興の道半ばであることを感じます。


それでも、道を行き交う人々やカフェや公園に集う人々の様子からは、ようやく戻ってきたニューヨークの日常を楽しむ空気が伝わってきます。

写真:チャイ店の外観、筆者撮影

途中立ち寄ったノリータ地区の東側、リビングトンストリートに面しひっそりと佇むこちらのチャイ専門店「The Hideout Chai Bar」では、シンプルかつミニマムなデコレーションの店内で、冷たいチャイを飲みながら一涼みする談笑するお客さんグループが夏の昼下がりの時間を楽しんでいました。


オーナーのChristopher Brunetさんは地元ニューヨーク出身、チャイに魅了されて2017年にこのカフェを開いたと言います。

定番のマサラチャイを始め、ほうじ茶チャイなど複数のチャイメニューがありますが、全てのチャイは牛乳ではなくオート麦のミルク、オートミルクで作られています。

写真:提供されたチャイと店内、筆者撮影
チャイを注文しながらパンデミックをどのように乗り越えたのかを聴かせてもらいましたが、パンデミック中は営業禁止でお店を開くことができなかったため、チャイをリサイクル可能な瓶に入れてデリバリーするサービスを行って何とか乗り切り、今もデリバリーも続けていると話されていました。

冷たいチャイは店内で飲む場合、デリバリー用より小さめ瓶に入れられ、手渡されました。
ガムラマサラのスパイシーな香りが立ち込める店内で瓶に入れられたチャイを飲みながら、日本の牛乳瓶の宅配を思い起こしていました。


プラスチックのパッケージを使用しない"パッケージフリー"のスタイルは、第22回のコラムでサステナビリティをテーマにしたニューヨークのビジネスをご紹介した中にもあった、The Wally Shop瓶やコンテナーに入れて販売するスタイルと同様のトレンドを思い起こします。

同様に、ソーホー地区のこちらのブティックでは、1着洋服を購入すると木を一本植えますというサインが大きく掲げられていました。

ゴミとなるパッケージを極力減らす、洋服を購買する行動が1本の植樹を生む、こうした消費や購買行動自体にサステナブルな行動を埋め込むこのトレンドは不可逆的なものであることを感じさせられました。



若者が集うトレンド発信基地 ソーホー、ノリータ地区

そして今回の散策の中で私の目をひいたものの一つがこちらのカフェ、カフェ・レオン・ドレ(Café Leon Dore)

写真:カフェ・レオン・ドレに集う人々、筆者撮影
写真:ALDブティック内のようす

まだお昼前の時間帯でお店の前にはたくさんの若者たちが集い、コーヒーなどを片手に談笑していました。

外から店内を眺めると、カフェというよりはアパレルブティックのように見えます。


こちらはニューヨーク、クイーンズ発、主にメンズファッションとインテリアなどを展開するライフスタイルブランド、エメ・レオン・ドレ(Aimé Leon Dore、以下ALD)のカフェ兼ブティックでした。

ニューヨーク、クイーンズ地区のミックスされた様々な異文化をシンプルに表現した自らのストリートブランドを展開するとともに、ニューバランスなど様々なブランドとコラボレーションしたり、ビンテージファッションやインテリアグッズなどをキュレーションしたラインナップはニューヨーカーたちに人気となっています。


こちらノリータにあるカフェ兼フラッグシップ店が唯一の自社実店舗となっておりノリータのお店の前にはカジュアルな中に品の良さを感じさせるファッションを身にまとった少なくとも20人ほどの若者世代が集い、こぢんまりとした店内でも何名かショッピングをしているようすが伺えました。


こちらのカフェ兼ブティックに立ち寄り、店内に滞在しているだけで、シックでクールなニューヨークのライフスタイルを自分が体現しているかのような気分になってしまう不思議な空気感があります。




ブランドの公式インスタグラムアカウントをチェックすると、「Aimé Leon Dore コミュニティ」という表記がされており、インスタグラムの場、もしくは自分たち自身のことを"コミュニティ"と標ぼうしています。

他のハイエンドなファッションブランド、例えば先のルイ・ヴィトンはインスタグラムアカウントでは、「Louis Vuitton The official Instagram account of Louis Vuitton.」と記載されており、ブランドの公式インスタアカウントであることを表明しています。

自らのブランドのインスタアカウントをコミュニティと定義している点はとても興味深く、このブランドに関わる人との関係性を、単に"ブランドとその商品を購買する顧客"に限定せず、コミュニティとして関係性の可能性や余白をもたせています。
商業的な成功のみにフォーカスするのではなく、自分が創りたい世界、好きなものを世の中に出して問う姿勢、そして、売り手と買い手という非対称な関係性に限定しない姿勢は、次世代ブランドのありかたに一石を投じるエッセンスとなりそうです。
画像:エメ・レオン・ドレのInstargramアカウントページ
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Aya Kubosumi ノマドマーケター

コニカミノルタ、大阪ガスで行動観察やユーザーリサーチに携わったのち、GOB Incubation Partnersを創業。夫の突然の転職に伴い、東京から3歳の娘と夫とともにNY(ニュージャージー)に移住。ノマドマーケターとして、NYの人々、もの、こと、を日々観察、体験したことを素材に、日本の商品開発マーケターの皆さんと共有したいインサイトを綴ります。

s.budo