NYノマド 第10回:赤ちゃん出産にみる、アメリカVS日本のサービスデザイン_Part1: ベビーレジストリー編

19.11.07 11:29 AM By s.budo

皆さん、こんにちは。
ニューヨークは日本よりひと足早く紅葉の季節になりました。11月になると雪が降ることもありますので、短い、短い秋の季節です。
私が住むニュージャージー 州では来る冬のインフルエンザに備えて、10月からインフルエンザの予防接種が解禁となります。
病院やクリニックなどの医療機関だけでなく、処方箋薬局を併設するドラッグストアでもインフルエンザの予防接種が可能です。
インフルエンザの予防接種のために医療機関にわざわざ行かなくても良いのは便利ですね。地域によっては、地域のコミュニティーセンターなどで無料ワクチンが摂取できるところもあります。


また、大手ドラッグストアのWalgreensウォルグリーンが自社の処方箋薬局で顧客が購入したインフルエンザ薬剤のデータを元に、Fultrackerという、全米のマップ上にインフルエンザの発生状況を表示したインフルエンザ発症マップを公開しており、このマップ情報も自分が居住する地域のインフルエンザ発症状況を確認できるのでこの冬は重宝しそうです

ハロウィンの季節ということもあり、街もハロウィンのデコレーションやハロウィン関連の商品がひしめき合い、週末はハロウィン関連のイベントが催されたり、とても賑やかです。ハロウィンが終わるともう冬の到来という感じでしょうか。



前回のコラムで、プラントベーストミートを取り上げましたが、ハロウィンのシーンをアメリカ現代社会の風刺画にした画像がローカルコミュニティのFacebookグループでシェアされていました。

こちらです。

子どもたちが「Trick or treat」というフレーズを言いながら、家々を回ってお菓子をもらうというシーンの一コマですが、小さなモンスターやゴーストたちが、それぞれ、

「グルテンフリーのお菓子ある?」

「ビーガンチョコレートある?」

「オーガニックのものだけで!」

「ナッツ食べれないんだけど。」

「ヌガーアレルギーなんだ。」

「乳糖だめなんだけど。」

「キャラメル恐怖症なの。」

「ジェンダーニュートラルのキャンディは?」

(画像引用:http://dietitians-online.blogspot.com/2014/10/october-31-trick-or-treat-for-unicef.htmlより)

と口々に家主に、もらうお菓子について要求しています。
食べ物アレルギーや嗜好に対するアメリカの昨今のフードトレンドを取り巻く状況を表すこの風刺漫画。
実際、お菓子ひとつとっても、選んだり、あげるのにも一苦労です。

アメリカでは日本以上にアレルギーや食べ物の制限、嗜好などへの細かい対応が求められており、例えば、娘の学校では毎日ランチとおやつを自宅から持参しなければなりませんが、おやつは必ずナッツフリー(ナッツが含まれないもの)のものを持ってくるようにと学校から厳しく指示されています。
牛乳アレルギーも多く、スーパーの牛乳コーナーでは日本のように豆乳だけでなく、アーモンド、カシューナッツ、ココナッツ、米(ライスミルク)などの代替乳、Non-diaryの商品がたくさん並んでいます。


かくいう我が家も、10月初めに長男が誕生しましたが、翌週に嘔吐と血便で緊急検査入院となり、検査の結果、その原因がミルクもしくは大豆アレルギーであることが判明しました。新生児消化管アレルギーという病気で、ナッツなどのアナフィラキシーショックなどを引き起こすアレルギーとはまた異なるアレルギーで、アレルゲン物質の摂取後、すぐに反応が出ずに数日から数週間経過してから症状が出たりもするものだそうで、授乳する私も含めて乳製品と大豆製品の喫食が禁止となってしまいました。
チーズやカフェラテ、お豆腐が大好きな私にとって、これらが飲食できないのは辛いですが、仕方ありません。
新生児消化管アレルギーも1995年頃から増えてきたといわれているようで、現代病の一つなのかもしれません。兎にも角にも大事に至らなかったことが幸いでしたが、出産での入院からすぐにまた子どもの入院に付き添って数日間病院に宿泊して過ごす経験をすることとなり、期せずしてアメリカの医療や病院のビジネスやサービスについてどっぷりと浸かる数週間と相成りました。

そこで、今回のコラムでは、今回の出産と子どもの入院で経験した病院のサービスデザインや出産に関わるビジネスについて、私の印象に残ったものを取りあげ、考察してみたいと思います。

豪華なウェルカムボックスをゲットせよ!~ベビーレジストリー

もっと早く知っていればよかった!とユーザーとして思ったのが、ベビーレジストリーです。
ベビーレジストリーとは、出産準備をする際に、入手すべき出産、育児グッズを調べ、リスト化し、リストを夫婦や家族、友人と共有したり、リストから購入することができる、出産準備支援サービスです。
アメリカでは、妊娠すると、出産予定日の4~6週間前にベビーシャワーというイベントを行います。
これから赤ちゃんを迎えるママを家族や親せき、友人たちでお祝いする会です。日本では出産前に出産祝いを送ることは縁起が悪いとされていますが、アメリカではこのベビーシャワーの時に、出産祝いのプレゼントを渡すことが多く、その際、赤ちゃんを迎えるママや家族が、購入予定や欲しいと思っている出産グッズや赤ちゃんグッズをこのベビーレジストリーでリスト化し、招待客に公開、そのリストから招待されたゲストはプレゼントを購入し、当日に渡したり、配送したりするのに使われています。
要らないものをもらうよりは、必要なもの、欲しいと思っているもので、ゲストが自分の許容する金額のものをプレゼントするというのはアメリカらしく、合理的ですね。


さて、このベビーレジストリーは、ベビーグッズを取り扱うbuybuyBABYといった専門店やTargetAmazonといった小売店などが個別にサービスを提供していたり、babylistといったベビーレジストリー専門のサイトなど、様々なプロバイダーがサービスを提供しています。
概ね、ベビーグッズや出産グッズなどの商品情報を提供し、そこから自分専用のベビーレジストリーを作成し、利用するかたちになっています。
合わせて、そのベビーレジストリーで登録した欲しいものリストから購入するとディスカウントが得られたり、リストを作成するとウェルカムボックスという、ベビーグッズのサンプルやクーポンなどの詰め合わせギフトボックスがもらえたりします。
これはこれから出産、育児を控え、何かと入用になる顧客にとっては魅力的なサービスです。

私自身はレジストリーそのものよりも、ウェルカムボックスやディスカウントがもらえることに魅力を感じ、ベビーレジストリーサービスに二つほど登録し、利用してみました。このサービスに気づいたのは出産1か月前で、その前に必要なグッズはほとんど購入してしまっていたので、購入する前に登録しておけばよかったと後悔するくらい、なかなか恩恵の多いサービスでした。


まず一つ目はbabylist、そしてもう一つはAmazonです。
いずれも、たくさんあるベビーレジストリーサービスの中でどれを利用してみようかと悩んだのですが、ウェルカムボックスギフトのレビューがよかったという点で選びました。


ベビーレジストリー専門サイト、babylist

babylistはAmazonで検索し、見つけた商品も簡単にクリッピングし、自分のリストに登録することができます。そして、リストに登録するだけで、無料のギフトボックスがもらえるという使いやすさが光るサイトでした。

しかしながら、Amazonの商品情報がクリッピングできる点から分かるように、自社で取り扱う商品の範囲が狭く、ディスカウントもそこまで大きくないため、実際にこのサイトを通じて商品を購買することはなく、新しい商品を知るという点では役に立ったかなという程度です。


ギフトボックスはこちらです。

写真:babylistでもらえる、無料のHellobabyboxギフト(筆者撮影)

なかなかの大きさがあり、入っていた商品もオムツやおしりふきワイプ、ベビークリームのサンプル、クーポン券だけでなく、実際の哺乳瓶商品2種類、おしゃぶり、おもちゃなど、実際に数ドルから10ドルくらいする商品も含まれています。

これはもらいがいのあるギフトボックスで、なかなか太っ腹だなあと感心してしまいました。

これらの商品を提供した企業からしたら、自社製品を知ってもらうPRとともに、実際に試してもらう機会を獲得でき、広告宣伝、販促費の観点からしても効率的なのでしょう。

巧妙にデザインされたAmazonのベビーレジストリー

続いてAmazonです。
Amazonのプライム会員にもなっており、かつ、取り扱うベビーグッズも幅広いため、実際にベビーグッズを主に購入したのはAmazonでした。
Amazonのベビーレジストリーでは、ベビーレジストリーのリスト作成、35ドル相当のギフトボックス、そして、リストに登録した商品の購入に対し、2回の10%(Amazonプライム会員は15%、ディスカウントの金額が2000ドルまでという条件あり)オフで購入するディスカウントの機会を得ることができます。
しかもディスカウントの対象はベビーグッズだけでなく、洗剤やシャンプーなどのトイレタリー商品も対象に入っています。
ベビーベッドやチャイルドシートといった大物を購入する場合はもちろんのこと、普段あまりディスカウントされることのない商品をまとめ買いする場合にもかなりお得になります。


これはギフトボックスとディスカウントをゲットするしかないと思い、Amazonベビーレジストリー登録をしてみました、が、ギフトボックスとディスカウントをゲットするにはそれなりにお金と時間を投資させられるデザインになっていたのです。

まず、リスト作成するためには、Amazonベビーレジストリーに設定されている、Registry Checklistを全て見て、チェックを入れないとなりません。そしてこのチェックリストから、レジストリーに商品を登録するか、もしくは、個別の商品ページに"Add to Baby Registry"というリンクがあるので、そこから商品を登録するかのいずれかになります。

このチェックリストは、オムツ、バスタイム、洋服などベビー用品、育児グッズが8つのカテゴリーに分かれて紹介されており、この8つのカテゴリーではAmazonが取り扱う商品の中でも、恐らく、スポンサープロダクトが特にフィーチャーされて紹介されています。

つまり、強制的に8つのカテゴリーの商品広告を見させられるのです。

そしてギフトボックスをゲットするには、このベビーレジストリーに登録した商品リストの中から、10ドル以上の購入をする必要があります。

商品を買わせられるわけですね。

ですので、正確には無料のギフトボックスではないですね。
10ドルと育児グッズの広告を見る時間を投資しなければなりません。
そうするとようやくウェルカムボックスをもらう権限をゲットすることができます。この権限をベビーレジストリーのページで有効化し、めでたくゲットした後、ウェルカムボックスの商品ページに行き、Amazonの商品購入と同じステップで購入する手続きをします。
有効化しないと、35ドルと販売価格が表示されたウェルカムボックスが無料になりません。


ベネフィットを得るためには、それなりに顧客にお金と時間を投資させ、かつ商品広告もしっかりとPRするAmazonのベビーレジストリーのデザイン、なかなかの曲者ですね。そして、このベビーレジストリーのリストから合わせて500ドル以上購入すると、出産後から1年間の特定のオムツの購入が20%ディスカウントを受けられるという追加のサービスがあるのです。
これは少しでもAmazonでベビーグッズを購入していたら、20%のオムツディスカウントをゲットするために、もう少しまとめてAmazonからベビーグッズを探して買おうかなと思わせる絶妙なオファー!行動経済学の損失回避の心理を巧みに操り、顧客への広告、購買の動線を巧妙にデザインし、購買に誘導するサービスデザインはさすがAmazonですね。


実際のギフトボックスの中身は、、、これもbabylistに負けず劣らずの充実した中身でした!送られてきた段ボールもなかなかの大きさです。

中身はこちらです。

写真:Amazonでもらえる、無料のwelcome boxギフト、筆者撮影

オムツやおしりふきのサンプルに加え、哺乳瓶、おしゃぶり、おくるみ(スワドル)、洋服の実物が入っており、確かに35ドルくらいに相当しそうです。10ドル必要なものを購入すると無料でもらえることに加え、複数のオムツのサンプルは、使ったことのないオムツの中でどれが自分の赤ちゃんにフィットするのかを試す良い機会になりますし、お得感が感じられる中身です。



赤ちゃんの出産は新しく購入しなければならないものもたくさんあり、ベビーグッズを取り扱う小売店やサービスプロバイダーにとってはまとまった消費が期待できる優良顧客を摑えることにもなります。
そしてその顧客が買いたいもの、欲しいものリストを公開し、情報共有してくれるわけですから、これはまたとないチャンスです。
効果的、効率的に広告を打つための顧客情報を獲得することにもなります。

顧客に登録させ、広告を見させ、商品を使わせる、または購入させるという一連の行動をAmazonがどうデザインしているのかを知る、考察することはサービスデザインのみならず、広告宣伝、PRにも有効でしょう。


Part2では、保険会社から無料で配布される搾乳機(ブレストポンプ)にまつわる体験をお伝えします。


Keep in Touch !

ビジネス、公的な活動問わず、アメリカのこれらの事例から何かのヒントがお届けできれば幸いです。みなさんからのコラムに関するご質問や、こんなことを聞いてみたい、知りたい!というリクエスト、叱咤激励などなど、24時間365日お待ちしております。ではまた次回コラムでお会いしましょう。

columnist
Aya Kubosumi ノマドマーケター



コニカミノルタ、大阪ガスで行動観察やユーザーリサーチに携わったのち、GOB Incubation Partnersを創業。夫の突然の転職に伴い、東京から3歳の娘と夫とともにNY(ニュージャージー)に移住。ノマドマーケターとして、NYの人々、もの、こと、を日々観察、体験したことを素材に、日本の商品開発マーケターの皆さんと共有したいインサイトを綴ります。

s.budo