NYノマド 第10回:赤ちゃん出産にみる、アメリカVS日本のサービスデザイン_Part2: 搾乳機(ブレストポンプ)編

19.11.14 11:43 AM By s.budo

保険会社から無料で配布される搾乳機(ブレストポンプ)の狙いは?

Part1でご紹介したベビーレジストリーに続いて、もう一つ無料で驚いたことと言えば、搾乳機です。


これは医療保険会社から出産予定日の1か月ほど前に届けられるもので、加入している医療保険会社やプランにより利用できる搾乳機や価格が異なりますが、アメリカの医療保険会社のほとんどは搾乳機を配布しているようです。

医療保険については今回のコラムでは詳説しませんが、日本のように国民健康保険、健康保険組合といった公的もしくは半公的な医療制度は高齢者や低所得者向けに一部存在するものの、多くの人は民間の医療保険に加入し毎月の保険料を支払うことで、医療サービスを受けた際に保険がカバーする範囲で自己負担額を支払うシステムになっています。


ちなみにアメリカの医療はかなりの高額で、例えば、生まれたばかりの私の息子がミルクアレルギーでERにお世話になり、さらに2泊3日入院したケースですと、様々な検査や入院費用、急患対応、投薬など含めて、病院からの総額請求は数万ドル(日本円でおよそ数百万円)!でした。


迂闊に病院にも行けません。


自分自身が少し体調を崩したという状態ではほとんど病院に行くことはありません、といいますか、いくら治療費がかかるかを考えるだけで行く気になれません。

もちろん、この全額ではなく、保険会社のプランにしたがって、例えば、総額の1割、2割といった自己負担額を支払います。

画像:筆者の保険会社を利用した場合の搾乳機のオプション案内のウェブページ

話が脱線してしまいました。本題の搾乳機です。

私が加入している医療保険では、妊娠して妊婦健診を受け、その医療機関からサインをもらい搾乳機をリクエストすると、加入しているプランで利用可能な無料もしくは有料の搾乳機製品情報が提供されます。
その中から好きなものを選び、医療保険会社に選んだ製品と送付先の連絡をするだけで、自動的に送られてきます。

申し込みはいたって簡単。
実際にこれらの搾乳機を購入する場合、全く同じモデルがなかったりしますが、およそ50ドルから150ドル程度、日本では同タイプの電動のダブルブレストポンプは5000円~数万円するようです。
何かと入用の妊婦にとって、使わない可能性もありますが、タダで搾乳機がもらえるのは有難い限りです。


では、なぜ、これらの搾乳機を保険会社は無料で妊婦さんに配布するのでしょうか。

全ての妊婦さんに搾乳機を無料で配ることは、保険会社にとってもそれなりのコストがかかると思うのです。
そこで、今回の出産でお世話になった、アメリカで開業されている日本人の助産師の先生にこの疑問をぶつけてみました!返ってきた答えは、



「医療費の抑制」



でした。
先生曰く、新生児の赤ちゃんは母乳を飲むとお母さんから免疫をもらうことができるので、病気に罹る機会を減らすことに繋がる。そして、新生児が病院にかかる機会が減らすことができれば、医療費を抑制することに繋がる。だから、母乳を赤ちゃんに与えることを推奨するために搾乳機を無料で配布するのだそうです。

なるほど、そういうことなんですね。確かに、私の新生児の息子が病院にかかった金額を考えれば、新生児医療のコストは小さいものではないことは容易に理解できます。
また、アメリカでは日本のように産休、育休が数ヶ月あるというケースは少なく、産後は早々にベビーシッターやデイケア、ナーサリーのような保育園にこどもを預けて仕事に復帰する女性も多いため、仕事に出ている日中も搾乳した母乳を与えることを推奨するという意図もあると思われます。
この搾乳機の無料配布はこうしたアメリカの社会的事情を反映しているのでしょう。
日本では育休制度がアメリカと比較して充実していたり、退職するなどして子育てに専念するママが比較的多いため、搾乳機を利用する機会がアメリカより少ないかもしれませんね。


「搾乳機、使わないかもしれないけど、無料なら、もらっておこうかな」とユーザーに思わせ、搾乳機申し込みの行動を促すのはまさにこれも"損失回避"の心理が働いているといえるでしょう。そして、実際に家に搾乳機があることで、搾乳機を使うという選択肢が生まれるとともに、使ってみようかなという考えがわいてきたりもします。
搾乳機メーカーにすれば直接消費者が購入するよりも、保険会社経由での販売市場が格段に大きく、こちらのビジネスモデルを考察してみると面白いかもしれません。


Part3では、今回のメインテーマである多様な医療サービスの体験についてお伝えします。

Keep in Touch !

ビジネス、公的な活動問わず、アメリカのこれらの事例から何かのヒントがお届けできれば幸いです。みなさんからのコラムに関するご質問や、こんなことを聞いてみたい、知りたい!というリクエスト、叱咤激励などなど、24時間365日お待ちしております。ではまた次回コラムでお会いしましょう。

columnist

Aya Kubosumi ノマドマーケター


コニカミノルタ、大阪ガスで行動観察やユーザーリサーチに携わったのち、GOB Incubation Partnersを創業。夫の突然の転職に伴い、東京から3歳の娘と夫とともにNY(ニュージャージー)に移住。ノマドマーケターとして、NYの人々、もの、こと、を日々観察、体験したことを素材に、日本の商品開発マーケターの皆さんと共有したいインサイトを綴ります。

s.budo