NYノマド 第12回価値の源泉を探しに -ダイバーシティ、ソーシャルインクルージョン、愛されるコミュニティ Part4 

20.01.21 03:52 PM By s.budo

Part4. 賛否両論、議論を巻き起こす~攻めるグリーン&動物愛護政策

多様性を体現する街、ニューヨーク。

力強い活動の中には、激しい議論を巻き起こしたり、ここまでやる?というような一見過激なものもあります。


例えば、動物愛護政策。

以前のコラムで猫の爪の除去手術を禁止し、違反した場合には約11万円の罰金を課す法案が2019年7月4日にニューヨーク市で可決されましたことをお伝えしましたが、グルメの都ニューヨークでフォアグラ禁止、2022年から罰金22万円を課するという法案が可決されました。
ニューヨーク市議会は10月30日、強制的に太らせたカモやガチョウの肝臓からとった高級食材フォアグラの販売・提供を禁じる法案を賛成多数で可決しました。

フォアグラの生産では、カモやガチョウののどにチューブを差し込み、飼料を強制的に流し込んで肝臓を肥大化させる「強制給餌」と呼ばれる飼育方法が主流で、動物愛護団体から残虐との批判が高まっていたことを受けるもの。

約1000店のレストランがフォアグラを使ったメニューを提供するニューヨーク、大きな影響を与えそうです。
大豆などで作られた植物性の代替肉のように、代替フォアグラが出てくるなど、新たなビジネスの香りも漂いますね。
人権問題かつ、動物愛護にも関連するのが、介助犬の入店拒否、レストランに罰金という話題です。


介助犬同伴の客の入店を拒んだのはニューヨーク市人権条例違反だとして、市行政判事はマンハッタン区で複数の飲食店を経営するベジム・クカジュさんに合計約690万円を支払うよう命じたそうです。


同氏が経営するメキシコ料理店で2017年7月、精神安定のために介助犬の同伴を必要とする男性が介助犬を連れて入店しようとしたところ、ウェイターに「犬の入店は禁止」と断られ、マネージャーには介助証明書を見せるように言われ、男性は屈辱を受け、立ち去ったというものです。


人権委員会のカーメリン・マラリス委員長は「動物に頼って生活する障碍者も含め誰もが尊厳を持って人生を送る権利がある」と述べたそうです(DAILYSUN NEW YORK, 2019年10月11日号)。


こうした司法判断にも、ニューヨークはあらゆる人に対して尊厳を持って接し、人生を送ることを支援するという姿勢を強く感じ取ることができます。

環境保護政策も一味違います。

ニューヨークのビル・デブラシオ市長は4月22日、市の包括的な環境保護政策(グリーン・ニュー・ディール)を発表。

「ワンNYC」と名付けられたこの政策は、エネルギー効率の悪い、昔ながらのガラスやスチール製の高層ビルの新たな建設を禁止、今後建設されるビルで、ガラス製の外壁を全面に設置する場合などに、厳格な基準を設けるものです。


同計画ではまた、市に既存する約5万棟の2万5000平方フィート(約2323平方メートル)以上の大規模ビル所有者に、エネルギー消費量および温室ガス排出量削減のための改良を義務付けます。


市によるとこうした規制は全米初。


民間のビル所有者は、2030年までに約30%の温室ガス排出量削減を義務付けられ、これを怠ったビル所有者は100万ドル(約1億1183万円)、大型ビルの場合はそれ以上の罰金が科せられるそうです。

ブラシオ市長は、

市で最も象徴的な建造物である高層ビルが、市での温室効果ガス排出の主な原因。抜本的な改革および5年以内の再生可能エネルギーへの切り替えが必要」

と主張しています。

こうした政策を受け、ニューヨーク州都市交通局(MTA)も操車場やバス車庫など所有する不動産の屋根部分を貸し出し、ソーラーパネルを設置する計画を発表したそうです。


地球温暖化対策の推進を目指した国際枠組みであるパリ協定からの離脱を表明しているトランプ大統領のアメリカとは真逆を突き進む、グリーン政策をがんがん推し進めるニューヨーク。


ちなみに、トランプ大統領は、ニューヨーク五番街にあるトランプタワーを自宅として登録していましたが、昨年フロリダに居住地を変更しました。

その際も、トランプ大統領が出て行ってくれてよかったとtweetするデブラシオ市長とTwitter応酬合戦を繰り広げておりました。

トランプ大統領の居住地変更は納税に関する問題が起因するようですが、これも、どんな街、コミュニティにしたいかを明確に発信し、政策を推し進めてきた結果の一つなのかもしれません(笑)。

今のは冗談ですが、こうした一見過激とも思えるような取り組みは、明確なスタンスを提示することで関わる人に問題提起し、そのスタンスへの問いかけをもたらします。

そしてそれが一人ひとりの問題意識を喚起し、アクションする人を増やすのではないかと思うのです。


イギリスでもエリザベス女王が今後動物の毛皮でできた洋服ではなく、人工毛皮を着用する決断をしたと報じられましたが、環境保護や動物愛護に対して、どのような思想を持ち、どのような姿勢で活動するのかは、個人や企業だけでなく、行政や地方自治体にもさらに明確なスタンスが求められるでしょう。


こちらに来てから、こうした出来事に触れ、経験するにつれ、日本のように、足並みそろえてそこそこ活動するだけでは、誰の支持も得られない日は近いのではないかと強く危機感を覚えます。

メッセージを発信し、体現し続ける街~アルコール広告禁止と寄付拒否

環境保護や動物愛護だけではありません。
既得権益やなれ合いの関係に対して、NOを唱え、関わるステークホルダーを選別することも厭わないのです。


ビル・デブラシオ市長は4月26日、酒類の宣伝広告を同市の所有物に掲示することを禁じる法案を承認しています。
同禁止条例の対象にはバス停やニューススタンド、公衆電話ボックス、Wi-FiリンクNYCのキオスク、リサイクルゴミ回収所などが含まれます。
酒類の広告は市内の全広告の3%を占め、市は2018年度、酒類の広告収入として270万ドルを受領していました。しかし同市衛生局によると、酒類広告が原因の若者の飲酒率は年々増加しており、同市長は「想像以上のニューヨーカーが物質使用の問題に陥っていることは言うまでもなく、そのうちのひとつが過剰飲酒である」と話し、アルコールの悪影響を軽減すべくこうした法案の承認にいたっています(週刊NY生活 2019年5月11日号)。

また、2019年に、ニューヨークのメトロポリタン美術館はサックラー家からの寄付拒否すると発表しました。


同家はオピオイド系鎮痛剤の蔓延の原因の一つとなった製薬会社パデューファーマを創業し、所有しています。


それに対して、すでにグッゲンハイム美術館やアメリカ自然史博物館も同様に寄付拒否をしていますが、メトロポリタン美術館も50年以上に渡って大口パトロンだったサックラー家からの寄付を拒否する決断をしたのです。



日本では安倍政権が首相主催の「桜を見る会」への反社会的勢力の参加問題を巡り、菅義偉官房長官が反社会勢力を限定的かつ統一的に定義するのは困難と言葉を濁し、その議論や問題提起を煙に巻いて消してしまいましたが、ニューヨーク市の酒類広告の禁止条例やMETのサックラー家からの寄付拒否といった既得権益やなれ合いに対して毅然とした態度で接している姿を見るにつけ、日本の現政権は既得権益にまみれたままという印象をぬぐえません


ニューヨーク市も、メトロポリタン美術館も、恐らく、これらの決定は莫大な金額の収入を失うものであったはずです。


しかしながら、目の前の利益に振り回されることなく、自社がステークホルダーや社会にもたらす影響と向き合い、自組織がどんな組織でありたいのか、どんなコミュニティや世界を作りたいのかを貫いた結果だと思うのです。


もちろん、批判やコンフリクトも多く生まれるでしょう。しかしながら、むしろ、健全かつ健康的なコンフリクトなくして、価値を生むエネルギーや、価値を磨く機会は生まれないのではないか、とこちらに来てから強く実感するのです。


こうした健全かつ健康的なコンフリクトを生む、オープンで多様なコミュニティが新たな価値を生み出す源泉になりつづけるのでしょう。

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ビジネス、公的な活動問わず、アメリカのこれらの事例から何かのヒントがお届けできれば幸いです。みなさんからのコラムに関するご質問や、こんなことを聞いてみたい、知りたい!というリクエスト、叱咤激励などなど、24時間365日お待ちしております。ではまた次回コラムでお会いしましょう。

columnist
Aya Kubosumi ノマドマーケター 


コニカミノルタ、大阪ガスで行動観察やユーザーリサーチに携わったのち、GOB Incubation Partnersを創業。夫の突然の転職に伴い、東京から3歳の娘と夫とともにNY(ニュージャージー)に移住。ノマドマーケターとして、NYの人々、もの、こと、を日々観察、体験したことを素材に、日本の商品開発マーケターの皆さんと共有したいインサイトを綴ります。

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