NYノマド 第12回価値の源泉を探しに -ダイバーシティ、ソーシャルインクルージョン、愛されるコミュニティ Part5 

20.01.28 01:40 PM By s.budo

Part5. 愛されるコミュニティの作りかた

どうやったら多様な人やステークホルダーが集まり、価値を生み出すコミュニティが作れるのでしょうか?
今回のコラムの最後に、そのヒントを探ってみたいと思います。


昨年10月27日、注目のスーパーマーケットがニューヨーク市ブルックリン区のネイビーヤードにオープンしました。


その名はウェグマンズ・フード・マーケッツ。
本社はニューヨーク州ロチェスター市で1916年に創業、現在東海岸に99のスーパーマーケットを持ちます。家族経営の会社で、2019年のある消費者調査では、「企業の評判」第1位にランク、昨年はフォーチュン誌が選ぶ「最も働きがいのある全米100社」第2位、21年連続で上位に選ばれ、客からも雇用される人からも人気が高い企業です。


新店舗の売り場総面積は7万4000平方フィート(約6900平方メートル)、「ヨーロッパの野外市場」をコンセプトに、通常のスーパーが4万品目を並べるのに比べ、5万点から7万点をそろえ、ヘルシー志向ニューヨーカーにあわせて約2万点はオーガニック食品を並べるといいます。

また、地元企業や農家などの商品を採用することも同社の特徴の一つだそう。

お惣菜も豊富にそろえ、同スーパーでお馴染みのレストランフードは、ステファン・デ・ルシア調理長率いるスタッフがバーガー、ピザ、サラダ、寿司などを並べ、セルフサービスのフードバーも。
中2階に食事と飲み物を提供するバーも併設、約100席を用意、ワインなどのアルコールも楽しめるようです。

初日は雨天で初日特売などもなかったにもかかわらず、故郷でウェグマンズに親しんできたファンや地元住民など、大勢の人が詰め掛けたとのこと。


アメリカでもスーパーと言えば、ヒスパニック系や移民系の従業員が比較的多く、雇用環境も劣悪と言われています。
そんな中で働きたい企業にも上位にランクインしている同社の経営のエッセンスや、雇用などのオペレーション面、そして場づくりを通してどのようなコミュニティを作ろうとしているのか、気になるところです。
きっと、顧客、従業員、そして地域に愛されるコミュニティをこの店舗が提供しているのでしょう。

それらを体感するためにも、また、顧客の様子やお店の動線、サービスデザインなどについても学んでみたいと思うスーパーの一つですので、実際に店舗を訪れて、またレポートさせていただきたいと思います! 

では、もう少し解像度を上げて愛されるコミュニティのデザインについて考えてみたいと思います。

私にはこちらに住んでから一年、ウェグマンズのようなお気に入りのスーパーがあります。


先月の半ばまで、新生児の子育てのサポートのために実母に2か月半ほどアメリカの自宅に滞在してもらっていたのですが、その期間中、近隣の様々なスーパーや小売店に一緒に行きました。

ホールフーズ、トレーダージョーズ、韓国系スーパーのHマート、日系スーパーのミツワ、ターゲットなどです。

その中で、母にどのスーパーがよいかと聞いてみると、トレーダージョーズと答えました。



同様に、友人知人にお気に入りのスーパーはどこかとよく質問するのですが、大多数の人から回答があるのが、トレーダージョーズです。

そして私もトレーダージョーズがお気に入りです。

同社は2018年アメリカの人気小売店のランキングdunnhumby Retailer Preference Index 2018においてAmazonやCostcoなどをおさえ、堂々の1位を獲得しています。

コラムでも植物性代替肉の回でトレーダージョーズの商品を紹介しましたが、オーガニック系のスーパーで、そのほとんどが自社のPBブランドで展開されています。

野菜や果物、そして一部の商品除くそのほとんど、80パーセントくらいでしょうか、がPB商品です。


このトレーダージョーズ、アジア系の加工食品も豊富で、冷凍食品には餃子やひじきと油揚げのチャーハンなどが並んでいたり、菓子類にはゴマおかきなんかもおいてあるのです。

噂によれば、おかきは亀田製菓が製造しているものだとか。


PB商品の仕入れ先の選定もなかなかセンスが光ります。

季節商品なども豊富で、冬のシーズンはホットチョコレートやココアのこんなドリンク商品なんかもあり、おしゃれさと、低価格さが魅力です。

毎週、なんらかの新商品が置いてあるので、お買い物に行くのがとても楽しみになります。商品展開、品ぞろえ、商品のクオリティはもちろんのこと、このトレーダージョーズ、それ以外にもたくさんの魅力があるのです。

画像(左):雪だるまのホットココア、 https://www.3newsnow.com/trader-joes-chocolate-snowman-makes-hot-cocoa/より引用

画像(右):ホットチョコレートスティック、http://www.crazyberel.com/tj19083/より引用

例えばエコバッグ。


再生プラスティックのものは一つなんと99セント!

布製のものは3.99ドル、

保冷バッグは6.99ドルという安さ!


しかも、なかなかおしゃれなのです。

画像:トレーダージョーズのエコバッグ( https://www.businessinsider.com/trader-joes-shopping-hacks-save-time-and-money-2018-2#bring-your-own-bag-5)より引用

ホリデーシーズンになると、このエコバッグ、なんとミステリーバッグというコンセプトで、アメリカ各州のデザインがランダムに3つ入って2.99ドルで売り出されます。

これがなんともデザインが楽しく、かわいいのです。

アメリカに遊びに来た日本人がトレーダージョーズのバッグを大量に購入してお土産に配るというのも納得できます。

トレーダージョーズでは環境への配慮から、買い物袋は全て紙製となっており、エコバッグを持参すると、レジで小さな紙切れとペンを渡され、「ラッフル(くじ引き)に参加する?」と聞かれます。

この紙切れに、自分の名前と電話番号を書いて、スーパーの入り口近くにあるポストに投函すると、毎週くじ引きがあり、私の近隣の店舗では2名当選します。

当選するとトレーダージョーズ商品がもらえるそうです。

私は当たったことがないので、なんとも言えませんが、これも、顧客に環境行動を後押しするとともに、楽しくエコができるという経験、そして何より、毎週トレーダージョーズに来てもらうきっかけづくりのデザインという複数の価値を提供している点が秀逸です。

ミステリーバッグセット(https://www.traderjoes.com/fearless-flyer/article/5222)より引用

そしてこうしたお店の環境やソリューションを生み出しているであろう、お店のスタッフが本当に感じがよい人ばかりなのです。

私の母はこのスタッフの人を中心としたお店の雰囲気がとても居心地がよいといいます。


品出しの人、レジの人、どの人も気さくな友人、知人やお隣さんのような程よい距離感で、お店で働いている姿がとても楽しそうなのです。

働いているスタッフは年齢、人種、性別もかなり多様です。


私もいろんなスーパーに行くのですが、トレーダージョーズのレジではレジ打ちと会計の間に店員さんと顧客が楽しそうに世間話する様子を毎回目にします。

スーパーだと、いらっしゃいませ、ありがとうございました、そして金額以外、ほとんど話をしないで終わることも多いと思うのですが、トレーダージョーズはなんだか一味違うのです

この店内に入ると、このコミュニティのメンバーになったような、そういった気持ちになるのです


それはなぜだろうかと考えながらトレーダージョーズのウェブサイトを眺めていたのですが、いくつかそのヒントが書いてありました。

トレーダージョーズの心のよりどころ、魂

まずお店のスタッフは従業員ではなく、Crew、Merchant、Mate、Captainと呼ばれているそうです。

Captainが店長でCaptainに近づくほど、職位が上がるようです。

この名づけも船の航海をモチーフにしています、なかなか素敵ですね。


そして、各スタッフの役割が記載されているウェブページをみると、明確にこのように書いてありました。

"The Crew is Trader Joe’s heart and soul. As a member of the Crew, you do a little of everything—and handle a lot. So does everyone along with you. Working the cash registers, receiving and unloading deliveries, stocking shelves, building displays, cleaning the floor, answering questions about Trader Joe’s products, and just generally making sure that every customer has a fun, friendly and informative shopping experience—that’s a little of everything. That’s a lot.

https://www.traderjoes.com/careers/meet-our-crew)"

クルーはトレーダージョーズの心のよりどころ、魂です。と冒頭に力強く書いてあります。

そしてクルーの仕事とともに、顧客が楽しく、フレンドリー、そして有益な買い物の経験ができるようにすることがクルーが行うことの全てですとあります。


さらに同社のウェブページの採用ページにはトレーダージョーズの文化が記載されています。

少し長いのですが、ぜひ皆さんと共有したいので、英文とともに意訳したものを提示させていただきます。

Culture:

We're flexible—our Crew determines their schedule availability. We don't believe you have to compromise important priorities in your life to be in ours. 

ー私たちは柔軟です、そして私たちのクルーが仕事のスケジュールを決めるのです。あなたの人生において大切なことを優先できるように。

  

We foster an environment that reflects the diversity of our neighborhoods to enhance the customer experience and benefit our Crew. 

-私たちは顧客経験や私たちのクルーのベネフィットを高めるため、私たちの地域の多様性を反映した環境を育成します。

  

We behave with integrity—we treat others as we would like to be treated. 

-私たちは誠実さをもって行動します。私たちは他者を私たちが接してほしいように接します。

  

We shun bureaucracy and advocate for decision-making to happen at our stores. 

-私たちは官僚主義を避け、私たちのお店で実現するための意思決定を支持します。

  

We value open and honest communication and are committed to listening to our Crew. Their ideas make us better. 

-私たちはオープンで実直なコミュニケーションに価値を置き、私たちのクルーを傾聴することを誓います。彼ら(クルー)のアイディアは私たちをよりよくします。

  

We structure our entire business around supporting the Crew Members at our stores, so they can earn the delight of our Customers. 

-私たちは、彼ら(クルー)が顧客に喜びや楽しみを生み出せるよう、私たちのお店でクルーメンバーをサポートするあらゆるビジネスを構築します。

  

It's simple, really. We believe that doing the right thing, as it relates to all Trader Joe's stakeholders—Crew, Customers, Vendors—is the right thing to do. And it starts with our Crew. 

-これは本当にシンプルなことです。私たちは正しいことをすることこそが為すべき正しいことだと信じています。全てのトレーダージョーズのステークホルダー、クルー、顧客、ベンダーが関わりあうように。そしてそれは私たちのクルーから始まります。

  

ー(https://www.traderjoes.com/careers

なかなか力強い、そしてとてもシンプルで親しみが持てる宣言だとわたしは感じます。

組織文化が醸成されていることが伝わってきます。

組織開発のケーススタディとしても参考になる企業ですね。


このように明確に、力強いポジティブな言葉でクルー=人が全ての価値の起点であり、コミュニティの源泉であることを宣言しています。

これによって、クルーは主体的に自らが中心となって、多様性を包含し、ポジティブで居心地の良いお店、コミュニティづくりに向かって行動していくことを促してくれます。

現場にいる人々が、自発的に他者のことを想い、ヘルシーなコミュニケーションとともに何らかの行動しつづけること


とてもシンプルですが、これによってトレーダージョーズは全米で最も好きな小売店ランキング1位を獲得したのだと思います。

Keep in Touch !

ビジネス、公的な活動問わず、アメリカのこれらの事例から何かのヒントがお届けできれば幸いです。みなさんからのコラムに関するご質問や、こんなことを聞いてみたい、知りたい!というリクエスト、叱咤激励などなど、24時間365日お待ちしております。ではまた次回コラムでお会いしましょう。

columnist
Aya Kubosumi ノマドマーケター
 

コニカミノルタ、大阪ガスで行動観察やユーザーリサーチに携わったのち、GOB Incubation Partnersを創業。夫の突然の転職に伴い、東京から3歳の娘と夫とともにNY(ニュージャージー)に移住。ノマドマーケターとして、NYの人々、もの、こと、を日々観察、体験したことを素材に、日本の商品開発マーケターの皆さんと共有したいインサイトを綴ります。

s.budo