NYノマド 第25回 コロナ禍の追い風を受けるコネクティッド・ホームフィットネス市場 Part2

21.02.15 05:09 PM By s.budo

ホームエクササイズマシンのイノベーター、Apple×Netflixーペロトンバイク

すでに前回のパートでご紹介していますが、今のアメリカのホームエクササイズマシン市場をホットにした立役者がペロトン社のペロトンバイクであると言っても過言ではありません。


ニューヨークベースのペトロン社、共同創業者であり、CEOのジョン・フォーレイ氏はバースデーパーティや結婚式などプライベートなイベントを企画運営するためのプラットフォームを提供するEviteや書店チェーンを展開するバーンズ・アンド・ノーブルなど様々な企業でのエグゼクティブ職を歴任した後、2012年にペロトン社を起業しています。


ペロトン社、今では顧客の経験、顧客ロイヤリティ、ブランド力の指標の一つであるネットプロモータースコア(以下、NPS)で、94というトップレベルのスコアを維持、インスタグラムではフォロワーが131.9万人という熱狂的なファンを持つホームフィットネス企業に成長しています。


このNPS、例えば、イーロン・マスク氏率いるテスラは97アップルは89スターバックスは77ですので、かなりの高スコアを獲得し、顧客ロイヤリティを確立している数少ない企業であると言えます。
画像:https://www.onepeloton.com/bikeよりスクリーンショット画像を引用
今では、ペロトンのマシンを持っていると、「すごい、いいね!」と言われるブランドに成長しており、熱狂的なアップルユーザーを生んだスティーブ・ジョブズ時代のアップルのホームエクササイズマシン版がペロトンと言われるほどです。


確かに、タブレット端末が接続されたバイクのフィットネス機器は現在1,895ドル(日本円で19万5千円弱)と決して安い金額ではありません。
そして、マシンに加え、契約世帯で家族メンバーがアクセスできるオンラインのトレーニングクラスが月々39ドル。


このサブスクリプションを支払って、バイクなどのマシンで専門トレーナーのオンラインクラスを受講したり、オンデマンドのトレーニングやエクササイズのコンテンツを見ながらエクササイズをします。
画像:https://blog.onepeloton.com/category/for-members/ よりスクリーンショット画像を引用
インスタグラムのフォロワーが131.9万人という数字にも表れていますが、トレーニングを提供するのはカリスマ化したインストラクターたちで、彼らが提供するオンラインのライブクラスは数千人で、参加者がリアルタイムに集い、トレーニングを行います。

その中で、他の参加者とトレーニングの順位を競い合ったり、お互いにフォローし合い、トレーニングの時間や消費カロリーといったトレーニング結果を共有したり、インタラクティブにコミュニケーションをかわすことができるSNSやコミュニティの機能が兼ね備えられています。


利益率の高いマシンというハードと、コンテンツのサブスクリプションフィーの組み合わせが収益モデルのメインとなっており、2020年度の決算で収益は18.26億ドル(日本円でおよそ1912.2億円)をたたき出しています。


そして、カリスマトレーナーを中心とした、オンラインとショールームなどで開催されるオフラインイベント等ででつながったコミュニティは2020年6月時点で310万人規模の世界最大級のオンラインフィットネスプラットフォームとなり、ペトロンのマシンとサブスクリプションサービス利用の離脱をがっちりと抑え込んでいます。

このペロトンはどのようにして生まれたのでしょうか。

彼のペロトン社を紹介するこちらのプレゼンテーション動画ではジョン・フォーレイ氏が誕生経緯について話しています。
独身時代は自分の時間を自由に使い、エクササイズや運動をして、自分のスタイルを維持していましたが、結婚し、子どもができ、独身時代のように自分一人の自由に使える時間がなくなり、エクササイズ習慣を持つことができなくなった自分と、同じ境遇だった奥さんのために作ったのがペロトンです。


ちなみに、フォーレイ氏の奥様もペロトン社のアパレル部門を率いており、公私ともにパートナーして活躍されています。


自分自身と妻という特定の、実在する一個人をターゲットに設定し、可処分時間が少なく、定期的なルーティーンのエクササイズ時間や習慣を持つことが難しいという課題を起点にこの製品サービスを開発しています。
そしてこのペロトンバイクなどのハードだけでなく、このエクササイズ習慣と体験を自分と同じような人に提供するため、ライブ動画のストリーミングや、エクササイズなどのレッスンのオンデマンド配信などのコンテンツを充実させ、フォーレイ氏は"フィットネスのネットフリックス"を目指したと言っています。


それだけではありません。教会やシナゴーグといった宗教的なコミュニティへの帰属が相対的に薄れつつある昨今、人々が人との繋がりや帰属心を充足させるコミュニティや時間を求めていると解釈し、なんと"宗教×コミュニティ"の要素をサービスに埋め込むことにしたのだそうです。


"ガイダンス、儀式、スピリチュアリティ、セレモニー、音楽、コミュニティ、帰属、内省"といった宗教コミュニティを構成するキーワードをペロトン流にデザインし、できあがったのが、カリスマインストラクターを中心としたコミュニティと、さらにそれが発展した熱狂的な会員同士が集まって一緒にエクササイズイベントを行ったりする"トライブ"です。


このコミュニティやトライブで、会員同士が繋がり、同じエクササイズやイベントに取り組み、励まし合ったりすることで、帰属心が構築されていくのでしょう。

ニューヨークなどの都市部で流行っていた、Corepower YOGACrossFitOrangetheory Fitnessといったブティック型ジムと言われる、特定のエクササイズに特化したジムも同様のコミュニティをテコに会員数や支持を増やしていましたが、コロナウィルスによるパンデミックでフィットネスジムの営業が制限され、苦戦している状況下、オンラインから自宅で繋がれるペロトンコミュニティの支持が伸びているのもうなづけます。

別のインタビュー動画でも、フォーレイ氏はこのパンデミックがペロトン社にとって、マネジメントや企業文化の観点ではチャレンジが多いが、セールスの観点ではかなりの追い風になっているとコメントしています。

同様に、ブティック型ジムが打撃を受ける中、職を失った魅力的かつ優秀なトレーナーたちが、このペロトン社のプラットフォームに活躍の場を求めてアクセスし、新たなエコシステムが生まれているのは言うまでもありません。

細部まで作りこまれたサービスデザインとブランディング

そして、「神は細部に宿る」という言葉がありますが、ペロトン社のカスタマージャーニーはまさに細部までデザインされています。


例えば、ペトロンバイクを購入すると、自宅にバイクが配送されますが、この配送サービスは運ぶだけでなく、ハードの設置、ソフトウェアやネットワークのインストールまで全てペロトン社のスタッフがやってくれます。


先のプレゼンでフォーレイ氏はこの配送サービスのスタッフを、"UPS(ユーピーエス)のカッコいいドライバーと、アップルストアのジーニアスバーのスタッフ"の2つの要素を兼ね備えた人ですと紹介されています。


UPSはフェデックスと並ぶアメリカの配送業者です。


そして、ペロトン社の製品を体験できるショールームはエクササイズウェアなども取りそろえ、ハイエンドブランドのブティックのようなちょっとラグジュアリーな体験を提供しています。


全ての顧客とのタッチポイントで、ペロトン社が目指す世界観、ブランドやサービスを体現するデザインを作りこんでいるのです。


ペロトン社は何を目指しているのでしょうか。それは、ペロトン社は体重を減らすことや、瘦せること、腹筋が割れたシックス・パックスのお腹になることを売っているのではなく、ペロトンを通じてフィットネスを生活習慣に取り入れることで、その人自身が、自分らしく、ハッピーでいることを提供することを目指しているとフォーレイ氏はインタビュー内で語っています。

このペロトン社が目指す世界観を実現するために、ハード、ソフト、トレーナー、コンテンツ、コミュニティ、サービス、ブランディングを統合的に構築し、絶え間なく具現化続けていることには本当に脱帽します。
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Aya Kubosumi ノマドマーケター

コニカミノルタ、大阪ガスで行動観察やユーザーリサーチに携わったのち、GOB Incubation Partnersを創業。夫の突然の転職に伴い、東京から3歳の娘と夫とともにNY(ニュージャージー)に移住。ノマドマーケターとして、NYの人々、もの、こと、を日々観察、体験したことを素材に、日本の商品開発マーケターの皆さんと共有したいインサイトを綴ります。