NYノマド 第8回:攻めるオンラインビジネス企業 〜顧客に響くデジタルとフィジカルな空間と経験(三章)

19.09.05 02:26 PM By s.budo

さて、第三章では、攻めているオンラインビジネス企業の筆頭である、Amazonによる、Amazon Goの店舗でショッピングをした私の体験をご紹介させていただきます。

未来のコンビニのようなお店

(Brookfield Place mall入口、筆者撮影)
(Brookfield Place mall入口、筆者撮影)

Amazon Goがニューヨークに初めてオープンしたのは、今年2019年5月7日、金融街とハドソン川の間に挟まれ、ワンワールドトレードセンターにも近いBrookfield Place mallというオフィス&商業コンプレックスの中です。


オフィスビルとしては、アメリカンエクスプレス社やタイム社などの大手企業が入居し、下層階にはフードコートやスターバックス、レストラン、Louis Vuitton, Gucciなどの高級ブランドや人気ショップが軒を連ねる施設です。


オープン前にAmazon GoのNY初出店について書かれた記事には、"未来のセブンイレブンのようなお店"という説明がありましたが、およそ120平米強のスペースに、日本のコンビニのような品揃えの店舗となっています。


現在ニューヨークには上記の店舗に加え、ロックフェラーセンターの近所などミッドタウンに2店舗ありますが、2021年までに3000店舗オープンする予定とも報道されています


今回はニューヨーク1号店であるBrookfield Place mallの店舗を訪問してきました。

Brookfield Place内にあるAmazon Goの店舗紹介ページには、


"ニューヨークミニッツ(ニューヨークの時間や変化の速さを表現する言葉)よりも素早く、たくさんのよい商品をゲットできるお店です!(中略)列なし、清算なし(本当ですよ)"


というキャッチコピーで店舗紹介がされています。地元ニューヨークの商品の取り扱いについても言及されています。
金融街で時間の寸分惜しんで忙しく働くビジネスマンやビジネスウーマン、トレンドや新しいものに関心のある人の興味を喚起しそうなメッセージですね。

では、私も早速入店してみたいと思います。
(画像:Amazon Goウェブサイトより)

改札のようなゲートがお出迎え、Amazon Go

(Amazon Go 入口、筆者撮影)
Brookfield Placeに入り、Amazon Goの場所を確認すると、2階のオフィスビル入り口付近にあるようで、ショップを通り過ぎ、オフィスのほうに向かうと、ありました。

"Amazon Go"!

スーツにシャツを着たオフィスワーカー、ビジネスマンが行き来するエリアで、日本にもオフィスビル内にコンビニがありますが、それと同じような雰囲気です。
(スマートフォンを片手に入店する人々、筆者撮影)

異なるのは店舗の入口。


電車や地下鉄のような改札ゲートが設置されており、ここにスマートフォンをかざして入退店するシステムになっています。

(Amazon Go入店用の個人バーコード、筆者アプリからキャプチャ)

具体的にはAmazon Goのアプリをスマートフォンで開き、自分の個人認証のためのバーコードを表示させ、改札の上部にある読み取り部分にかざします。


私が入店した当時は、Amazon Go専用アプリではなく、AmazonアプリにあるAmazon PrimeのページからAmazon Goのバーコードを表示させることができましたが、現在はAmazon Goアプリに移行しているようです

(入口のようす)
私も含め、初めて入店しようとする人は、自分のスマートフォンを片手に何をどうやって表示させたらいいのか、しばしおろおろしていました。
すると、入口にいるAmazon Goの店員さんがやってきて、親切に入店の仕方を教えてくれます。

ゲートにスマートフォンをかざして入店するのだなというのは直感的に分かるのですが、そのための情報(バーコード)はどこから入手するのか、できるのかが分からない人が多そうです。もちろん、入店にはAmazonの会員になっていて、決済情報などが登録されている必要があります。この時点で、高齢者の方やAmazon会員でない人が利用するハードルはかなり高く、顧客を選ぶお店ですね。




入店ゲートが2つ、退店ゲートが2つ、合計4つのゲートがあり、ゲートの外にはAmazon Goの店員が1人配置され、主に入店しようとするお客様の対応をしています。

オフィスビルにあることもあり、やはり顧客層はビジネスマン、ビジネスウーマンが目立ちます



オフィスビルにある日本のコンビニのような品揃え

ようやく入店ができ、一回りぐるっと店内を物色してみました。
店内は2×2の4列の棚が中央に設置され、囲むようにして冷蔵の陳列棚があります。さて、どんな品揃えなのでしょうか。


入ってすぐ右手には、パニーニなどサンドイッチやサラダ、寿司、デリなどの軽食の棚となっています。
レンジで温めるタイプのスープなどもあります。
寿司はロールを中心に、サーモン握りなどとのセットもありました。
サンドイッチの価格帯は3.99ドルから8ドル後半と、決して安くはありません。
日本のコンビニのサンドイッチの価格が恋しく思えます。サラダも4ドルから8ドル後半の価格帯、寿司は7ドルから14ドルほどの価格帯です。
日本と比較するとかなりの高額と言えますが、ホールフーズなど街中のスーパーやデリなどと変わらない値段です。

お昼を過ぎた時間帯での入店だったためか、サンドイッチの棚など、欠品も多くみられました。サラダや寿司よりもサンドイッチが売れていそうなことを鑑みると、片手でさっと食べられるランチの方が好まれるのかもしれません。


陳列棚はいたってシンプルで、店内同様、黒で統一され、日本のコンビニのように賑やかなポップもあまり見られません。商品とプライスタグのみ、余計な情報は一切なし。
何売り場なのかが分かるような表示と看板が上部にある程度です。

この辺りの店舗デザインは、とにかくAmazon Go のコンセプトでもある、合理性を追求したスタイルなのでしょうか。

エナジードリンクに朝食 ~ビジネスマン、ビジネスウーマン向けの品揃え

(ドリンクコーナー、エナジードリンクの品ぞろえが豊富!、筆者撮影)

ドリンクコーナーはソーダ、ジュースにお茶などももちろんありますが、目を引いたのはエナジードリンクの棚割りの多さ。


日本でもおなじみのレッドブル、モンスターなどが存在感を示しています。

日本でもエナジードリンクコーナーは増加していると思いますが、アメリカのオフィス街でも需要が高いのでしょう。


もちろん、コカ・コーラやペプシなどのソーダ類もかなり売れていました。

(ヨーグルトなどの朝食コーナー、筆者撮影)

朝食コーナーの棚もあり、ヨーグルト、シリアル入りのヨーグルト、ベーグルなどが陳列されていたようですが、売れているものも多く、棚が空になっています。


朝食用の商品の補充は午後の時間帯ではしないのかもしれません。

品切れになった棚に、品切れ中を表示するタグが置かれているのが分かりますが、このタグの表示のデザインは"SO GOOD, IT'S GONE"です。「大好評で品切れです」という感じでしょうか。

この表記もポジティブでいいなあと感じました。

以前のコラムでも紹介した、行動経済学の損失回避の心理をくすぐる表現ですね。


とてもシンプルな店舗ですが、店舗やサービスデザインの一つ一つの細かい点にAmazonのオンラインリテイルの経験やリソースがつぎ込まれてデザインされているのではと感じます。

個人向けだけでなく、オフィス向け商品の品揃えも

(牛乳からハムまで、筆者撮影)

ビジネスマン、ビジネスウーマン個人向けの需要に対応した商品だけでなく、オフィスや会社のイベントに対応したような商品も陳列されていました。


牛乳やアーモンドミルクなどのバックはオフィスのコーヒータイムなどに利用されたり、

(牛乳からハムまで、筆者撮影)

ハムやスモークサーモン、チーズなどのおつまみまで豊富にありますが、こちらはオフィスでカジュアルに軽く飲むようなイベントがあるときに登場しそうです。

(センターの陳列棚にはスナック、お菓子、洗剤などの消耗品なども、筆者撮影)

店舗内の壁周りは全て冷蔵系の棚となっており、食品類が陳列されていました。


中央の棚は通常の棚になっており、スナックやチョコレート、ガムなどのお菓子やドライフルーツなどがメインに陳列されていましたが、ほんの少しですが、オフィス生活に必要と思われる消耗品類も置かれていました。


洗剤、電池、ハンドクリーム、オーラルケア、薬品などです。

ミニマムな決済システムとオペレーション

(陳列棚を補充するスタッフ、筆者撮影)
私が訪問した際には店舗内に店員が3人いました。

一人は入口の顧客対応スタッフ、もう一人は、Amazon Goをオフィシャルに見学に来たと思われる人たちの説明スタッフ、そして商品補充スタッフです。

日常的に配置されているのは、顧客スタッフと商品補充スタッフの2名だと思われますので、このオペレーションも日本のコンビニに近いかもしれません。
(天井に設置されているカメラ、筆者撮影)

肝心の"No Line. No Check out."の仕組みですが、


バーコードを入口で読み取り、個人の入店を識別すると、あとは天井に設置されたたくさんのカメラが顧客のショッピング行動を撮影し、商品を手に取るとその記録データを元に購入の有無をカウントし、退店ゲートを出ると自動的に精算されます。


天井のカメラでは、来店客の行動を検知するモーションピクチャー、そして手に取った商品を特定するオブジェクト認識などの技術が導入されているようです。

(レジ袋類は紙バッグのみ、センターの陳列棚に設置されている、筆者撮影)

商品を5点以上など、かなり多く購入する人は少なく、多くても2-3点でしょうか。


レジ袋は陳列棚に設置された紙袋のみ。

たくさんの商品を買うような想定はしていないようです。


私がショッピング中も、お洒落なジャケットを着た若いビジネスウーマンがガムを棚から手に取り、ジャケットのポケットにポンと入れて颯爽と退店ゲートをくぐって去って行きました。


その後ろ姿を見て、新しいショッピングスタイル文化の息吹をつくづく実感したのでした。

(退店ゲート、筆者撮影)

私といえば、カゴもないので、Amazonのオリジナルチョコレートとドライフルーツを手に取り、しばらく商品を手に持ったまま店内をウロウロしましたが、天井のカメラで監視されているような雰囲気や、レジでの精算不要、レジ袋に入れてもらわずに退店するスタイルになんだか慣れず、落ち着かないような心持ちで、そわそわ、きょろきょろしながら退店ゲートを通り過ぎ、お店を後にしました。

レシートが約2時間後にメールで到着

退店後すぐに、決済のメールなどの連絡が来ると思っていたのですが、来なかったですね。。。

現在はAmazon Goのアプリだとすぐに来るのかもしれませんが、レシートがすぐに来ないので、いくらくらい買ったかが正確には分かりません。

レシートメールが送信された時刻を確認すると、入店したのが午後2時30分くらいでしたので、約2時間後にようやくレシート決済のメールが届いたことになります。
日本のスイカなどの電子マネーもそうですが、電子決済サービス系はいくら購入しようとしているのか、したのかを顧客が自らアクティブに確認しないと分かりませんので、このAmazonの決済レスショッピングもついつい買いすぎてしまうことが起きそうです。


レシートには、購入した商品や金額などの情報とともに、私の店内滞在時間も"TRIP TIME 8m 14s"と記載されています。購入商品や金額、滞在時間のログデータだけでなく、個人のショッピング行動全てがカメラで記録されているわけですから、どのような動線で顧客が滞在し、商品を手に取ったのかという具体的なショッピング動線のデータもAmazon側は入手していることになるでしょう。


そう考えると、リアルタイムかつ、かなり詳細な行動ログと写真データがAmazon側で分析され、活用され、店舗やサービスデザインに活用されているはずです。
(ショッピングレシートのメール)

さて、次回の最終章では、Amazon Go店舗のサービスデザインの総括、そして、オンラインリテーラーたちが今なぜ、実店舗を仕掛けているのかについて、二章のDirty LemonによるDrug Storeでの考察も踏まえて検討し、未来の店舗について思考を巡らせてみたいと思います。

読者アンケートご協力のお願い(終了)

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columnist

Aya Kubosumi ノマドマーケター


コニカミノルタ、大阪ガスで行動観察やユーザーリサーチに携わったのち、GOB Incubation Partnersを創業。夫の突然の転職に伴い、東京から3歳の娘と夫とともにNY(ニュージャージー)に移住。ノマドマーケターとして、NYの人々、もの、こと、を日々観察、体験したことを素材に、日本の商品開発マーケターの皆さんと共有したいインサイトを綴ります。

s.budo